刑法(事後強盗罪)

事後強盗罪(2) ~「事後強盗罪における暴行・脅迫行為の目的(①窃取した財物を取り返されることを防ぐ、②逮捕を免れる、③罪証を隠滅する)」を判例で解説~

事後強盗罪における暴行・脅迫行為の目的

 事後強盗罪(刑法238条)が成立するためは、窃盗犯人が以下の①~③の3つ目的のいずれか一つを持って、暴行・脅迫を加えることが必要になります。

  1. 財物を得て、これを取り返されることを防ぐ目的
  2. 逮捕を免れる目的
  3. 罪証隠滅する目的

 つまり、事後強盗罪は、窃盗犯人が上記①~③の目的をもって暴行・脅迫を加えることを構成要件要素とし、これを充足する行為については強盗(刑法236条)として刑法上取り扱うこととすべく設けられたものとなります。

『① 財物を得て、これを取り返されることを防ぐ目的』とは?

 まず、「財物を得て、これを取り返されることを防ぐ目的」とは、

他人の占有侵奪して事実上自己の占有下にある財物を、被害者側に取り返されるのを阻止しようとする意図のこと

をいいます。

 したがって、窃盗の実行に着手して他人の財物に手をかけようとした場合のように、未だ財物を奪取したとはいえない段階で家人などに発見されたが、その財物などを奪取してしまうため、家人に暴行・脅迫を加えてその反抗を抑圧し、結局、財物を奪取したというような場合(いわゆる「居直り強盗」)は、財物を得てこれを取り返されることを防ぐ目的での暴行・脅迫とはいえないので事後強盗罪に当たらず、刑法236条の典型的な強盗罪に当たります。

 なお、犯人において、①のような目的を持っていればよく、暴行・脅迫の相手において、現に犯人が財物を取り返す意図を有していたかどうか、また、その意図を持って現に取り返そうとして何らかの行動に出ていたかどうかは問いません。

 つまり、①の目的があったかどうかの認定は、犯人の主観だけが問題とされることになります。

『② 逮捕を免れる目的』とは?

 次に、逮捕を免れる目的とは、

窃盗未遂又は既遂の行為者が、被害者などから取り押さえられて身柄を拘束されるのを阻止しようとする意図のこと

をいいます。

「逮捕を免れる目的」に関する判例

犯人が逮捕を免れるために暴行を加えた相手が、犯人を逮捕する意思を有している必要はない

 「逮捕を免れる目的」による事後強盗罪の成立を認めるに当たり、犯人において「逮捕を免れる目的」を有していればよく、その目的のために行われた暴行・脅迫の相手において、現に犯人を逮捕する意図を有していたかどうか、その意図を持って現に犯人を取り押さえようとして、何らかの行動に出ていたかどうかは問われません。

 この点につき判示した以下の判例があります。

最高裁判決(昭和22年11月29日)

 この判例で、裁判官は、

  • 刑法第238条の規定は窃盗が財物の取還(しゅかん)を拒み、又は逮捕を免がれ、若しくは、罪跡を隠滅するため、暴行又は脅迫を加えた以上、被害者において財産を取還せんとし、又は加害者を逮捕せんとする行為を為したと否とにかかわらず、強盗をもって論ずる趣旨であると解するのが妥当である

と判示しました。

「逮捕を免れる目的」で暴行を加える相手は、騒ぎ立てることで人を呼び、犯人の逮捕可能性を高める者でもよい

 窃盗犯人が、他人に犯行を見られたのに気づき、犯行を目撃した者が騒ぎ立てて、ついには逮捕されるに至ることをおそれ、これを阻止しようとして、犯行を目的した者に対し、暴行・脅迫を加えた場合でも、逮捕を免れる目的に基づいて行われた事後強盗となります。

 この点について判示した以下の判例があります。

仙台高裁秋田支部判決(昭和30年5月17日)

 この判例で、裁判官は、

  • 窃盗犯人が現場において発見せられ、発見者自身から逮捕されるのを免れる目的で、同人に対し、逮捕の攻撃力を抑圧するに足る暴行を加える場合が準強盗罪(現行法:事後強盗罪)の成立する普通の事例といえるのであるが、発見者自身による逮捕を免れるため、同人に暴行を加える場合でなく、発見者が騒ぎ立て、この結果、他人から逮捕されるのを免れるため、発見者に対し、同人が騒ぎ立てることを不可能ならしめる暴行を加えた場合についても、その暴行が社会通念上一般に発見者自身から予期される逮捕行為を抑圧するに足る程度のものである限り、準強盗罪(事後強盗罪)の成立あるものと解するを相当とする
  • 被告人は、S方において、現金等を窃取した後、さらに喫煙用のマッチを窃取しようとした際、誤って就寝中のM子の足元につまづいたため、この衝撃により、M子が頭をもたげ、起き上る様子をしたので、M子から発見されたと思い込み、M子が起き上り、大声を発して騒ぎ、一旦出るときは、別室に就寝中の家人らが馳せ来て、同人らから逮捕されるのを免れるため、とっさにM子の右側に身を倒して、その身体を押えつけると共に、両手でM子の口辺りを強く圧して暴行を加え、M子が起き上ることも、大声を発して騒ぎ立てることも不可能ならしめ、右暴行により、M子の上口唇部に全治まで約3日を要した挫傷を与えた事実を認めることができ、右暴行は社会通念上一般にM子が逮捕行為に出たであろう場合において、M子の逮捕の攻撃力を抑圧するに足る程度のものとみるを相当とするから、右被告人の所為は、準強盗致傷罪(捕捉説明:事後強盗罪の致傷罪→強盗致傷罪が成立)に当るものといわねばならない

と判示しました。

窃盗犯人が、共犯者の逮捕を免れる目的で暴行を加えても事後強盗罪は成立する

 窃盗犯人が自身の逮捕を免れる目的ではなく、自らの窃盗行為の共犯関係にある者の逮捕を免れる目的で被害者等に暴行・脅迫を加えた場合でも、事後強盗罪における「逮捕を免れる目的」を有していたものとされ、事後強盗罪が成立します(東京高裁判決 昭和31年5月10日)。

被害者から取り押さえられた窃盗犯人が、共犯者に助けを求め、共犯者の被害者に対する暴行により逮捕を免れさせてもらった場合でも事後強盗罪が成立する

最高裁判決(平成21年10月8日)

 被告人と共犯者Aが共謀し、ドラッグストアで万引きをして逃走が、店長Bから被告人が取り押さえられたため、被告人が共犯者Aに助けを求め、Aが、被告人を取り押さえている店長Bに暴行を加え(店長Bは全治14日の傷害を負う)、被告人の逮捕を免れさせた行為について、被告人と共犯者Aに対し、事後強盗罪の共同正犯(共犯)が成立するとしました。

 裁判官は、

  • 被告人は、Aに助けを求め、Aがこれに呼応した際、Bによって精一杯の力で取り押さえられ、身体を前後に動かしても逃れることができない状態にあったのであるから、Aが被告人を助け出すためには、AがBに対して取り押さえを排除するに足るだけの暴行を加える必要があったのであり、被告人及びAもそのことを認識していたものと推認することができる
  • したがって、被告人は、Aに助けを求め、Aがこれに呼応した時点において、Bに対して暴行を加えることについて意思を相通じたにとどまらず、Bの逮捕遂行の意思を制圧するに足る程度、すなわちBの反抗を抑圧するに足る程度の暴行を加えることについても、これを認識認容しつつ、Aと意思を相通じたものと十分認め得るというべきである

と判示し、被告人と共犯者Aに対し、事後強盗の共同正犯が正立するとしました。

被害者から取り押さえられた後に暴行を加えても、事後強盗罪は成立する

 事後強盗罪の成立を認めるに当たり、「逮捕を免れる目的」を必要とするという場合には、未だ被害者に取り押さえられていない窃盗犯人が該当するかのようにみられますが、必ずしもそうではありません。

 被害者に一時的に取り押さえられたとしても、その身柄拘束の状態が確定的なものとなっていないような段階において、窃盗犯人がその身柄を拘束している被害者に暴行・脅迫を加え、身柄拘束を解かせるような場合も、「逮捕を免れる目的」を有していたと認められます。

 参考となる判例として、以下のものがあります。

 いずれの判例も、被逮捕者たる窃盗犯人の身柄拘束状態が不確実な段階にあり、より確実な身柄拘束状態へ移行する前に逃走しようとしたり、いったん拘束の離脱に成功し、再び逮捕されまいとして暴行・脅迫を加えようとするのであるから、事後強盗罪でいう「逮捕を免れる目的」があったと認めら、事後強盗罪の成立を認めています。

最高裁決定(昭和34年3月23日)

 窃盗犯人が進行中の電車内で車掌に取り押さえられ、到着駅ホームを警察官に引き渡すため連行されていた際、逃走しようとして車掌に暴行を加えた事案です。

 裁判官は、

  • 刑法238条にいう「逮捕を免れ」というのは、窃盗犯人が一般人によって現行犯として一応逮捕され、警察官に引き渡されるまでの間、被逮捕状態を脱するため、逮捕者に暴行を加えた場合を含む
  • 本件について見れば、被告人は、a駅よりb駅に向け進行中の電車内において、乗客Bの着用していたズボン左側ポケット内から、同人所有の現金5000円在中の財布をすり取り、現行犯人として乗務車掌に逮捕され、警察官に引渡すべく連行中、b駅ホームにおいて、乗務車掌のを窺い、逃走を企て、車掌に暴行を加え、よって同人に傷害を与えたというのであるから、被告人の所為は、正に窃盗犯人が逮捕を免れるため暴行を為した場合にあたること論をまたない

と判示しました。

最高裁決定(昭和33年10月31日)

 私人によって逮捕された窃盗犯人が、警察官に引き渡される前に逃亡しようとして、逮捕者に暴行・脅迫を加えた事案で、裁判官は、

  • 窃盗犯人が現行犯として被害者に一応逮捕せられ警察官に引き渡されるまでの間、被逮捕状態を脱するため、被害者に暴行を加え、これを傷害した場合は、刑法238条にいう「逮捕を免れ」るため暴行をなしたときとして、強盗をもって論ずべく、強盗が人を傷害したものとして同法240条前段を適用すべき

と判示し、逮捕を脱するための暴行は事後強盗罪を成立させ、そこに被害者の傷害が加われば、事後強盗罪ではなく、強盗致傷罪が適用されるとしました。

最高裁決定(昭和34年6月12日)

 この判例は、工場で窃盗をした者が、現場から10メートルくらい隔たった工場塀外の路上で、警戒中の警察官に発見され、現行犯人として追跡を受け、約60メートル進んだ地点で逮捕されようとしたので、これを免れるため、手拳で警察官の胸部を突くなどの暴行を加え、格闘をしたが、程なく抵抗を止め、警察官からシャツの襟をつかまれて、付近の前記工場守衛詰所へ連行される途中、2、30メートル進んだ所で、警察官の隙を窺い、その手を振りきって逃げ出し、更に、逮捕を免れるため、手拳で警察官の首辺を殴打し、胸部を突いてその場に転倒させ、あるいは足蹴にする等の暴行を加えた場合には、刑法第238条にいう「窃盗財物を得て逮捕を免れるため暴行を為したるとき」(捕捉:旧法の記載)にあたると判示しました。

 窃盗犯人が警察官にシャツの襟をつかまれて付近にある被害工場の守衛詰所へ連行される途中、その手を振り切って逃げ出し、追跡してきた警察官に暴行を加えた場合のように、警察官に一時的に取り押さえられたものの、未だ身柄の拘束が確実なものとなったとはいえない段階で、そのすきに乗じて身柄拘束から離脱し、再び逮捕されそうになったのでこれを免れようとして暴行を加えた場合でも、事後強盗罪が成立します。

完全に逮捕行為が完了した後、場所的・時間的な隔たりがある状態での「逮捕を免れる目的」での暴行は、事後強盗罪でなく、窃盗罪と傷害罪の併合罪となる

 逮捕された窃盗犯人の身柄拘束の状態が完全なものであるときは、逮捕後に行った暴行・脅迫が、刑法238条の「逮捕を免れ」るための暴行・脅迫と認定することが困難になり、事後強盗罪ではなく、窃盗罪と暴行罪の併合罪が認定されるケースが多いです。

 これは、暴行が窃盗の機会に行なわれたものではないと認定されやすくなるためです。

 参考となる判例として、以下のものがあります。

京都地裁判決(昭和51年10月15日)

 窃盗未遂の犯人を現行犯逮捕した者Mが、完全にその犯人を制圧して、約1時間にわたり警察へ出頭するよう説得し、これを承知した犯人に酒を飲ませ、しかもその後、警察へ同行するに当たり、犯人の腕をつかむなど逃走を防止するような措置も採らなかったところ、逃走しようとして犯人がその者に加えた暴行は、場所的、時間的な隔たりがあり、いったん逮捕して身柄を拘束したものの、すでにこれを解いたと認められる状況下における暴行であるので、時間的、場所的関係において財物奪取と暴行との間の密接な関連性がなく、事後強盗罪における暴行に当たらないとしたました。

 裁判官は、

  • Mの当初の逮捕行為が本件暴行時まで継続していたとみるのは困難であって、被告人がMの説得に応諾した段階で逮捕状態は消滅したものとみられ、Mの警察への被告人の同行は有形力を用いないいわば任意の同行というべきものであり、しかも本件暴行が行われるまでに相当の時間的、場所的に隔たりがあるから、かかる状況のもとでは、たとえ窃盗行為後、警察への同行中に逃走のため暴行が加えられたとしても、その暴行はもはや窃盗の現場若しくは窃盗の機会継続中になされたものと解することはできず、従って窃盗犯人が逮捕を免れるため暴行を加えた場合に当らないから、本件につき事後強盗致傷罪は成立しないものといわなければならない

と判示し、事後強盗罪ではなく、窃盗未遂と傷害罪の併合罪が成立するとしました。

窃盗の現場と暴行・脅迫の現場が離れている場合の事後強盗罪の成否

 窃盗の現場と暴行・脅迫の現場が離れている場合について、事件の事案に応じて、事後強盗罪の成立が認められる場合と否定される場合の両方のケースがあります。

《事後強盗罪の成立が認められた判例》

広島高裁松江支部判決(昭和25年9月27日)

 この判例で、裁判官は、

  • 窃盗の現場と暴行又は脅迫の現場が多少離れておっても、窃盗の現場の継続的延長と見られるような場所で、窃盗犯人が逮捕を免れるため、暴行又は脅迫に出たときは、刑法第238条の強盗罪が成立すると解すべきである
  • これを本件についてみるに、被告人は、被害者N方で、N所有のゴム長靴1足及び赤皮製短靴1足を窃取した現場において、Nに発見せられ、Nにおいて、米子市加茂町所在の加茂町巡査派出所に同行の途中、同派出所巡査の不在を知り、更に同市尾高町所在の尾高町巡査派出所に同行途中、逃走したため、Nがこれを追跡し、米子市西町地内道上において、被告人を逮捕せんとしたところ、被告人はその逮捕を免れんがため、その場において格闘の上、所携(しょけい)の刃物様のものをもってNに斬りつけたと言うのである
  • したがって、窃盗とは無関係な全然別個な機会に斬りつけたと言うのではなく、最初の窃盗の現場の継続的延長と見られるような場所で斬りつけたのであるから、本件は刑法第238条の強盗であること毫も疑いの余地はない
  • しかも、右斬りつけたことにより、Nに傷害を与えたのであるから、強盗傷人罪をもって問擬(もんぎ)すべきは当然である

と判示し、逮捕を免れるため、最初の窃盗の現場の継続的延長と見られるような場所で被害者に暴行を振るっているから事後強盗罪の成立が認められ、被害者に傷害を負わせたことから、強盗傷人罪(刑法240条)が適用されるとしました。

《事後強盗罪の成立が否定された判例》

名古屋高裁判決(昭和26年4月27日)

 この判例は、上記判例と類似の事案について、逮捕を免れるための暴行としながらも、暴行・脅迫を行った時と場所が、窃盗行為との接着性が認められないとして事後強盗罪の成立を否定しました。

 裁判官は、

  • 窃盗犯人が逮捕を免れるため、暴行を為した場合に強盗をもって論ぜられることは、刑法第238条の規定するところであるけれども、その趣旨は、同規定の律意に照し、窃盗犯人がその犯行に接着した新鮮な時及び場所において、逮捕を免れるため、暴行を為した場合に限られるものと解するを相当とすべきである
  • 今これを本件について観ると、被告人が逮捕を免れるため暴行を為したのは、被告人が窃盗行為を敢行した直後、一旦、Y、N、Mらに逮捕された上、同人等に豊橋市警察署北山派出所に連行される途中のことに属し、しかも、被告人が右の暴行を為した時は、被告人がY、N、Mらに逮捕されてから約30分を経過しているものの如くである
  • また、被告人が右の暴行を為した場所は、被告人が窃盗行為を為した場所から十数を隔てているものの如く窺知されるので、これらの客観的事情に照し、被告人の右暴行は、未だ被告人の窃盗行為に接着した新鮮な時及場所において為されたものとは見なし難い
  • 故に、被告人の右所為を捉え、強盗をもって論じ得ないと同時に、たとえ被告人が右暴行によって傷害を負わせたものとするも、これを刑法第238条第240条前段に問擬(もんぎ)するに由なし

と判示し、窃盗行為と逮捕を免れるために行った暴行行為に、時間と場所の開きがあることから、事後強盗罪は成立せず、ゆえに強盗致傷罪も成立しないとしました。

 なお、この場合、窃盗罪と傷害罪がそれぞれ成立し、両罪は併合罪となります。

事後強盗罪における反抗を抑圧するに足りる暴行とは評価できないとして、事後強盗罪の成立が否定された事例

 逮捕を免れる目的で警察官からけん銃を奪い取ろうとしたことなどが、刑法238条の暴行に当たらないとされ、事後強盗罪の成立が否定された判例があります。

大阪高裁判決(平成16年2月19日)

 この判例で、裁判官は、

  • 窃盗の現行犯人として逮捕され、警察官に引き渡された際、逃走目的でその胸倉をつかんで押したほか、警察官から拳銃を奪い取ろうとして、ホルスターのカバーや留め金を外し、その銃把を握って多数回にわたって引っ張るなどの暴行を加え、警察官に加療約7日間の傷害を負わせた被告人の行為は、被告人がけん銃を奪い取って突きつけたり、引き金に手を掛けるなどして発射させようとしたりしたわけではなく、拳銃を奪い取ることもできないまま制圧されたなどの事実関係の下においては、いまだ相手方である警察官の反抗を抑圧するに足りるものと評価することはできない

と判示し、事後強盗罪の成立を否定しました。

『③ 罪証隠滅の目的』とは?

 最後に、事後強盗罪の暴行・脅迫の目的に当たる『罪証隠滅の目的』について説明します。

 罪証隠滅の目的とは、

後日、窃盗犯人として捜査官に検挙され、処罰されることとなると認められる罪跡を無にしようとする意図のこと

をいいます。

 たとえば、窃盗犯人が、

  • 窃盗行為を目撃しそうな者に対し、暴行・脅迫を加えて目撃の余地をなくす
  • 目撃者を殺害し、後日、その状況を証言できないようにする

などの行為が『罪証隠滅の目的』による事後強盗罪に当たります。

 参考となる判例として、以下のものがあります。

大審院判決(大正15年2月23日)

 この判例で、裁判官は、

  • 窃盗犯人が、罪跡を隠滅する目的をもって、人を殺害したるときは、たとえ財物を得ざりし場合といえども、強盗をもって論ずべきものにして、刑法第240条の強盗致死罪を構成するものとす

と判示しました。

 考え方は、窃盗犯人が、罪跡を隠滅する目的をもって暴行を加える行為は、事後強盗罪が成立し、さらに、その暴行が殺人となれば、事後強盗罪ではなく、強盗致死罪が適用されて処罰されるという考え方になります。

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