刑法(贈収賄罪)

事前収賄罪(2)~「事前収賄罪の行為」「『担当すべき職務』とは?」「『請託を受けて』とは?」を説明

 前回の記事の続きです。

事前収賄罪の行為

 事前収賄罪は、刑法197条2項において、

公務員になろうとする者が、その担当すべき職務に関し、請託を受けて、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、公務員となった場合において、5年以下の拘禁刑に処する

と規定されます。

 事前収賄罪の行為は、

  • 公務員又は仲裁人となった場合に担当すべき職務に関して請託を受けて、賄賂を収受、要求、約束すること

です。

 賄賂の収受、要求、約束の意義は、収賄罪の基本類型である単純収賄罪と同じなので、単純収賄罪の以下の記事をご確認ください。

単純収賄罪(17)~収受とは?①「賄賂の『収受』とは?」「既遂時期」を説明

単純収賄罪(20)~「賄賂の『要求』とは?」「単純収賄罪(賄賂要求罪)」を説明

単純収賄罪(21)~「賄賂の『約束』とは?」「単純収賄罪(賄賂約束罪)」を説明

「担当すべき職務」とは?

 「公務員又は仲裁人となった場合に担当すべき職務に関して請託を受けて、賄賂を収受、要求、約束すること」における「担当すべき職務」とは

  • 公務員に就任した場合に担当することとなる職務

のことをいいます。

「職務」相当程度具体的でなけれならない

 この担当を予定されている職務と賄賂とは対価関係に立つ必要があります。

 そのため「職務」は、職務と賄賂との対価関係が明らかとなるように、相当程度具体性のあるものでなければなりません。

 少なくとも、単純収賄罪や受託収賄罪の職務と同程度の法的根拠と具体性が必要とされる考えられています。

公務員に就任したが、その職務を担当しなかった場合は事前収賄罪は成立しない

 公務員に就任したが、その職務を担当しなかった場合は、対価関係が存しないこととなるので事前収賄罪は成立しません。

 ただし、最初は別の役職に就任し、その後に事前収賄罪の目的となる職務に就いた時には、その時点で事前収賄罪が成立します。

事前収賄罪の目的の職務に就任した時点で事前収賄罪が成立する

 事前収賄罪の目的の職務に就任した以上、請託にかかる職務を現実に執行することは必要でなく、直ちに事前収賄罪が成立します。

「請託を受けて」とは?

 「公務員又は仲裁人となった場合に担当すべき職務に関して請託を受けて、賄賂を収受、要求、約束すること」における「請託を受けて」について説明します。

1⃣ 「請託」の意義は受託収賄罪と同じであり、

  • 公務員に対して、一定の職務行為を行うよう依頼すること

をいいます(より詳しくは受託収賄罪(2)の記事参照)。

 ただし、事前収賄罪は、請託を受けたことを犯罪の構成要件要素としており、この点が請託を受けることを単なる刑の加重原因としている受託収賄罪と異なります。

2⃣ 事前収賄罪について請託を受けることを要件としたのは、賄賂と職務行為との対価関係を緩やかにしすぎることからくる弊害を避けるためであると考えられています。

贈収賄罪の記事一覧