刑法(贈収賄罪)

事前収賄罪(1)~「事前収賄罪とは?」「主体(犯人)」「故意(公務員となることの認識)」を説明

 これから2回にわたり、事前収賄罪(刑法197条2項)を説明します。

事前収賄罪とは?

 事前収賄罪は、刑法197条2項において、

公務員になろうとする者が、その担当すべき職務に関し、請託を受けて、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、公務員となった場合において、5年以下の拘禁刑に処する

と規定されます。

 事前収賄罪は、

公務員になろうとする者が、担当すべき職務に関して、賄賂を収受・要求・約束し、後に実際に公務員となった場合に成立する犯罪

です。

 事前収賄罪は、公務員になる前に賄賂を受け取る行為を処罰することで、将来の公務が歪められることを防ぐものです。

単純収賄罪との違い

 収賄罪の基本類型である単純収賄罪(刑法197条1項前段)との違いは、事前収賄罪は、

  • 主体(犯人)が「公務員となろうとする者」(まだ公務員になっていない者)

であり、

  • まだ公務員になっていない者が、公務員になる前に賄賂を収受・要求・約束した点

にあります。

 このほかの点は単純収賄罪と同じなので、このほかの点の説明は単純収受罪(1)~(22)をご確認ください。

受託収賄罪の主体(犯人)

1⃣ 受託収賄罪の主体(犯人)は、

  • 公務員となろうとする者

です(公務員の意義の説明は単純収賄罪(10)の記事参照)

 「公務員となろうとする者」からは、

単に公務員になろうという単なる希望を持つだけの者は除外

されます。

 法文上は、そのような者も入るように読め、また、なろうとする者であることについて、客観的な実現性が不要であるように見えます。

 しかし、公務員になろうとすることについて客観的な可能性がない限り、事前収賄罪の想定するような外部からの働きかけは有り得ませんし、あまりに不確実な可能性にすぎない者に対し刑事罰をもって臨む必要性もありません。

 したがって、「公務員となろうとする者」と認められるためには、

公務員になろうとすることが相当程度確実であり、その点が客観的に明らかにされていること

を要すると解されます。

2⃣ 現に公務員である者については、例えば任期満了直前でも事前収賄罪の主体にはなりません。

 この点に関し、次期も立候補予定の市長につき受託収賄罪とした判例があります。

最高裁決定(昭和61年6月27日)

 市長の再選後に担当すべき職務に関し受託収賄罪刑法197条1項後段)が成立するとされた事例です。

 裁判所は、

  • 市の発注する工事に関し入札参加者の氏名及び入札の執行を管理する職務権限をもつ市長が、任期満了の前に、再選された場合に具体的にその職務を執行することが予定されていた市庁舎の建設工事の入札等につき請託を受けて賄賂を収受したときは、受託収賄罪が成立する

と判示しました。

「公務員となろうとする者」の具体例

1⃣ 「公務員となろうとする者」とされ得る者として、

  • 公職の選挙の立候補者
  • 公職の選挙に当選し就任前の者
  • 公職に就任することを前提とした手続が採られている者

が挙げられます。

2⃣ 単なる立候補予定者といえども、現実にそのための準備行為をしている場合には、「公務員となろうとする者」に含まれるとされます。

 この点、市長選の立候補届出前の者であっても、立候補を決意してこれを表明し、選挙に向けての準備活動に入っているような場合は「公務員となろうとする者」に当たるとした裁判例(宇都宮地裁判決 平成5年10月6日)があります。

3⃣ 公職就任のための運動中ないし交渉中の者についても「公務員となろうとする者」に含まれると考えられています。

 しかし、担当すべき職務が明らかでないような場合には除かれることになります。

故意(公務員となることの認識)

 事前収賄罪は故意犯です。

 なので、事前収賄罪の成立が認められるためには、事前収賄罪の行為を実行する故意が必要になります(収賄罪の故意の基本的な説明は単純収賄罪(22)の記事参照)。

 事前収賄罪の場合は、

  • 公務員となること

の認識も必要となります。

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