これから7回にわたり、贈賄罪(刑法198条)を説明します。
贈賄罪とは?
贈賄罪は、刑法198条において、
第197条から第197条の4までに規定する賄賂を供与し、又はその申込み若しくは約束をした者は、3年以下の拘禁刑又は250万円以下の罰金に処する
と規定します。
贈賄罪は、態様に応じて、
- 供与罪
- 申込罪
- 約束罪
に細分されます。
収賄罪との関係(必要的共犯)
必要的共犯とは、
- 法律がもともと2人以上の行為者による犯罪実現を予定している犯罪
をいい、収賄罪(刑法197条)と贈賄罪はその代表例です。
例えば、収賄罪が成立すれば贈賄罪も成立する、収賄罪が成立しなければ贈賄罪も成立しないという関係が必要的共犯です。
贈賄罪の態様のうち、
- 「収賄罪の収受罪」と「贈賄罪の供与罪」
- 「収賄罪の約束罪」と「贈賄罪の約束罪」
とが必要的共犯の関係に立ちます。
これに対し、「収賄罪の要求罪」と「贈賄罪の申込罪」は必要的共犯の関係には立ちません。
参考となる以下の判例があります。
大審院判決(大正7年3月14日)
裁判所は、
- 賄賂収受罪の成立せざるときは、賄賂交付罪(※現行法:贈賄罪の供与罪)は成立せず
と判示しました。
大審院判決(大正9年12月10日)
裁判所は、
と判示しました。
大審院判決(昭和3年10月29日)
裁判所は、
- 賄賂収受罪成立せざる場合においては、賄賂交付罪(現行法:賄賂罪の供与罪)は成立せざるも賄賂提供罪(現行法:賄賂罪の申込罪)は成立を妨げず
と判示しました。
主体(犯人)
1⃣ 贈賄罪の主体(犯人)に特段の制限はありません。
個人であれば、公務員であると非公務員であるとを問いません。
例えば、
- 公務員の職務上の行為によって特別な便宜を与えられた者が利益を提供することが贈賄罪の要件となるものではい(大審院判決 大正15年8月30日)
- 会社や個人の使用人が会社や主人の利益のために、その会社等の計算において贈賄しても、その行為者に贈賄の刑事責任がある(大審院判決 昭和4年12月4日、大審院判決 昭和6年10月8日)
- 贈賄者に収賄者の職務権限に対応する何らかの義務があることを必要としない(最高裁判決 昭和35年12月13日)
とした判例があります。
2⃣ 贈賄者に完全な意思の自由がない場合も贈賄罪が成立します。
この点を判示したのが以下の判例です。
裁判所は、
- 贈賄罪における賄賂の供与等の行為には、必ずしも完全な自由意思を要するものでなく、不完全ながらも、いやしくも贈賄すべきか否かを決定する自由が保有されておれば足りる
と判示しました。
大審院判決(昭和10年12月21日)
恐喝の被害者といえども贈賄罪の主体たり得るとした事例です。
裁判所は、
- 水利組合の常設委員を選任するに際し、水利組合会議員が特定の常設委員候補者の推薦に同意する条件の下に、同議員間に金銭の供与を要求し、約束し、又はこれを授受するにおいては賄賂罪を構成すべく、該金銭供与の要求がたとえ恐喝により該要求に応じたるときといえども、意思決定の自由を抑圧されざる限り、贈賄罪の成立を妨げざるものとす
と判示しました。