刑法(不同意性交等罪)

不同意性交等罪(14)~「罪数の考え方」を説明

 前回の記事の続きです。

 この記事では、不同意性交等罪(刑法177条)の「罪数の考え方」を説明します。

「刑法177条1項の不同意性交等罪」と「刑法177条3項の不同意性交等罪」の罪数関係

 16歳未満の者に対して(刑法177条3項)、「刑法176条1項1号~8号に掲げる行為・事由その他これらに類する行為・事由」により「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」にさせ又はその状態にあることに乗じて、性交、口腔性交、肛門性交等をした場合は(刑法177条1項)、「刑法177条1項の不同意性交等罪」と「刑法177条3項の不同意性交等罪」は一罪となります。

不同意性交の回数と不同意性交等罪の成立個数

 同一被害者を数回にわたって不同意性交した場合には、反抗の時間的、場所的接着性など犯行の態様によって包括一罪と認められる場合と併合罪と認めるられる場合とがあります。

1⃣ 数回にわたる強姦(現行法:不同意性交)を包括一罪と認定した事例として、以下の裁判例があります。

名古屋高裁判決(昭和30年4月21日)

 3回にわたる姦淫を強姦罪(現行法:不同意性交等罪)の一罪と認定した事例です。

 裁判所は、

  • 3回の姦淫は、午後8時頃から午後9時頃までの短時間内の行為であり、最初から最後まで、被害者の畏怖状態が継続していて、これを利用して被告人が3回姦淫したことが認められるので、物理的に観察すれば、数回の犯罪行為が為されたように思えるが、時間的関係、場所的関係と被告人の意思、被害者の畏怖状態等を総合して、一罪と解するのが相当である

と判示し、3回の強姦(現行法:不同意性交)を包括一罪とし、1個の強姦罪(現行法:不同意性交等罪)が成立するとしました。

2⃣ 数回にわたる強姦(現行法:不同意性交)を併合罪と認定した事例として、以下の裁判例があります。

仙台高裁秋田支部判決(昭和29年2月2日)

 裁判所は、

  • 強姦罪(現行法:強制性交等罪)は犯人の性感を満足すると否とを問はず、暴行又は脅迫して婦女を姦淫する行為があれば直ちに成立するものであるから、たとえ同一人に対する場合であっても、その時及び場所の関係上行為と認められざる限り、1個の行為と認むべきではない
  • 原判決挙示の証拠によると、被告人が薪小屋においてAを姦淫後、しばらくして、同所から約150m離れた被告人自宅に連行し、更にAを姦淫したことが認められるから、これを2個の行為と認定したのは相当である

と判示し、場所と時間を異にする2回の強制性交は併合罪となるとし、2個の強姦罪(現行法:不同意性交等罪)が成立するとしました。

複数の共犯者による同一被害者に対する数回の不同意性交は、不同意性交等罪の一罪が成立する

 複数の共犯者が、同一被害者に対し、数回の不同意性交(いわゆる輸姦)を行った場合は、不同意性交等罪の共同正犯の一罪が成立する場合が多いです。

 参考となる判例として以下のものがあります。

最高裁判決(昭和24年7月12日)

 裁判所は、

  • 被告人らは、相被告人(共犯者)らと共謀して、同一機会にFを順次に強姦したのであるから、被告人らは自分の姦淫行為のほか、他の被告人らの姦淫行為についても共同正犯として責を負わなければならない
  • かような場合は、一人で数回姦淫した場合と同様、連続犯となるという考方もあると思われるが、数人が同一の機会に同一人を姦淫したのであっても、全体を単一犯罪と見られないことはない
  • 本体は連続犯と見るべきものであるとしても、結局一罪として処罰されることになるのであるから、原判決が単一罪として処罰したのと同一結果となるわけであって、原判決に影響を及ぼさないから、破棄の理由とならない

と判示し、各被告人に対し、強姦罪(現行法:不同意性交等罪)の共同正犯の一罪が成立するとしました。

被害者の人数に応じた個数の不同意性交等罪が成立する

 不同意性交等罪の保護法益は、個人的法的であり、一身専属性からして、被害者が複数の場合には、たとえ同一の機会・場所で犯されても、被害者ごとに不同意性交等罪が成立します。

 この考え方は傷害罪の場合と同様です(詳しくは前回記事参照)。

 参考となる裁判例として、以下のものがあります。

仙台高裁秋田支部判決(昭和34年8月19日)

 強姦を共謀した者が、二手に分かれて2人の婦女をそれぞれ別個の場所で強姦した事案につき、共謀共同正犯の成立を認め、2個の強姦罪(現行法:不同意性交等罪)が成立し、両罪は併合罪になるとしました。

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