前回の記事の続きです。
建造物の付属する建具の類が、建造物の一部と認められるか否かの判断基準
建造物の従物である建具類が、建造物の一部を構成するものと認めるには、
その物件が家屋の一部に建付けられているだけでは足りず、さらに、これを毀損しなければ取り外しできない状態にあることを必要とする
とされます。
また、
工具等を用いて取り外しが不可能ではないが、作業に著しい手間と時間を要する場合は建造物の一部といえる
とされます。
例えば、
布団や畳
は、いまだ家屋と一体になって家屋を構成する建造物の一部といえません(最高裁判決 昭和25年12月14日)。
同様に、
襖・障子・雨戸・板戸などの建具類
も、いまだ家屋と一体になって家屋を構成する建造物の一部といえません。
この点、大審院判決(大正8年5月13日)において、裁判官は、
- 家屋の外周に建付けある雨戸又は戸板の如きは、これを損壊することなくして自由に取り外し得べき装置なるときは、家屋の一部を構成せざるものとす
と判示しています。
したがって、布団、畳や、襖・障子・雨戸・板戸などの建具類に放火し、それら建具類のみを焼損させて建造物に損傷がなかった場合、現住建造物等放火未遂罪(又は非現住建造物等放火未遂罪)が成立するか、器物損壊罪が成立するにとどまります。
建造物の従物である建具類などが、建造物の一部を構成するとした裁判例
建造物の従物である建具類などが、建造物の一部を構成するとした裁判例として以下のものがあります。
東京高裁判決(昭和34年11月5日)
家屋に取り付けられた床板は、その後修理のため一部釘付けされない部分を生じたとしても、社会通念上、畳、建具等の従物と異なり、家屋の一部を構成するものであり、その床板に放火したのであるから、現住建造物等放火罪が成立するとした事例です。
裁判官は、
- 建具その他家屋の従物が刑法第108条にいわゆる建造物たる家屋の一部を構成するためには該物件が家屋の一部に取り付けられているだけでは足りず、さらにこれを毀損しなければ取り外すことができない状態にあることを必要とする
- 家屋に取り付けられた床板は、その後修理のため一部釘付けされない部分を生じたとしても、社会通念上、畳、建具その他の家屋の従物とは異なり、全体として家屋の一部を構成するものというべきである
- 証人の供述並びに司法警察員作成の実況見分調書を総合すれば、本件家屋の2階8畳間の床柱に向かって右側の釘付けされた床板の部分にも焼燬されて炭化した部分の存することが認められ、なお本件においては右床板のほか、床の間の床框にも炭化した部分があり、いずれも独立燃焼の程度に達していたものと認められるから、原判決が被告人の所為を刑法第108条に問擬したのはもとより相当である
旨判示しました。
マンション内に設置されたエレベーターのかごは、建物の一部を構成するものであり、そのエレベーターのかごに放火したのであるから、現住建造物等放火罪が成立するとした事例です。
裁判官は、
- 12階建集合住宅である本件マンション内部に設置されたエレベーターのかご内で火を放ち、その側壁として使用されている化粧鋼板の表面約0.3平方メートルを燃焼させたというのであるから、現住建造物等放火罪が成立する
としました。
建造物の一部ではないとされた裁判例
銀行営業室のカウンターについて、建造物の一部を構成するものではないとした以下の裁判例があります。
山形地裁判決(平成22年11月19日)
銀行窓口の行員にガソリンをかけた暴行1件と、銀行営業室内のフロアカーペットに営業時間中ガソリンをまいて火をつけ、銀行建物を焼損しようとした事案で、裁判官は、
- 銀行営業室のカウンターについて、アンカーボルトで固定され撤去するためには建物躯体部分を破壊する必要があるものの、その機能はロビーと執務スペースを仕切る壁として家具・備品の機能と変わらないから、銀行建物の一部とはいえない
- 被告人の火をつける前の言動に照らすと、被告人は故意に火をつけたと認められるが、本件カウンターが独立燃焼していたと認めることはできす、また、カウンターは銀行建物の一部とはいえないとして、現住建造物等放火未遂罪及び暴行罪が成立する
としました。