刑法(恐喝罪)

恐喝罪(14) ~「恐喝罪の実行の着手」「恐喝行為が開始されれば、相手が畏怖しなかったとしても恐喝未遂罪が成立する」「文書による恐喝」「恐喝罪の未遂と既遂を区別する基準」を判例で解説~

恐喝罪の実行の着手

 恐喝罪(刑法249条)は、予備罪は処罰されませんが、未遂罪は処罰されます(刑法250条)。

 予備と未遂を分けるのは、実行の着手です。

 恐喝罪の実行の着手の時期は、

財物又は財産上の利益を交付させる意思で恐喝行為が開始された時点

です。

 恐喝は、財物又は財産上の利益を交付させる目的をもって行う脅迫なので、財物又は財産上の利益を交付させる目的が具体的に欠け、特定できないときは、脅迫罪に当たることはあっても、恐喝罪は構成せず、実行の着手があったことにはなりません。

 この点について、以下の判例があります。

東京高裁判決(平成7年9月21日)

 この判例は、パチンコ店の入居しているビルを賃貸している会社の代表取締役にみかじめ料を要求したとして恐喝未遂罪で起訴された事案で、被告人の言動には恐喝の実行行為の着手があったものとは認められないとして、無罪を言い渡しました。

 裁判官は、

  • 被告人の行ったみかじめ料の要求は、被告人が相手方に自分の名前や連絡を取る方法などを一切告げず、次に会う約束などもせず、相手方の名前すら聞いていないものであって、全く漠然としたものであり、一切具体性がなく、その要求に従おうとしても、払う相手も分からない場合、恐喝の予備行為に及んだということはいい得ても、恐喝の実行行為に着手したとはいえない

とし、恐喝罪の実行の着手がないため、恐喝未遂罪は成立しないとしました。

恐喝行為が開始されれば、相手が畏怖しなかったとしても恐喝未遂罪が成立する

 恐喝罪は、人に畏怖の念を生じさせるに足りる恐喝行為が開始されれば、実行の着手が認められ、少なくとも恐喝未遂罪が成立することになります。

 恐喝行為が開始されれば、たとえ相手が畏怖しなかったとしても、恐喝未遂罪の成立が認められます。

大審院判決(大正3年4月29日)

 この判例で、裁判官は、

  • 人に畏怖の念を生じさせないような脅迫暴行が行われても恐喝罪は成立しないが、人に畏怖の念を生じさせるに足りる恐喝行為が開始された以上、恐喝罪は成立し、現実に相手方を畏怖させたことは必要ではない
  • 相手方が畏怖しなかった場合は未遂である

と判示しました。

文書による恐喝場合、文書の到達の時点で(被害者が到達した文書を見る必要はない)恐喝罪の実行の着手が認められる

 恐喝文書の郵送の場合、文書の発送のときではなく、文書が被害者の家など被害者の支配下に到達したときに実行の着手があるとされます。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(大正5年8月28日)

 被告人がAを恐喝して金員の交付を受けるため、恐喝文書を郵送したところ、文書がAの家に到達したが、Aの妻Bが恐喝文書を警察に届け出たため、Aは恐喝文書を了知することなく、被告人が恐喝の目的を遂げなかった恐喝未遂の事案です。

 まず、被告人の弁護人は、Aは文書を見ていないのだから、恐喝罪は不能犯であり、恐喝罪は成立しないと主張しました。

 この主張に対し、裁判官は、

  • 犯人が恐喝の犯意をもって他人を畏怖せしむるに足る文書を郵便に付して到達せしめたるにおいては、受信人をして、その内容を認識し得べき状態に置き、これによりその文書は行使せられたるものなるをもって恐喝罪の実行に着手したるものというべきである
  • このような状態一旦発生したる以上は、犯人の意思に基づかざる事由により受信人においてこれを了知することを得ざるに至るといえども、これがために、いわゆる不能犯となるものにあらず
  • 恐喝文書がA方に到達し、Aと一体である妻Bが了知した以上、Aは恐喝文書を読むことはなくても、内容を認識しうる状態になったものとして、Aに対する恐喝罪の実行の着手になる

と判示し、恐喝文書が被害者の家に到達した時点で恐喝罪の実行の着手が認められるので、被害者が恐喝文書を見ていないとしても、恐喝未遂罪が成立するとしました。

 恐喝文書の郵送の場合、害悪の告知が相手になされることが危険性の現実化として重要になります。

 郵送の途中で恐喝文書が紛失したり、宛名を書き誤って他の者のところに配達されたときは、いまだ危険性が現実化したとはいえないので、発送のときに実行の着手を認めることはできません。

 なので、恐喝文書が相手の元に到達したときに、恐喝罪の実行の着手を認めるという考え方を採ることになります。

 実行の着手が認められれば、少なくとも恐喝未遂罪は成立することになります。

 その後、恐喝文書を見た相手が金品を恐喝者に交付するところまで事が進めば、恐喝罪の既遂が成立することになります。

 ちなみに、これは殺人未遂の毒物の郵送につき、発送のときではなく、到達のときに実行の着手があると判示する大審院判決(大正7年11月16日)と同じ考え方になります。

被害者に従属して補助する者に対し恐喝行為を開始した時点で実行の着手が認められるとした判例

 財産上の被害者又は財産上の被害者の財産処分権を有する地位にある者に従属して補助する者(例えば、会社重役を恐喝する場合に会社の庶務係)に対し、恐喝行為を開始したときは、そのときに実行の着手があるとする判例があるので紹介します。

大審院判決(昭和11年2月24日)

 この判例で、裁判官は、

  • 恐喝罪における恐喝の手段は、常に必ずしも犯人自ら直接に被害者か、被害者の財産処分権を有する地位にある者に対してこれを行うことを要するものにあらず
  • こららの者に従属して補助行動をなすに過ぎざる者に対して、恐喝手段を施し、これをしてその事実を通達せしめ、もって間接に叙上の者を恐喝する場合においてもまた恐喝罪の成立を認める
  • しかも、その如く間接の手段をもって叙上の者を恐喝する目的をもって、その補助者に恐喝手段を施したる場合には、既にその時において恐喝罪の実行の着手ありと解するを相当なりとする
  • たとえ、被告人が直接右会社重役に対し、恐喝手段を施さざりしとするも会社の使用人として重役に従属してその補助者たる関係にあるAに対し、恐喝の言辞弄し、よって重役を威嚇し、金員を交付せしめんとしたるも、遂げざりし事実を認めたるものと解すべきが故に、原判決事実に恐喝未遂の法条を適用処断したるは擬律錯誤にあらず

と判示しました。

 この判例の事例は、庶務係を被利用者とする間接正犯の形態と解することもできますが、間接正犯者が被利用者にはたらきかけたときに実行の着手を認めたものと理解するべきではなく、庶務係を重役と一体をなすものとみたと解すべきであるから、庶務係に対して、恐喝行為を開始したときに、重役に到達したものともいえるという考え方が採られています。

恐喝罪の未遂と既遂を区別する基準

恐喝罪が既遂となるには、相手方が畏怖し、任意に財物又は財産上の利益を交付し、財物又は財産上の利益が犯人に移転するという因果関係が必要

 恐喝行為が開始された後、恐喝罪が既遂となるには、恐喝の結果、相手方が畏怖し、任意に財物又は財産上の利益を交付し、財物又は財産上の利益が犯人に移転するという因果関係の存在が必要になります。

 したがって、この因果関係の要件が一つでも欠けると、恐喝罪は未遂になります。

 未遂になる例として

  • 相手が恐喝によって畏怖しなかった
  • 相手が、恐喝による畏怖の結果ではなく、同情、憐愍その他の理由によって財物又は財産上の利益を交付した
  • 財物又は財産上の利益が犯人に交付されるように見えても、それが犯人に移転したことになっていない

といった場合には、恐喝罪は未遂になります。

 恐喝罪の因果関係の有無が争われた判例として、以下の判例があるので紹介します。

東京地裁八王子支部判決(昭和42年3月29日)

 脅迫された被害者が弁護士に相談し、かつ警察官に依頼して、警察官の張込みを受けている状況の下で、被告人らが被害者から金員の交付を受けた事案です。

 弁護人が被害者の金員交付は畏怖の念に基づいたものではないので、恐喝未遂の成立はともかく、恐喝既遂は成立しないと主張したのに対し、裁判官は、

  • 被害者の立場からすれば、現場にいた被告人らだけを恐れたのではなく、現場の内外を通ずる暴力団の特色たる組織的暴力に恐れをなし、よって止むなく警察の指導するまま現金の交付をせざるを得なかったものと判断されるのである
  • 然らば、本件が恐喝既遂となることは当然である

と判示しました。

恐喝罪において中止未遂か障害未遂かが争われた判例

 恐喝罪において、恐喝罪の中止未遂の成否が争われた判例を紹介します。

東京高裁判決(昭和47年3月13日)

 金員喝取の目的で、脅迫行為に着手して被害者を畏怖せしめたが、被害者が警察官に届け出る一方、被告人もそのまま放置していたため、恐喝未遂に終わった事案です。

 弁護人が恐喝罪における実行行為は、脅迫行為ばかりでなく財物の交付を受ける行為も含むと解すべきであり、被告人自身の意思によって受交付行為がなかったのであるから、本件は中止未遂であると主張したのに対して、裁判官は、

  • 恐喝罪の中止犯が成立するためには、被害者に対して、害悪の告知を取り消し、その畏怖状態を除去して財物提供の危惧から解放することを要し、単に被告人が自らの意思によって放置したにすぎないときは、未だ結果の発生を防止するために真剣な努力をしたものとはいえず、 中止犯の成立を認めることはできない

と判示しました。

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