刑法(恐喝罪)

恐喝罪(13) ~『恐喝罪の被害額』「恐喝者の要求額ではなく、被害者の交付額が被害額になる」「約束額が被害額になる」「恐喝者が対価を被害者に給付して財物の交付を受けた場合、交付額全額が被害額になる」を判例で解説~

恐喝罪における被害額の考え方

 恐喝罪(刑法249条)における「被害額」について説明します。

(1) 恐喝者の要求額ではなく、被害者の交付額が被害額になる

 恐喝者が、被害者から、財物又は財産上の利益の交付を受けた場合、恐喝者が現に交付を受けた価額が被害額になるのであって、恐喝者の要求した価額が被害額になるのではありません。

 したがって、恐喝者が要求した数量価額以上に(又は以下に)、被害者が交付した場合でも、恐喝者が現に受けた財物全部の数量価額が被害額になります。

 不法利得(2項恐喝)における被害額についても、恐喝者の要求した額ではなく、被害者が利得を提供した額が被害額になります。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(大正15年12月15日)

 恐喝者の要求した供応が45円に相当するものであり、受けた供応は49円65銭に相当するものであった事案で、裁判官は、

  • 要求額以外の部分をもって被害者の任意に提供したるものなりと見なし、両者を分割して観察すべきものにあらずして、包括的に観察して、被告はその全額に相当する供応を為さしめ、もって不法の利得を為したるものと認定すると相当とする

と判示し、恐喝者が現に受けた不法利得に相当する価額が被害額になるとしました。

(2) 約束額が被害額になる

 現金の交付を約束させた場合は、約束させた価額が被害額になります。

(現金を交付すれば恐喝の既遂罪が成立しますが、現金を交付までいかない約束の段階では恐喝の未遂罪が成立します)

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(大正5年10月6日)

 恐喝者が被害者に対し、15円は費用として10円は返却する条件の下に、25円の交付を約束させた事案で、25円中10円は恐喝者と被害者との間で消費貸借の予約をしたことになるが、15円について恐喝未遂が成立するのではなく、25円について恐喝未遂が成立すると考えるべきであり、被害額は交付を約束した25円であるとしました。

最高裁判決(昭和26年9月28日)

 この判例で、裁判官は、

  • 原判決は、被告人らは、判示のごとく被害者を脅迫し、同人らをして金4万円を交付する旨約束せしめた事実を認定したのであって、かかる金員交付の約束をさせた以上、たとえそれが法律上正当にその履行を請求することのできない債権であるとしても、これを刑法249条2項にいわゆる『財産上不法の利益を得』たものと解するに何の妨げもないのである

と判示し、被害者に交付を約束させた額が恐喝罪の被害額になるとしました。

(3) 恐喝者が対価を被害者に給付して財物の交付を受けた場合、交付額全額が被害額になる

 恐喝者が相当の対価を被害者に給付して、被害者から財物の交付を受けた場合に、被害額がいくらになるかが問題になります。

 結論は、被害額は、

被害者が交付した財物又は財産上の利益全部に相当する価額

が被害額になります。

大審院判決(明治42年6月22日)

 この判例は、被害者は畏怖に陥らなければ、恐喝者から対価を給付されても、その財物又は財産上の利益を交付することはなかったとみられる以上、個々の財物又は財産上の利益の喪失自体を財産上の損害とみるべきであり、被害額は交付した財物又は財産上の利益全部に相当する価額であるとしました。

 恐喝者が被害者を恐喝して、譲渡の意思のない被害者所有の山林を代金30円で恐喝者に売り渡すことを承諾させて喝取した行為について、裁判官は、

  • 被害額は被害者が交付した財物について判断すべきであり、恐喝者が犯罪の手段として提供した物との価額を比較して判断すべきではない

と判示しました。

大審院判決(昭和14年10月27日)

 この判例で、裁判官は、

  • 恐喝者が被害者を恐喝して、時価約5万円の土地を代金15万円での買取りを要求し、畏怖した被害者から土地代金名義で12万5000円の交付を受けた場合、被害額は、恐喝者が交付を受けた金額から土地の時価相当額(約5万円)を控除したものではなく、交付を受けた12万5000円全額である

と判示しました。

大阪高裁判決(昭和31年3月27日)

 この判例で、裁判官は、

  • 恐喝者が、発行に関与する「特別情報」において、A会社の信用状態悪化の記事を掲載報道し、A会社の社長Bが、記事の取消しを申し入れて来たのに乗じ、社長Bから記事の取消し料名義で金3万円の小切手1通を喝取すれば、その金額と事後に訂正記事のために費やした実費との比率がどうかにかかわらず、被害額は金3万円全額である

と判示しました。

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