窃盗罪㉚ ~「常習特殊窃盗と常習累犯窃盗の共通点」を説明~
前回の記事の続きです。
常習特殊窃盗と常習累犯窃盗の共通点
以下では、常習特殊窃盗罪と常習累犯窃盗罪のことを、常習窃盗といいます。
未遂軽減は適用されない
2条(常習特殊窃盗罪)、3条(常習累犯窃盗罪)で、「その未遂罪を犯したる者に対し刑を科すべきとき」と規定していることから、窃盗行為が未遂に終わった場合でも、未遂減軽により、未遂罪に適用する軽い刑を科すことはできません。
この点について、以下の判例があります。
東京高裁判決 昭和60年10月3日
第一審の判決で、常習累犯窃盗の罪を、窃盗行為が未遂であることを理由に、刑法43条を適用して未遂減軽したことに対し、高等裁判所の裁判官は、
- 常習累犯窃盗については、窃盗行為自体が未遂であっても、未遂減軽をすることはできない
- このことは、常習累犯窃盗の構成要件を規定した盗犯等の防止及び処分に関する法律3条、2条に照らし、明らかである
と判示しました。
累犯加重はできる
未遂軽減はできませんが、今回処断すべき罪と前科との間に刑法56条の累犯関係がある場合には、累犯加重(刑法57条)をすることができます(最高裁判例 昭和44年6月5日)。
常習性の認定は、自白だけではできず、補強証拠が必要である
受刑前科の存在、常習性は、常習累犯窃盗罪の重要な構成要件なので、その認定は、被告人の自白だけでは足りず、補強証拠が必要になります。
この点について、以下の判例があります。
東京高裁判決 平成2年5月10日
裁判所は、
- 前科及び常習性は、常習累犯窃盗の重要な構成要件となっているから、これを認定するにあたっては、刑訴法319条に従い、被告人の自白のほか、補強証拠の存在を必要とする
- そうしてみると、原判決は、被告人の自白を補強するに足りる証拠を挙示することなく、有罪の認定をしていることになり、これは刑訴法319条に違反するものである
と判示しました。
このことから、常習累犯窃盗罪の前科、常習性の認定は、被告人の自白だけでは足りず、前科調書や被告人の自白以外の客観的な証拠で証明する必要があります。
また、常習累犯窃盗罪を構成する個々の窃盗を認定するについても、当然、被告人の自白だけでは足りず、補強証拠を要します。
この点について、以下の判例があります。
東京高裁判決(昭和61年8月7日)
裁判所は、
- 常習累犯窃盗を構成する個々の窃盗行為を認定するには、被告人の自白がある場合でも、そのほかに各行為ごとに、これを補強する証拠を要する
- 原判決が、第3の事実について挙示する証拠は、被告人の自白のほかには、受刑の事実及び窃盗の常習性を証明する証拠にとどまり、個別的事実についての補強証拠足りうるものは掲げられていない
- そうすると、原判決は、第3の事実については、被告人の自白を唯一の証拠として有罪の言渡しをしたものであって、刑訴法319条2項に違反する
と判示しました。
数個の窃取行為があっても、それらは単純一罪(常習一罪)になる
常習特殊窃盗と常習累犯窃盗罪は、いわゆる集合犯であって、複数回の反復が構成要件上も予定されているので、数個の窃取行為があっても、それらは単純一罪(常習一罪)を構成します。
たとえば、3回の窃盗行為をしても、その3回は、常習的に行った窃盗一罪として認定されるということです。
犯行途中に、常習窃盗とは別種の確定裁判が存在する場合の罪数
常習窃盗の犯行途中に、確定裁判を経た罪が別種の罪である場合には、常習窃盗は2個に分割されず、常習窃盗はその確定裁判の後に終了したこととなって、常習窃盗とその確定裁判を経た罪とは、刑法45条後段の併合罪になりません。
この意味ついて、以下の例を用いて説明します。
R3.4.1 窃盗罪①を実行
R3.4.3 以前裁判にかけられた道路交通法違反の判決確定
R3.5.9 窃盗罪②を実行
R3.8.1 窃盗罪①と窃盗罪②を合わせて常習窃盗罪として裁判にかけられ、判決が言い渡される
上記の例の場合、これから裁判を行う窃盗罪①と窃盗罪②の間に、道路交通法違反の確定判決が挟まっています。
この場合、今回行った犯罪と犯罪との間に、過去に行った犯罪の確定判決を挟む状態であるため、刑法45条が適用され、窃盗罪①と窃盗罪②は、併合罪の関係になりません。
すると、窃盗罪①と窃盗罪②を合わせて懲役2年といった1個の判決を出すことはできません。
なので、この場合は、窃盗罪①につき懲役1年、窃盗罪②につき懲役1年というように、言い渡す刑を2個に分割して判決を出す必要があります。
これが併合罪の通常の考え方です。
しかし、常習窃盗のような常習犯の場合は、考え方が異なります。
常習窃盗は、窃盗罪①と窃盗罪②をひっくるめて1個常習窃盗の罪が成立するという考え方をとります。
つまり、犯行の開始日は、窃盗罪①の犯行に着手した日、犯行終了日は、窃盗罪②の犯行が終了した日となります。
考え方として、窃盗罪①と窃盗罪②を合わせて常習窃盗罪とした場合、窃盗罪①の犯行は、窃盗罪②の犯行が終了するまで終わっておらず、窃盗罪②の犯行が終わった時に、窃盗罪①の犯行も窃盗罪②の犯行に合わせて終了したと考えることになります。
この考え方を先ほどの例に落とし込むと以下のようになります。
R3.4.1 常習窃盗となる窃盗罪①を実行(常習窃盗としての犯行開始日)
R3.4.3 以前裁判にかけられた道路交通法違反の判決確定
R3.5.9 常習窃盗となる窃盗罪②を実行(常習窃盗としての犯行終了日)
R3.8.1 窃盗罪①と窃盗罪②を合わせて常習窃盗罪として裁判にかけられ、判決が言い渡される
そして、この時、常習窃盗となる窃盗罪①と常習窃盗となる窃盗罪②の間に、確定判決があるからといって、判決は2個に分割しません。
つまり、常習窃盗として窃盗罪①につき懲役1年、常習窃盗しての窃盗罪②につき懲役1年といった判決の出し方をすると違法判決になります。
この場合、窃盗罪①と窃盗罪②を1個の常習窃盗罪として、懲役2年といった1個の判決を出すのが適法になります。
この点については、以下の判例があります。
第一審で、常習特殊窃盗罪を分割して判決した点について、最高裁の裁判官は、
- 常習特殊窃盗罪について、数個の窃盗行為が常習としてなされた場合には、その全部は包括して一個の常習犯をなすものであり、その一個の常習犯の中間に別種の罪の確定裁判が介在しても、そのためにその常習犯が二個の常習犯に分割されるものではない
- そして右の場合一個の常習犯が別罪の裁判確定後に終了したのであるから、その終了時を基準として刑法45条の適用については、その常習犯は別罪の裁判確定後の犯罪と解するのが相当である
と判示し、第一審において、常習特殊窃盗罪の判決を分割した点を、常習犯の個数に関する法律上の判断を誤り、ひいて併合罪関係に関する法令の解釈を誤った違法があるとしました。
犯行途中に、常習窃盗とは同種の確定裁判が存在する場合の罪数
先ほどの例のように、犯行途中に、常習窃盗とは別種の確定裁判(道交法違反など)が存在する場合は、常習犯は二つに分割されません。
これに対し、確定裁判を経た罪が、常習犯と同種の確定裁判である場合(本来常習犯の一部を構成すべきものである場合)には、その確定裁判によって常習犯は二つに分割されます。
そして、確定裁判前の犯行は、確定裁判を経た罪と単純一罪の関係に立つから、既に確定判決を経たものとして免訴の判決を受けることになります。
他方、確定裁判後の犯行は、確定裁判を経た罪とは別罪を構成することになり、この犯行単独で常習窃盗して1個の判決が出されることになります(最高裁判例 昭和43年3月29日)。
今の説明を例にすると、以下のようになります。
R3.4.1 常習窃盗となる窃盗罪①を実行
R3.4.3 以前裁判にかけられた常習窃盗の判決確定
R3.5.9 常習窃盗となる窃盗罪②を実行
R3.8.1 窃盗罪②のみで常習窃盗罪として裁判にかけられ、判決が言い渡される(窃盗罪①は免訴)
また、この場合、確定裁判時の罪名は、窃盗幇助などの罪名でもよく、罪名が常習窃盗である必要はありません(上記最高裁判例 昭和43年3月29日)。