人が何かをしようとするとき、その動機付けの鍵となるのは、
快楽への接近
か
危険の回避
のどちらかになります。
人間には、快楽へ接近する本能と、危険を回避する本能がプログラムされおり、いずれかの動機に基づいて行動するようにできているからです。
これを「接近と回避の法則」といいます。
今回は、『快楽への接近』について書きます。
(なお、「接近と回避の法則」については、【接近と回避の法則】人間は「快楽への接近」と「危険の回避」の二択が行動の動機になっているで詳しく書いています)
快感回路
人が快楽・快感を感じることができるのは、脳の中の
快感回路(報酬系)
が刺激されたときです。
快感回路は、解剖学的にも、生化学的にも明確に定義される脳回路です。
旅行、テレビゲーム、はたまたギャンブル、薬物など、快感に向かう行動をすると、内側前脳快感回路(ないそくぜんのうかいかんかいろ)と呼ばれる脳領域への終息する神経信号が生み出されます。
そして、内側前脳快感回路の中にある神経細胞(ニューロン)が刺激され、快楽物質であるドーパミンが分泌されることで、快感を感じることができます。
人間の快感は、内側前脳快感回路の中にある神経細胞(ニューロン)の塊の中で作られているのです。
低次元の欲求(衣食住など)から高次元の欲求(娯楽、自己実現など)まで、あらゆる行動が快感回路の刺激を求めて繰り出されます。
私たちは、自分の快感回路を刺激するために、日々、懸命に行動しているわけです。
快感回路の存在を明らかにした実験
快感回路の存在を明らかにしたのは、カナダのマギル大学の研究員だったピーター・ミルナーとジェイムス・オールズです。
ミルナーとオールズは、ラットの脳に電極を差し込み、脳を刺激する実験を行いました。
そこで発見されたのが快感回路です。
快感回路を電極で刺激されたラットは、1時間に7000回ものハイペースで、快感回路を刺激してもらえるレバーを押し続けました。
しかも、ラットは、
- 食べ物や水、発情期のメスを無視してレバーを押し続ける
- 子どもを産んだメスのラットは、子どもを無視してレバーを押し続ける
- 足に電気ショックを受ける場所があっても、そこを何度も踏み越えてレバーのところまで行く
- ラットによっては、24時間レバーを押し続ける
といったレバーに対する驚異的な執着をみせました。
ちなみに、ミルナーとオールズの実験ではないですが、脳に電極を差し込む実験は、人間を使っても行われており、人間にも快楽回路があり、電極の刺激で、人の行動に影響を与えることができることが分かっています。
(今は道徳的な問題で、人間の脳に電極を差し込む実験はできないようですが…)
快楽回路と薬物
電極を埋め込んだラットに、少量の覚せい剤やコカインを与えると、快感回路が刺激され、レバーを押す回数が増えます。
つまり、覚せい剤やコカインなどの薬物は、脳の快感回路を刺激し、ドーパミンを分泌させ、人に快感を与えるというのが効用なのです。
人は、体内に摂取するだけで、簡単に快感を作る出せる薬物に依存してしまうのです。
薬物が作り出す快感から抜け出せなくなってしまえば、薬物依存者・ドーパミン中毒者となります。
代表的な薬物といえば、違法なもので
覚醒剤、ヘロン、コカイン、大麻
合法なもので、
アルコール(酒)、ニコチン(たばこ)
があげられます。
酒とたばこがやめられない人がいますが、それは、酒、たばこが依存性のある薬物の類のものであり、快楽回路を刺激して、快感を与えてくれるものだからです。
人は、気持ちのいいことは、やめられないのです。
依存リスクは薬物によって異なる
薬物によって、依存リスクの高い薬物と、依存リスクの低い薬物があります。
この差が、違法薬物か合法薬物かを線引きしている部分であると思います。
- 覚醒剤
- ヘロイン
- コカイン
は、依存症のリスクが大きい薬物とされます。
理由は、快感回路を強く刺激し、大量のドーパミンを分泌させる薬物だからです。
これに対し、
- 大麻
- アルコール(酒)
- ニコチン(たばこ)
は、依存リスクが比較的小さい薬物とされます。
理由は、快感回路をそれほど刺激せず、ドーパミンの分泌が大量ではない薬物だからです。
ちなみに、大麻の依存性は、酒やたばこと同列です。
このため、日本では、大麻は違法薬物ですが、カナダやアメリカの一部の州では、合法薬物になっています。
こういった理由から、「日本でも大麻は合法にしてもよいのでは?」と主張する人もいるのです。