少年法

少年事件(2)~「検察官送致決定(逆送)とは?」を説明

 前回の記事の続きです。

 この記事では「検察官送致決定(逆送)」について説明します。

「検察官送致決定(逆送)」とは?

 「検察官送致決定」とは、少年事件において、家庭裁判所が「保護処分」ではなく「刑事処分」が相当だと判断し、少年事件を検察庁の検察官に送る決定のことです。

 家庭裁判所が少年事件を検察庁に送致することを「逆送」と呼びます。

 検察庁に送致された少年事件は検察官によって起訴され、刑事裁判で刑罰が科される可能性があります。

 検察官送致決定には、

  1. 「刑事処分相当の検察官送致決定」…刑事処分相当を理由とするもの
  2. 「年齢超過の検察官送致決定」…年齢超過を理由とするもの(家庭裁判所の手続を進めるなかで少年の年齢が20歳に達したもの)

の2種類があります。

 家庭裁判所は、検察官送致決定を調査、審判の各段階で行うことができます(少年法20条23条1項19条2項23条3項)。

 検察官送致決定のできる事件は、公訴提起の可能な犯罪事件に限られ、ぐ犯少年の事件、触法少年の事件は対象外です。

【参考】犯罪を犯した少年の区分

 犯罪を犯した少年を以下の区分に分けて呼びます。

 少年法3条1項は、

次に掲げる少年は、これを家庭裁判所の審判に付する。

1号 罪を犯した少年

2号 14歳に満たないで刑罰法令に触れる行為をした少年

3号 次に掲げる事由があつて、その性格又は環境に照して、将来、罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をする虞のある少年

 保護者の正当な監督に服しない性癖のあること。

 正当の理由がなく家庭に寄り附かないこと。

 犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し、又はいかがわしい場所に出入すること。

 自己又は他人の徳性を害する行為をする性癖のあること。

と規定します。

 1号の「罪を犯した少年」を「犯罪少年」といいます。

 2号の「14歳に満たないで刑罰法令に触れる行為をした少年」を「触法少年」といいます。

 3号の少年を「ぐ犯少年」といいます。

 1~3号の少年を全体として「非行のある少年」(少年法1条)といいます。 

① 刑事処分相当の検察官送致決定(逆送)

1⃣ 家庭裁判所は、

  • 拘禁刑以上に当たる罪の事件

について、調査又は審判の結果、その罪質及び情状に照らして

  • 刑事処分を相当と認めるとき

は、決定をもって、これを管轄地方裁判所に対応する検察庁の検察官に送致しなければなりません。

 ただし、検察官送致決定のときに

  • 16歳に満たない少年の事件

は、検察官に送致することはできません(少年法20条23条1項)。

2⃣ 少年に対する公訴提起には、検察官送致決定が訴訟条件であり(少年法20条42条45条5号)、これを経ないで公訴を提起した場合、その手続は無効であり、公訴棄却の判決がなされ、訴訟が打ち切られることになります(刑訴法338条4号)。

3⃣ 刑事処分相当の検察官送致決定をする場合には、必ずしも親告罪における告訴の訴訟条件の具備を必要としません。

 これは、訴訟条件は、公訴提起の要件であるにすぎず、検察官送致決定後に補充することが可能であるためです。

 ただし、検察官が訴訟条件が補充できなかった場合は、検察官は再度、逆走を受けた少年事件を家庭裁判所の送致(再送致)することになります。

刑事処分相当の検察官送致決定の要件

 刑事処分相当の検察官送致決定をするための要件は、

  1. 少年が送致決定のときに16歳以上であること
  2. 事件が拘禁刑以上の罪に当たること
  3. 罪質及び情状に照らして刑事処分が相当であると認められること

の3つです(少年法20条)。

 ただし、18、19歳の少年(特定少年)については、法定刑が罰金以下の刑(法定刑が罰金、科料、拘留しなかない罪)に当たる事件であっても、家庭裁判所は刑事処分相当として検察庁に事件を送致(検察官送致決定)することができます(少年法62条1項)。

①「少年が送致決定のときに16歳以上であること」について

1⃣ 刑事処分相当の検察官送致決定は、送致決定のとき16歳に満たない少年の事件については行うことができません(少年法20条ただし書)。

 つまり、刑事処分相当の検察官送致決定は、16歳以上の少年に対してしか行えないということです。

2⃣ 年齢の基準時は検察官送致決定時です。

 つまり、犯行時に16歳未満(ただし、14歳以上:刑法41条)であっても、刑事処分相当の検察官送致決定に16歳に達していれば検察官に送致することができます。

 刑法上は、

  • 犯行時14歳未満の者は刑事責任無能者として刑を科さない(刑法41条

とし、少年法上では、

  • 検察官送致決定に16歳未満の者は絶対的に刑を科さない
  • 16歳以上20歳未満の者については相対的に刑罰を科さない

としています。

②「事件が拘禁刑以上の罪に当たること」について(対象事件)

 刑事処分相当の検察官送致決定ができるのは、犯罪が拘禁刑以上の刑に当たる場合でなければなりません(少年法20条本文)。

 拘禁刑以上の刑に当たるかどうかは、法定刑によって判断することになります。

 したがって、この検察官送致決定は、罰金刑以下の刑のみが定められている罪の事件では行うことができませんが、拘禁刑以上の刑に選択刑又は併科刑として罰金以下の刑が併せて規定されている罪の事件では行うことができます。

 罰金以下の刑に当たる罪の事件と、拘禁刑以上の刑に当たる罪の事件とが併合罪の関係にある場合には、各事件単位に要件があるかどうかを判断すべきなので、罰金以下の刑に当たる事件を検察官に送致することはできません。

 しかし、科刑上一罪の関係にある場合には、同時に送致できるとする見解が通説です。

③「罪質及び情状に照らして刑事処分が相当であると認められること」について

 刑事処分相当の検察官送致決定は、「罪質」及び「情状」に照らして刑事処分を相当と認めるときに行うものとされています。

 「罪質」とは、

  • 犯罪行為自体の当罰的特徴

をいい、

 「情状」とは、

  • 内心的・外界的行為環境(個人の行動に影響を与える内心・外部の要因や状況)の当罰的特徴

をいい、いずれも刑事法的概念です。

 このように罪質及び情状を刑事処分相当性の判断の基準としていることは、家庭裁判所の少年事件の終局決定(「少年院送致」「保護観察」「不処分」「審判不開始」など)が、一般には少年の人格の面を中心としてなされるのに対して、検察官送致決定においては、犯罪という行為の面を中心としてなされることを意味しています。

② 年齢超過の検察官送致決定

1⃣ 年齢超過による検察官送致決定は、

  • 調査、審判の過程で、少年事件を犯した本人が20歳以上で、審判条件が欠けていることが判明した場合に行われる形式的裁判

です(少年法19条2項23条3項)。

 この決定は実体的判断を必要としないので、送致を受けた検察官も起訴強制を受けず、一般原則にしたがって起訴猶予にすることもできます (刑訴法248条)。

2⃣ 家庭裁判所は、年齢超過による検察官送致決定をするに当たり、犯罪の嫌疑についでの認定をすることなく、年齢超過の事実のみを認定すれば足ります。

 たとえ嫌疑が全くないと判断しても検察官に送致すべきであるとする見解が一般的ですがが、犯罪の嫌疑があることは必要であるとする見解もあります。

3⃣ 観護措置(少年が逮捕・勾留されている状態)のとられている事件では、そのまま検察官に送致すると、観護措置が勾留とみなされるので、「罪を犯したと疑うに足りる相当な理由」の有無を判断する必要があり、これが認められない場合には、観護措置を取り消した上、事件を検察官に送致することになります。

次の記事へ

少年事件の記事一覧

少年事件(1)~「少年事件の刑事手続の流れ(警察から検察庁への事件送致、家庭裁判所から検察官への事件の逆送)」を説明

少年事件(2)~「検察官送致決定(逆送)とは?」を説明

少年事件(3)~「起訴強制とは?」「起訴強制の例外」「逆送事件の一部不起訴の可否」「強制起訴した場合の少年の弁護人」などを説明