前回の記事の続きです。
第三者供賄罪の行為
第三者供賄罪(刑法197条の2)の行為は、
- 職務に関し、請託を受けて、第三者に賄賂を供与させ、又はその供与の要求若しくは約束をすること
です。
この記事では、「第三者」の意義を説明します。
「第三者」とは?
「第三者」とは、
- 第三者供賄罪の正犯以外の者
つまり、
- 第三者供賄罪の犯行を行った公務員とその共同正犯者(共犯者)以外の者
をいいます。
自然人に限らず、法人、法人格のない組織・団体や、教唆者、幇助者も第三者たり得ます。
「第三者」が共同正犯者(共犯者)である場合は第三者供賄罪は成立しない
「第三者」が現実に賄賂を収受したり、要求、約束したりしたとしても、その第三者が、第三者供賄罪を実行した公務員の共同正犯である場合には、第三者供賄罪は成立しません。
この場合、当該公務員と第三者には、受託収賄罪(刑法197条1項後段)の共同正犯が成立することになります。
「第三者」は、法人、法人格のない組織・団体もなり得る
1⃣ 「第三者」は、自然人に限らず、
- 法人
- 法人格のない組織・団体(地方公共団体、政党など)
も該当します。
第三者供賄罪が成立するためには、公務員がその職務に関する事項につき、依頼を受けてこれを承諾し、賄賂の供与者が第三者に供与した利益がその公務員の職務行為に対する代償たる性質を有すれば足りるので、第三者は個人たると地方公共団体その他の法人たるとを問わないものです。
ただし、例えば、自分と無関係な福祉団体に寄付させるなど、公務員に全く利益の享受がないことが明白な場合には構成要件的に賄賂と職務行為の対価関係に問題があり、賄賂性の認定が困難な場合は、第三者供賄罪は成立しない場合があります。
2⃣ 政治団体である政党も第三者になり得ます。
例えば、政党の議員が、所属の政党に賄賂を供与させた場合、第三者供賄罪が成立します。
政治資金名目、政治献金名目であっても、実質が賄賂である限り第三者供賄罪の成立を妨げません(政治献金と贈収賄罪の関係は単純収賄罪(6)の記事参照)。
判例
「第三者」が法人格のない組織・団体組合の事案で第三者供賄罪の成立を認めた以下の判例があります。
組合が第三者に当たるとした事例です。
裁判所は、
- 刑法197条の2の罪が成立するためには、公務員がその職務に関する事項につき依頼を受けこれを承諾したことを必要とし、第三者に供与した利益がその公務員の職務行為に対する代償たる性質を有することを要するものと解するを相当とし、右第三者のうちには地方公共団体その他の法人を含むことも当然でありこれを除外する理由はない
- 被告人はa町警察の警察署長であり犯罪の検挙、捜査及び検挙した被疑事件を検察官に送致する職務等を有するものであるが、判示被疑事件につきa町又はa町外b村A組合に寄付金をするから寛大に扱われたいとの依頼を受けてこれを承諾し、右町及び組合に寄付金名義で金員を供与させ、よって右被疑事件を検察庁に送致しなかったという趣旨であるから、贈賄者の供与した利益は賄賂性があり刑法197条の3、1項及び同法197条の2の罪が成立するものというべく
と判示し、加重収賄罪と第三者供賄罪が成立するとしました。
警察署が第三者に当たるとした事例です。
裁判所は、
- 警察署長に対し、その職務に関し請託をして、その警察署において使用する自動車の改造費用の負担を申込んだときは、その警察署は刑法第197条の2にいう第三者に当たる
と判示しました。
農業協同組合支部が第三者に当たるとした事例です。
裁判所は、
- 農業協同組合の支部が、独立の会計を有していることなどにより、独立の団体としての実質を具えているものと認められる場合には、その支部は、刑法第198条の2、第197条の5にいう第三者にあたるものと解される
と判示しました。
県陸運事務所が第三者に当たるとした事例です。
裁判所は、
- 熊本県陸運事務所長が自動車販売業者の自動車臨時運行許可申請に際し、申請者をして同事務所に対し、正規の手数料以外に事務所職員の交際費等にあてるべき金員を供与させ該申請を許可すれば、刑法第197条の2所定の第三者供賄罪が成立する
と判示しました。
第三者供賄罪の教唆者、幇助者も「第三者」になり得る
1⃣ 第三者供賄罪を実行した公務員を教唆した者(教唆者)、幇助した者(幇助者)も第三者供賄罪の「第三者」になり得ます。
2⃣ 「第三者」の行為が教唆犯、幇助犯を認定するにまで至らず、単に第三者供賄罪を実行した公務員の手足として賄賂を収受・要求・約束したにすぎない場合は、「第三者」とされた者に第三者供賄罪の教唆犯、幇助犯は成立しない上、第三者供賄罪を実行した公務員に対しては第三者供賄罪ではなく、受託収賄罪(刑法197条1項後段)が成立すると解されています。
第三者は公務員であってもよい
第三者が自然人の場合に、その者が公務員であってもよいです。
第三者供賄罪の実行者が公務員で第三者も公務員の場合とは、例えば、上司と部下の関係、同僚と同僚の関係が考えられますが、この場合、共同正犯や共謀共同正犯が成立する場合が多いと思われますが、理論上は第三者たり得えます。
第三者に公務員の家族の該当を認めた事例
第三者が公務員の家族の場合には、賄賂が公務員に対するものであることが通常は明らかであり、受託収賄罪が成立するにとどまる場合が一般的であると考えられます。
しかし、家族間の独立性は家族の事情によって異なるので、公務員が家族が第三者に該当し、第三者供賄罪が成立する場合もあり得ます。
この点につき、被告人の叔母を「第三者」とした以下の裁判例があります。
大阪高裁判決(平成21年4月10日)
信楽町の町有林売却を巡る汚職事件で、助役であった被告人が大津市の不動産業者から町有林の保安林の売却を速やかに受けたいとの請託を受け、同社が上記取り計らいを受けたことに対する謝礼と知りながら被告人の叔母が所有する不動産を高額で買い取らせ、時価との差額供与を受けさせ同代表者から同趣旨で現金の交付を受けたとして、第三者供賄及び受託収賄した事案です。
裁判所は、
- 本件は、滋賀県甲賀郡(以下略)(当時)の助役であった被告人が、不動産の売買、仲介等を業とする株式会社の代表者から、同町が所有する保安林(以下「本件町有林」という)の売却を速やかに受けられるよう有利かつ便宜な取り計らいを受けたい旨の請託を受け、(1)平成15年8月29日ころ、同社が上記取り計らいを受けたことに対する謝礼の趣旨のものであると知りながら、上記代表者をして、被告人の叔母が所有する土地建物(以下「本件不動産」という。時価4949万円)を9000万円で上記代表者が実質的に経営する有限会社に買い取らせて、叔母に時価との差額4051万円の供与を受けさせ、(2)同年9月上旬ころ、上記代表者から同趣旨で現金1000万円の交付を受けたという、第三者供賄及び受託収賄の事案であるが、原判決が(量刑の理由)で説示するところはおおむね相当として是認することができる
と判示しました
「第三者」となった者が、賄賂であることの知情を有している必要はない
第三者供賄罪の成立を認めるにあたり、「第三者」となった者が、賄賂であることの知情の有している必要はありません。
「第三者」となった者に賄賂性の認識がなくても、第三者供賄罪の犯行を行った公務員に対し、第三者供賄罪が成立します。
第三者は賄賂であることの情を知っていたか否かにかかわらず、第三者供賄罪を実行した公務員の支配下や影響下にあり、第三者に供与された賄賂がその公務員に何かの形で戻ることが通常と考えられます。
第三者供賄罪は、全く無関係な第三者であっても、犯罪が成立するという構成要件としており、第三者の賄賂であることの知情を必要としません。
第三者から第三者供賄罪を実行した公務員自身へ賄賂の利益が戻される必要はない
1⃣ 第三者供賄罪の成立を認めるにあたり、第三者から第三者供賄罪を実行した公務員自身へ賄賂の利益が戻される必要はありません。
理由は、公務員が、直接その賄賂によって利益を受けないとしても、請託を受けて第三者に賄賂を供与させたことをもって、公務員の職務の公正を害し、それに対する社会一般の信頼を失わせる結果を発生させているためです。
2⃣ 公務員が自身が賄賂の利益を受けるのではなく、第三者に賄賂の利益を受けさせるために、贈賄者にその第三者に賄賂を提供させる行為も、請託のある限り、第三者供賄罪の処罰対象となります。
この点に関する以下の判例があります。
裁判所は、
- 被告人はa町警察の警察署長であり犯罪の検挙、捜査及び検挙した被疑事件を検察官に送致する職務等を有するものであるが、判示被疑事件につきa町又はa町外b村A組合に寄付金をするから寛大に扱われたいとの依頼を受けてこれを承諾し、右町及び組合に寄付金名義で金員を供与させ、よって右被疑事件を検察庁に送致しなかったという趣旨であるから、贈賄者の供与した利益は賄賂性があり刑法197条の3、1項及び同法197条の2の罪が成立するものというべく
と判示し、加重収賄罪(刑法197条の3)と第三者供賄罪が成立するとしました。