刑法(事後強盗罪)

事後強盗罪(11) ~他罪との関係「事後強盗罪と窃盗罪、強盗未遂罪、強盗致死傷罪、公務執行妨害罪との関係」を判例で解説~

 事後強盗罪(刑法238条)と

  • 窃盗罪
  • 強盗未遂罪
  • 強盗致死傷罪
  • 公務執行妨害罪

との関係について説明します。

窃盗罪との関係

 事後強盗罪と窃盗罪(刑法235条)との関係について説明します。

事後強盗罪が成立する場合、窃盗罪は成立しない

 事後強盗罪は、窃盗犯人が暴行又は脅迫を行った場合に成立するものなので、事後強盗罪が成立する場合、窃盗罪は、事後強盗罪に吸収されて別罪を構成しません。

 この点について判示した以下の判例があります。

大審院判決(明治43年11月24日)

 この判例で、裁判官は、

  • 刑法第238条は、窃盗(窃盗犯)が同条所定の行為を為したるときは、強盗としてその罪を論ずべき旨を定めたるものにして、単純なる窃盗の加重情状に関する規定にあらず

と判示し、事後強盗罪を行った場合には、窃盗罪は別罪として成立せず、事後強盗罪のみが成立するとしました。

強盗未遂罪との関係

 窃盗既遂の段階に至るも、なお引き続き財物を物色中に発見された窃盗犯人が、財物を奪取しようとして暴行を加えたが未遂に終わったような場合には、窃盗既遂と強盗未遂を包括し、強盗未遂罪(刑法236条刑法243条)の一罪が成立します。

 この点について判示した以下の判例があります。

東京高裁判決(昭和28年10月23日)

 窃盗の目的で住居に侵入し、金品を窃取した後に家人に発見され、強盗の意思をもって家人に暴行、脅迫を加えたが、財物を強取できなかった事案について、包括して強盗未遂罪の一罪が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 証拠によれば、被告人は、窃盗の目的で、J方屋内に侵入し、同家応接間で、目覚時計1個、離れの部屋で現金700円をそれぞれ窃取した後、同家女中部屋に至りたるところ、同所に就寝中の女中Hに発見されて、Hに対し、「強盗だ」「金を出せ」等と申し向け、脅迫し、剰さえ、同家ありあわせのネクタイ2本でHの手足を縛るの暴行に出でたが、Hに「主人夫妻が向こうで裸で寝ている」と言われたことが動機となって、何物も強取するところなく、ただ、先に窃取した物品を所持して逃亡した事実が窺い得られる
  • その態様において、被告人は、窃盗の後、家人に発見されるや、強盗の意思をもって金品を強取しようとしたが、その目的を遂げるに至らなかった強盗未遂の場合に該当する

と判示し、強盗未遂罪の一罪が成立するとしました。

大阪高裁判決(昭和33年11月18日)

 上記判例と同様の事案で、裁判官は、

  • 刑法第236条に、いわゆる強盗の罪は、暴行又は脅迫の手段をもって、他人の財物を強取す ることにより成立するものであるから、たとえ犯人において犯行に先だち、暴行又は脅迫の手段をもって他人の財物を強取するの意図があったとしても、犯行に際しては、現実に暴行又は脅迫の手段を加えないで、他人の財物を単に窃取したに止まる場合には窃盗罪を構成するのみで、強盗罪は未だその着手があったものとは認められない
  • また、いわゆる居直り強盗、すなわち、犯人が財物を窃取した後、引き続き犯行の現場において強盗の犯意をもって、同一被害者に対し、暴行又は脅迫の手段を講じて、更に財物を強取しようとしたが、遂げられなかった場合には、窃盗の既遂罪と強盗の未遂罪とを包括的に観察し、単に重い強盗の未遂罪のみによって処断すべきである
  • かかる場合に、犯人の動機、目的、窃盗の既遂行為、引続く暴行又は脅迫の手段による強盗の未遂行為等、一連の行為態様を包括的に観察し、強いて強盗既遂の一罪を認めようとする見は当裁判所の採らないところである
  • 何となれば、先きの窃盗行為には、未だ暴行又は脅迫の手段を用いていないし、また、後の強盗行為によっては、未だ他人の財物を強取してはいない
  • 後の暴行又は脅迫行為が窃盗の時期に遡ってあったものとし、先の窃盗の既遂をもって後の強盗の未遂をその既遂に擬制するが如きは、理論上到底許されないことであるからである
  • 今、本件につき、これを観るに、原判示第一の事実は、被告人は金品を窃取する目的で、その際、場合によってはその家人を威して金品を奪い、または逮捕を免れるために使うべく、包丁1本を携えて、被害者方に入り、現金約450円及びたばこ20個位を盗み、更に被害者Bを威して現金を出させる目的で、寝ていたBに対し、所持していた携帯電燈を照らし、包丁を突き付けて「金を出せ」と言い、Bと一緒に寝ていたC、DのうちCが逃げ出るや「騒ぐと殺すぞ」と言ってBを脅迫したが、続いて他の二人も逃げ出したので、被告人は前示金品を取っただけで同家から逃げたというにある
  • その事実は窃盗罪の既遂と強盗罪の未遂とを包括的に観察し、重い強盗罪の未遂をもって処断すべきである

と判示しました。

強盗致死傷罪との関係

 事後強盗罪の暴行により人を死傷させたときは、刑法240条の強盗致死傷罪のみが成立します。

 この点について判示した判例があります。

大審院判決(明治43年4月14日)

 この判例で、裁判官は、

と判示し、刑法240条の強盗致死傷罪の強盗は、刑法238条の事後強盗罪の強盗を包含しており、事後強盗をして相手に致死傷を負わせた場合は、刑法240条の強盗致死傷罪のみが成立するとしました。

大審院判決(昭和6年7月8日)

 この判例で、裁判官は、

と判示し、刑法240条の強盗致死傷罪の強盗は、刑法238条の事後強盗罪の強盗のほか、刑法239条の昏酔強盗罪の強盗も包含しており、事後強盗又は昏酔強盗をして相手に致死傷を負わせた場合は、刑法240条の強盗致死傷罪のみが成立するとしました。

大審院判決(大正15年2月23日)

 この判例で、裁判官は、

  • 窃盗犯人が罪跡隠滅する目的をもって人を殺害したるときは、たとえ財物を得ざりし場合といえども、強盗をもって論ずべきものにして、刑法第240条の強盗致死罪を構成するものとす

と判示し、殺害行為を事後強盗罪を成立させる暴行と認め、死亡の結果が生じているので、事後強盗罪ではなく、強盗致死罪が成立するとしました。

公務執行妨害罪との関係

 事後強盗罪と公務執行妨害罪刑法95条1項)との関係について説明します。

 窃盗犯人が、逮捕を免れるために警察官に暴行を加え、傷害を負わせた場合は、事後強盗罪(致死傷の結果が生じた場合には強盗致死傷罪)と公務執行妨害罪が成立し、両罪の関係は観念的競合になります。

 事後強盗罪と公務執行妨害罪が別罪として成立するのは、各罪が保護法益を異にするためです(事後強盗罪の保護法益→人の身体・財産、公務執行妨害罪の保護法益→公務の円滑な執行)。

 参考となる判例として、以下のものがあります。

大審院判決(明治43年2月15日)

 逮捕を免れるために、警察官を死傷させた行為について、裁判官は、

  • 窃盗犯人が、警察官の逮捕を免れるため、暴行を加えて創傷を負わせれば、公務執行妨害罪と強盗致傷罪とが成立し、両者は観念的競合となる

としました。

最高裁判決(昭和23年5月22日)

 この判例で、裁判官は、

  • 被告人が、窃盗をした際に、巡査Aの逮捕を免れるため、匕首で巡査Aの右大腿部を突き刺し、巡査Aに傷を与えた事実を確定しながら、これに対し、刑法準強盗傷人罪(強盗傷人罪)の規定だけを適用し、公務執行妨害罪に関する刑法第95条の規定を適用しなかった
  • これは確定したる事実に対して刑法の正条を適用せざる違法というべきである
  • しかしながら、原判決の確定したところによれば、本件被告人の準強盗傷人(強盗傷人罪)の所為と、公務執行妨害の所為とは、刑法第54条第項前段にいわゆる「一個の行為にして数個の罪名に触れ」る場合にあたるのであるから、同条および同法第10条の規定に従って重き準強盗傷人(強盗傷人罪)の罪の刑によって処断されるべきである

と判示し、窃盗をした際に、警察官による逮捕を免れるため、警察官に傷害を負わせた行為について、強盗傷人罪と公務執行妨害罪の観念的競合により処断するのが正しい判断であるとしました。

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