脳には、システム1とシステム2という二つの運転システムがあります。
システム1とシステム2という名称は、心理学者のキース・スタノビッチとリチャード・ウェストが提案したものです。
システム1の機能
意識と努力を使わずに、高速の自動運転で、印象・直感・意思・感触を絶えず生み出す脳の運転システムを、システム1と言います。
システム1の特徴は、高速の自動運転、努力不要、コントロール不能です。
誰しも、「ぎゃああっ!!」という叫び声が聞こえたら、びくっとして叫び声がした方に注意を向けます。
この反応がシステム1の動きです。
システム1の能力には、感情を掻き立てる反応や、動物に共通する先天的なサバイバルスキル(恐怖、不安などの本能に基づく行動)が含まれます。
あ い う え お
今、脳内で「あいうえお」と音声化したことと思います。
この動きもシステム1の動きです。
「あいうえお」という文字を目にしたら、瞬時に脳内で「あいうえお」と音声化してしまいます。
「音声化するな」と言われても音声化してしまいます。
このコンロトロール不能の自動運転がシステム1の特徴です。
システム2の機能
システム2は、システム1とは逆で、意識的に、注意力をもってじっくり考えるスピードの遅い脳の運転システムです。
システム2の特徴は以下のとおりです。
- 複雑な計算など頭を使わなければできない困難な知的活動を行う
- 何を考えどう行動するかを自分で決める意識的で論理的な思考を行う
- システム1の自由奔放な衝動や連想を抑える(自制する)
- 怠け者という性格を備えており、必要以上の努力をやりたがらない
たとえば、「ぎゃああっ!!」という叫び語が聞こえ、びくっとして叫び声がした方向に注意がいくのはシステム1の働きです。
そのシステム1の働きに対し、「あえて叫び声がした方を見ない」という意志力を用いた反応を行うのがシステム2です。
システム2は、システム1の直感的な早い思考とは違い、有意識の状態で注意力をもって熟考するシステムです。
熟考により、システム1の直感的で速い思考をコントロールする働きもします。
システム1とシステム2の関係
システム1が生み出す、印象・直感・意思・感触が正しければ、人は、システム1の反応に従って行動します。
しかし、システム1が困難に遭遇し、早い思考ができなくなると、システム2が応援に駆り出され、問題解決に役立つ綿密で的確な処理を行います。
たとえば、計算を例にあげると、
2×2=4
はシステム1の運転のみで完結します。
しかし、
259×297=?
という問題がだされると、注意力がどっと高まり、システム2が動員され、深い思考を開始して答えを出しにかかります。
このように、システム1とシステム2は、システム1では答えを出せないような問題が発生したときに、システム2が動員され、問題の解決にあたるという関係にあります。
いいかえると、システム1が認知負担を感じたときに、システム2を呼び出され、気楽で直感的なやり方から、より真剣で分析的なやり方に移行するという動きが脳内で起こります。
システム1とシステム2の違いを決定づける特徴
システム1とシステム2の違いを決定づける特徴は、
働かせるのに、
- 努力を要するか
- 努力を要しないか
という点です。
システム1は、努力なしで動いてくれるので楽です。
しかし、システム2は、運転に努力とエネルギーを要するので、しんどいのです。
そのため、システム2は怠け者という性格を備え、必要以上の努力をやりたがりません。
たとえば、「勉強はしんどいからやりたくない」という気持ちはシステム2の性格がもたらしています。
システム1は疑わず、簡単に信じる
システム1は、物事に対し、意識して疑ってかかるというレパートリーがありません。
疑いを抱くためには、相容れない解釈を同時に思い浮かべておく必要があり、そこには知的努力を必要とします。
直感的・無努力の早い思考をするシステム1にとって、知的努力は守備範囲外です。
そのため、意思決定にシステム1が動いた場合、物事を疑わず、簡単に信じます。
疑ってかかるのは、システム2の守備範囲になります。
システム2が忙しいと何でも信じる
疑ってかかり、信じないと判断するのは、システム2の仕事です。
ですが、システム2が別の件で知的努力をしていて、忙しかった場合、システム2でも、ほどんど何でも信じてしまいます。
心理学者ダニエルギルバードの実験
被験者に「ディアンカは炎である」などの意味の成り立たない文章を見せ、それらの文章が正しいか、間違いかを問います。
一部の被験者は、ずっといくつかの数字を覚えておくように指示されます。
結果、数字を覚えておくよう指示された被験者は、意味の成り立たない間違った文章を、正しい文章と判断すること多くなりました。
数字を覚えているせいで疲れ切った被験者は、間違った文章を正しいと考えるようになったということです。
システム2が忙殺されることで、間違った文章を「信じない」ことが難しくなる現象が起こりました。
たとえば契約書
システム2が忙殺されて、何でも正しいと判断してしまう良い例は、契約書です。
難しい用語が連発する文字壁の契約書を見ると、ほとんどの人が「大丈夫だ、この契約書の内容は正しい」と信じます。
これは、難解な用語でシステム2が忙殺されるためです。
悪い話ですが、他人を信じさせたければ、難解な用語を連発して、相手のシステム2を忙殺するのがひとつの有効な手段になります。
振り込め詐欺がこれです。
振り込め詐欺は、「子どもが事故に遭った」などの気が動転するような話をして、相手を混乱させることにり、相手のシステム2を忙殺させ、話を信じ込ませていきます。
まとめ
私たちの脳は、システム1で直感的な判断をし、システム2で自制的判断を行うという運転システムになっています。
システム1・システム2という概念を知ることによって、日常生活において、自分の脳の使われ方を客観視できるようになります。
たとえば、
「今、システム1を使ってスラスラ仕事ができた。」
「問題が複雑なためシステム2が動いている。だから、しんどい。」
など、自分の脳の運転状況を把握できたりします。
追記
システム1とシステム2は、脳の運用における仕組みを分かりやすく認知するための用語です。
どちらのシステムも脳のどこかに属しているわけではありません。