後知恵バイアスとは?
人の脳は、過去における自分の理解の状態や、過去にもっていた自分の意見(今は変化してなくなっている自分の意見)を正確に再構築できないことが分かっています。
新たな世界観を獲得したとたん、その直前まで自分がどう考えていたのかを、ほとんど思い出せなくなってしまいます。
そのため、結果が明らかになった後は、今までの自分の意見は棚に上げて、「私もそうだと思っていた」と言い出したくなる心境に陥ります。
後づけで、自分が過去にどう思っていたかの記憶を改変してしまうのです。
この心理作用を「後知恵バイアス」といいます。
後知恵バイアスの例
スポーツを見る側の人は、後知恵バイアスに陥りやすいです。
サッカーを例に挙げます。
サッカーのワールドカップでは、代表監督は、敗戦続きの結果を出せば、マスコミやSNSで叩かれ、退任に追い込まれます。
戦術が悪い、選手交代のタイミングが悪いなど、外野から好き放題言われます。
しかし、勝利の結果を出せば、マスコミやSNSから、「やってくれると思っていた!」「戦術や、選手の起用の仕方がすばらしい!」などと賞賛されます。
この「やってくれると思っていた!」が、後知恵バイアスの発現です。
スポーツを見る側の人 ー特に、そのスポーツが好きで勝利を期待する人ー は、勝利を期待しつつ、負けた時に精神的ダメージを受けたくないので、「どうせまた負けるんだろ?」と思ったりします。
しかし、いざ勝利の結果を現実に目の当たりをすれば、「どうせまた負けるんだろ?」などと思っていたことは、すっかり忘れ去ります。
そして、「きっと、やってくれると思っていた!」という風に、認知が上書きされます。
後知恵バイアスは、認知的錯誤である
サッカーの例のように、人は、実際に事が起きてから、それに合わせて過去の自分の考えを修正する心理傾向をもっています。
この心理傾向は、強力な認知的錯誤(勘違い)を生みます。
後知恵バイアスは、認知的錯誤ともいえます。
後知恵バイアスの発動後は、最初の信念の再構築が難しい
後知恵バイアスにより、人が信念や考えを変えると、最初の信念や考えを再構築(思い出す)することが難しくなることが実験で分かっています。
実験内容
被験者に、意見が対立するような問題(たとえば、死刑の是非)を提起する。
被験者に意見を確認する(被験者が最初にどんな意見をもっていたのかを、後から確認できるように、しっかりと確認する)。
次に、被験者に説得力のある 死刑賛成論 または 死刑反対論 を聞かせ、その後に、再び意見を確かめる。
すると、被験者の意見は、説得力のある説に近づいていることが多かった。
最後に、被験者に、最初に自身が抱いていた意見は、どんなものだったかを報告してもらった。
実験結果
被験者にとって、最初に抱いていた意見がどんなものだったかを報告する作業は、難しい作業であることが分かった。
多くの被験者は、最初に抱いていた意見をなかったことにしようとした(自分は最初から今と同じ意見だったという認知にすり替えた)。
最初の意見を再構築するように指示された被験者は、最初の意見を再構築せずに、今の意見で間に合わせた(もともと今の意見だったと考えた)。
人は過去の意見を忠実に再現できない
人は、過去の自分の意見を忠実に再現できません。
これは、後知恵バイアスの影響です。
人の脳は、現実第一主義であり、今の意見が重要なのであって、過去の意見は重要ではありません。
今の意見が、これからの行動の道しるべになるため、大切なのです。
今の意見とは異なる過去の意見に対し、関心を向ける必要性は乏しいです。
そのため、過去の意見はボヤっとしていきます。