故意(相手が心神喪失・抗拒不能の状態にあることの認識が必要)
準強制性交等罪、準強制わいせつ罪(刑法178条)の実行の着手の時点について説明します。
準強制性交等罪、準強制わいせつ罪などの故意犯については、犯罪を犯す意思(故意)がなければ、犯罪は成立しません(詳しくは前の記事参照)。
準強制わいせつ罪・準強制性交等罪において、故意があると認めるには、
相手が心神喪失・抗拒不能の状態にあることの認識
が必要となります。
また、相手方の真意に出た自由な承諾があると誤信した場合に本罪が成立しないことは強制性交等罪の場合と同じです(詳しくは前の記事参照)。
実行の着手の時点
準強制性交等罪、準強制わいせつ罪の実行の着手の時点について説明します。
実行の着手があったかどうかが、強制性交等未遂罪の成立の可否を分ける分岐点になります(実行の着手と犯罪の既遂と未遂の考え方については前の記事参照)。
一般的にいえば、実行の着手とは、犯罪の構成要件の一部に該当する行為を開始することをいいます(大審院判決 明治36年12月21日)。
準強制性交等罪、準強制わいせつ罪の実行の着手の時点は、
とで捉える時点が異なります。
① 心神喪失・抗拒不能の状態に乗じて強制性交する場合の実行の着手の時点
心神喪失・抗拒不能の状態に乗じて強制性交する場合について、実行の着手があったと認められる時点は、
強制性交するための行動を起こした時点
となります。
参考となる判例として、以下のものがあります。
第三者の暴行により反抗を抑圧されて仰向けに倒れている被害者の上に馬乗りになった時点で準強姦(準強制性交等罪)の実行の着手を認めました。
東京地裁判決(昭和38年9月30日)
熟睡中の女子の横に寄り添って半身を乗せた段階で準強姦(現行法:準強制性交等罪)の着手を認めました。
なお、実行の着手を認めたなった事例として以下の判例があるので、参考に紹介します。
大阪地裁判決(昭和62年10月1日)
就寝中の女子の傍らに自己のズボンとパンツをぬいで横たわったというにとどまり、客観的に姦淫の手段と認められる行為をしていないとして、準強姦(準強制性交等罪)の実行の着手を認めなかった事例です。
裁判官は、
- 被告人は、ズボンとパンツを脱ぐ直前の時点において、初めて被害者の抗拒不能に乗じて被害者を姦淫しようと決意したものと認めるのが相当である
- しかしながら、準強姦未遂罪(準強制性交等未遂)が成立するためには、被告人が準強姦(準強制性交等罪)の故意を有するのみならず、右故意に基づいて準強姦(準強制性交等罪)の実行行為に及んだことを要するの
- 右実行行為の有無について検討するに、関係各証拠により明らかに認定できる事実は、被告人が自己のズボンとパンツを脱いで被害者の傍らに横たわったというにとどまり、客観的に姦淫の手段と認められる行為を何らしていないのであるから、被告人は、準強姦(準強制性交等罪)の犯意を形成したものの、いまだその着手に至らなかつたものといわざるをえない
と判示しました。
② 心神喪失・抗拒不能の状態に陥れて強制性交する場合の実行の着手の時点
犯人自身が被害者を心神喪失・抗拒不能の状態に陥れて強制性交する場合について、実行の着手があったと認められる時点は、
相手を心神喪失・抗拒不能の状態にさせる行為を行った時点
となります。
参考となる判例として、以下のものがあります。
広島高裁松江支部判決(昭和38年1月28日)
被害者の不在中、その居室にあった飲料水入りの薬缶に睡眠剤を混入した行為を準強姦(準強制性交等罪)の実行の着手の時点としました。
事案は、被告人が被害者Fに睡眠薬を飲ませて昏酔させ、Fを姦淫する目的で、Fの不在中、その居室にあった飲料や食料品に睡眠薬を混入させ、Fが飲食するのを待ったが、Fが睡眠薬の入った水を口に入れた際に、苦みを感じたので吐き出し、飲食したなかったため、姦淫の目的を遂げなったというものです。
この判例で、裁判官は、
- 強姦の目的をもって、睡眠薬を飲食物に混入した所為は、刑法178条の強姦罪(現行法:準強制性交等罪)の実行に着手したものというべきである
- 睡眠薬を飲食物に混入した所為が、Fを抗拒不能の状態に陥れる危険のある行為であることは明らかであって、強姦の目的をもってかかる所為に出た以上、Fが抗拒不能の状態に陥らず、また被告人が姦淫行為に着手しなくても、刑法178条の強姦罪(準強制性交等罪)の実行に着手したものというべきである
と判示し、睡眠薬を飲食物に混入した時点で準強制性交等罪の実行の着手があったとし、準強制性交等未遂の成立を認めました。