刑法(贈収賄罪)

贈賄罪(7)~「贈賄罪と①公文書偽造罪、私文書偽造罪、②特別法違反罪との関係」を説明

 前回の記事の続きです。

 この記事では、贈賄罪(刑法198条)と

  1. 公文書偽造罪刑法155条)、私文書偽造罪刑法161条
  2. 特別法違反罪

との関係を説明します。

① 公文書偽造罪、私文書偽造罪との関係

1⃣ 加重収賄罪の贈賄罪の場合、不正行為の内容として公文書偽造罪が含まれている事案において、贈賄者について不正行為の内容となった公文書偽造罪の幇助教唆ないし共謀が存在するようなときには、「贈賄罪」と「公文書偽造幇助・教唆ないし共謀共同正犯」が成立し、両罪は観念的競合の関係になると考えられます。

 この点に関する以下の判例があります。

東京高裁判決(昭和41年3月10日)

 裁判所は、

  • 虚偽公文書作成、同行使の事実が加重収賄の事実のうち収賄の刑の加重をすべき原因たる不正行為事実に該当する場合には、その収賄と虚偽公文書作成、同行使の各事実は刑法第54条第1項前段の一罪として処断すべきで行為である

と判示しました。

大阪地裁判決(昭和40年12月13日)

 裁判所は、

  • 被告人Aは、 昭和35年4月以降、 大阪府南河内郡美原町北余部a番地所在の美原町農業委員会の主事として、農地法所定の農地の権利移動および転用申請や土地改良法所定の農地の交換分合申請の受理・審査および大阪府知事に対する進達ならびに登記申請手続等の職務に従事していたものであるが、 昭和38年3月中旬ころ、Yから、Yが父から相続した同町北余部b番の田ほか五筆の田畑および畦畔合計六反一畝三歩について、相続税・登録税等を免れるため、本来とるべき農地法3条の所有権移転許可申請手続をとることなく、土地改良法による農地交換分合によって所有権を取得したように手続をしてもらいたい、と請託されて、これをいれ、その報酬として贈与されるものであることを知りながら、 同年7月11日ごろ、同町北余部c番地のY方において、Yから現金3万円の供与を受けて自己の職務に関して賄賂を収受、よって、同月23日ごろ、前記農業委員会において、Yの前記農地については交換分合による所有権移転登記手続ができないのにかかわらず、ほしいままに、前記農業委員会会長F名義をもって大阪法務局美原出張所宛の右農地に関する土地改良事業交換分合登記申請書を作成し、その名下に同会長印を押なつして、公務員の押印ある公文書1通を偽造し、同日、同町阿弥d番地所在の右法務局出張所において、係官に対し、右偽造に係る登記申請書を真正に成立したもののように装って提出して行使し、同係官に同所備付の登記簿原本に交換分合によって右農地の所有権が移転した旨記載させたうえ、同所に備付けさせて、自己らの職務上不正の行為をし…

という犯罪事実を認定し、加重収賄罪によって犯した不正行為である公文書偽造罪、公正証書原本不実記載・同行使と事前加重収賄罪とは観念的競合になるとしました。

大審院判決(大正15年11月2日)

 担当公務員に贈賄して印鑑証明書の偽造を教唆した贈賄罪と私文書偽造罪刑法161条)の事案です。

 裁判所は、

  • Aを教唆して印鑑証明書を偽造せしめたると同時に他面には村長若しくは村長代理の名義をもって印鑑証明を為すの権限を有する村役場書記Aに賄賂を交付し、よって印鑑証明書の偽造、すなわち職務に関する不正の処分を為さしめたる者にほかならざれば、その処為は一個の行為にして二個の罪名に触るるもの

と判示し、贈賄罪と私文書偽造罪とは観念的競合になるとしました。

2⃣ 公文書偽造の行為が加重収賄罪の不正行為の内容になっていない場合は、「贈賄罪」と「公文書偽造幇助・教唆ないし共謀共同正犯」は併合罪となります。

 この点に関する以下の裁判例があります。

東京高裁判決(昭和28年11月28日)

 裁判所は、

  • 所論は原判決は、原判示第三事実と第六事実及び第五事実と第十事実において被告人T、同Mが公文書を偽造したことに関し収賄した事実につき、刑法第197条の3第2項を適用し加重収賄罪として処断するとともに右公文書の偽造の点についてもこれを別個の犯罪として処罰しているのであるが、刑法第197条の3第2項は、不正行為をしたことに関し収賄した場合にその収賄者を重く罰しようとする加重的規定であるから、苟もこれにより加重して処罰される以上、更に右不正行為につき処罰することは、同一事実につき重ねて刑罰を科することとなり、憲法第39条に違反するというのである
  • しかしながら、刑法第197条の3各項の加重収賄罪の規定が、これに対応する不正行為についての刑事責任を免責するものと解すべきでないことは、論をまたないところであるから、所論は採用することができない
  • なお、右不正行為と収賄との間には一所為数法(※観念的競合)又は手段、結果の関係も存しないから、これに対し刑法第54条を適用すべきでないことももちろんである

と判示しました。

3⃣ もっとも、加重収賄罪でなければ、公文書偽造罪(又は私文書偽造罪)の行為が不正行為の内容とならないので、贈賄者が公文書偽造罪の共同正犯(共犯)であっても贈賄罪と公文書偽造罪は観念的競合ではく、併合罪になると考えられます。

② 特別法違反罪との関係

 特別法違反の罪の幇助・教唆、共謀共同正犯などが、相手の加重収賄罪の贈賄行為の内容となっている場合には、「特別法違反の罪の幇助・教唆、共謀共同正犯」と「贈賄罪」の両罪が成立し、両罪は観念的競合になると考えられます。

 参考となる以下の判例があります。

最高裁決定(昭和46年12月2日)

 単純収賄罪と公選法旧200条2項、249条の特定寄附受領禁止罪とが観念的競合になるとした事例です。

 裁判所は、

  • 地方公共団体の議会の議員が、公職選挙法199条3項に規定する会社から、その職務に関し賄賂を収受する趣旨および同議会議員の選挙に関し寄附を受ける趣旨で、現金の供与を受けた場合には、刑法197条1項の罪および公職選挙法200条2項、249条の罪が成立し、両者は一所為数法(※観念的競合)の関係にある

と判示しました。

 この事例は単純収賄罪の事例ですが、単純収賄罪が成立するということは収賄罪の必要的共犯である贈賄罪も成立することとなり、贈賄者側には、贈賄罪と特定寄附受領禁止罪に対応する特別法違反罪が観念的競合として成立すると考えることができます。

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