刑法(贈収賄罪)

あっせん収賄罪(4)~「『不正な行為をさせるように、又は相当の行為をさせないように』とは?」を説明

 前回の記事の続きです。

「不正な行為をさせるように、又は相当の行為をさせないように」とは?

 あっせん収賄罪(刑法197条の4)は、

  • 公務員(あっせん公務員)が、請託を受け、他の公務員(職務公務員)をしてその職務上不正な行為をさせ、又は、相当な行為をさせないようにあっせんし、又はあっせんしたことの報酬として、賄賂を収受・要求・約束する罪

です。

 「不正な行為をさせるように、又は相当の行為をさせないように」の意義は、事前加重収賄罪と同じであり、事前収賄罪の「不正の行為をし又は相当の行為をしなかったこと」の概念を使役形にしたものにすぎませんので、事前加重収賄罪(2)の記事をご確認ください。

判例

 行為が「不正な行為をさせるように、又は相当の行為をさせないように」に該当するとして、あっせん収賄罪の成立が認められた事例として以下のものがあります。

最高裁決定(平成15年1月14日)ゼネコン汚職事件

 公務員が請託を受けて公正取引委員会の委員長に対し同委員会が調査中の審査事件を告発しないように働き掛けた行為について、あっせん収賄罪の成立を認めた事例です。

 裁判所は、

  • 公務員が、請託を受けて、公正取引委員会が私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律違反の疑いで調査中の審査事件について、同委員会の委員長に対し、これを告発しないように働き掛けることは、刑法(平成7年法律第91号による改正前のもの)197条の4にいう「職務上相当の行為を為さざらしむべく」あっせんすることに当たる

と判示し、あっせん収賄罪の成立を認めました。

 この判例では、

独占禁止法に違反する犯罪については、公正取引委員会が、検察官に告発するか否かの裁量権を有することから、告発をしないことが同委員会の裁量権の範囲を逸脱し、著しく不当であって職務上の義務に違反するにもかかわらず、告発をしないよう働きかけるのでなければ「職務上相当の行為を為さざらしむべく斡旋を為す」には当たらないのではないか、具体的には、「公正取引委員会が告発すべきものと思料される場合であっても告発しないように働きかけてもらいたい」旨のあっせんの請託があったか

が争点となりました。

 一審判決(東京地裁判決 平成9年10月1日)及び控訴審判決(東京高裁判決 平成13年4月25日)は、

あっせんの内容について、同委員会の調査の終了を待ってその結果次第でという条件付きで告発しないようにして欲しいと申し入れたものではなく、調査が完了しなくとも、むしろ、調査が完了しない前だからこそ、告発しない方向に調査自体を持っていってほしいと申し入れたものであり、このような働きかけを依頼したもの

と認定しました。

 これを前提として、控訴審判決は、

このような働きかけ自体が同委員会に対する不正な働きかけとして違法視されるだけでなく、準司法機関として、独占禁止法違反事件の調査及び告発に関する職務を独立して適正に執行すべき職責を有する同委員会委員長が、国会議員等の外部の者から不当な働きかけを受け、その働きかけに影響されて一定の企業に有利な職権行使をすることは適正な職権行使とはいい難く、違法視されるのであって、国会議員が一企業から賄賂を受けて同委員会委員長に告発を見送ることを強く働きかけることは、同委員会が独立して適正に職権を行使しないことを求めることにほかならない

として、あっせん収賄罪の成立を認めており、最高裁決定もこれを支持したものです。

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