ストーカー規制法

ストーカー規制法(2)~「『好意の感情』『怨恨の感情』を充足する目的とは?(2条柱書)」を説明

 前回の記事の続きです。

「好意の感情」「怨恨の感情」を充足する目的とは?(2条柱書)

1⃣ ストーカー規制法2条柱書にある「つきまとい等」とは、

特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し、2条1項1~8号の行為をすること

をいいます。

 簡潔にいうと、「つきまとい等」は、

  • 恋愛感情その他の好意の感情を充足する目的で2条1項1~8号の行為をすること

    又は

  • 恋愛感情その他の好意の感情が満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、2条1項1~8号の行為をすること

となります。

2⃣ 「好意の感情」とは、

  • 好きな気持ち
  • 親愛感

のことをいい、恋愛感情のほか、

  • 女優等に対する憧れの感情
  • 性的感情(「セックスしたい」など)

も含まれるものと解されています。

3⃣ 「怨恨の感情」とは、

  • 恨み、憎しみの感情

をいいます。

 「怨恨の感情」は、「好意の感情」が満たされなかったことに対する「怨恨の感情」であることから、

  • 自分の好意が相手方に受け入れられないためにその好意の感情が怨恨の感情に転化したもの

であることが必要となります。

4⃣ 「好意の感情」「怨恨の感情」は、不特定の者の中の一人に対して向けられた感情ではなく、

  • 特定の者に向けられた特別な感情

を抱いている必要があります・

 「好意の感情」「怨恨の感情」は、男女間に限って抱かれるものではありません。

 男性同士、女性同意の間でも「好意の感情」「怨恨の感情」は成立します。

5⃣ 「充足する目的で」とは、例えば、

  • 好意の感情が相手方に受け入れられること
  • 相手方が好意の感情に応えて何らかの行動を取ること

を望んで2条1項1~8号の行為を行うなど、「好意の感情」や「怨恨の感情」が充足される目的で2条1項1~8号の行為がなされることが必要となります。

「好意の感情」「怨恨の感情」の認定の考え方

 「好意の感情」「怨恨の感情」は、犯人(被疑者・被告人)の主張のみによって認定されるのではなく、

  • 犯人と被害者との関係性
  • ストーカー行為の態様
  • ストーカー行為に至る経緯

など客観的な事情も考慮した上で判断されます。

 したがって、犯人が「好意の感情」「怨恨の感情」はなかった主張しても(犯行を否認しても)、犯人の主張以外の様々な事情から、犯人は「好意の感情」「怨恨の感情」があったと認定される場合があります。

 この点に関する以下の裁判例があります。

東京高裁判決(平成15年3月5日)

 被告人の弁護人は、「被告人は、Bとの結婚を真面目に考えており、被告人との交際を避けていたBから、その理由等を直接確認し、事態を打開するためにメール等の送信を行ったもので、被告人にはBに対する恋愛感情又はそれが満たされないことに対する怨恨の感情を充足する目的は一切なかった」と主張し、恋愛感情充足目的を否認した事例です。

 裁判所は、

  • 被告人が捜査段階及び原審公判において、自分は今でもBに対する恋愛感情を持っていると認めていることを考慮すると、被告人が、Bに対する恋愛感情及びそれが満たされないことに対する怨恨の感情を充足する目的で、前記(1)ないし(3)の行為(※メール送信等)を行ったことが優に認められる
  • なお、被告人において、Bから交際を避ける理由等を確認し、事態を打開したいという気持ちがあったとしても、 そのような気持ちと前記のような目的を有することとは両立するから、その点は前記認定を左右するものではない

と判示し、被告人のストーカー行為は、Bに対する恋愛感情を充足する目的があったと認定し、ストーカー行為等の規制等に関する法律違反の成立を認めました。

神戸地裁判決(平成19年7月3日)

 被告人が、被害者である元妻に対して復縁を迫るためストーカー行為をしたなどとして起訴された事案で、被告人は「元妻の子供の様子を確認することが目的であった」と供述し、元妻に対する恋愛感情充足目的を否認した事例です。

 裁判所は、被害者(元妻)、被害者の父の供述を考慮した上、

  • 被告人の手帳の記載などによれば、元妻の子供の様子を気にかけていた面があることは否定し難いが、それは元妻に対し恋愛感情を有していることと両立し得る事情と解される

と判示し、被告人のストーカー行為は、元妻に対する恋愛感情を充足する目的があったと認定し、ストーカー行為等の規制等に関する法律違反の成立を認めました。

東京高裁判決(令和元年7月19日)

 裁判所は、

  • 所論(※弁護人の主張)は、「恋愛感情その他の好意の感情を充足する目的」は認められないとして、充足する目的と規定されている以上、単に恋愛感情その他好意の感情を有しているだけでは足りず、専ら恋愛感情その他好意の感情の目的を持って、行為におよぶことが必要であり、 他の目的と、恋愛感情その他の行為の感情が併存する場合、「充足する目的」に該当しな いと解すべきであるなどと主張する
  • しかし、ストーカー規制法に規定する、恋愛感情等を「充足する目的」とは、単に恋愛感情等を有しているだけでなく、相手方がそれに応えて何らかの行動を取ってくれることを望むことをいうのであり、この意味で、法が規定する恋愛等の感情があり、これを充足する目的があれば、他の感情が併存していようとも、当然に本罪の構成要件に該当すると解すべきである。所論がいうように、他の感情が併存した場合には、たとえ恋愛感情等があっても罪に問えないということは、同法の目的にそぐわず、その規定上も採り得ない独自の解釈であり、到底採用できない
  • 本件の各手紙の内容や、本件に至るまでの経緯等に照らせば、被告人が恋愛感情等を有し、これを充足すべく、窮状等を訴えたものと認定、評価できることは、原判決が適切に説示するとおりである

と判示しました。

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