刑法(建造物等以外放火罪)

建造物等以外放火罪(5) ~「既遂時期」「故意」「他罪との関係」を説明~

 前回の記事の続きです。

既遂時期

 建造物等以外放火罪(刑法110条)の既遂時期は、

公共の危険が具体的に発生した時点

です(既遂の説明は前の記事参照)。

 建造物等以外放火罪の客体が独立燃焼の状態に達したとしても、必ずしも公共の危険が発生したということはできないこと、公共の危険の発生は本罪の構成要件要素と考えられることから、本罪の既遂時期は、公共の危険が具体的に発生した時点とされます(通説)。

 建造物等以外放火罪の客体を焼損させても公共の危険が発生しなけば、本罪は成立しません(本罪に未遂の処罰規定はなく、建造物等以外放火未遂罪は存在しません)。

 しかし、客体を焼損した以上、建造物等以外放火罪は成立せずとも、客体が他人の所有物であれば器物損壊罪などの毀棄罪は成立し得ます。

故意

 建造物等以外放火罪は故意犯です。

 なので、本罪が成立するためには、建造物等以外放火罪を犯そうとする故意が必要です。

 本罪の故意の考え方は、刑法108条の現住建造物等放火罪の故意の考え方をとればよいです。

 現住建造物等放火罪の故意の考え方は以下の記事で説明しています。

 また、建造物等以外放火罪の故意を認めるために、公共の危険の発生の認識を必要とするかについて、判例は、刑法110条1項について

公共の危険の発生の認識を不要

としています(最高裁判決 昭和60年3月28日)

他罪との関係

 建造物等以外放火罪と他罪の関係についての考え方も、刑法108条の現住建造物等放火罪と他罪との関係の考え方をとればよいです。

 現住建造物等放火罪と他罪の関係の考え方は以下の記事で説明しています。

 建造物等以外放火罪と他罪の関係について、裁判例にあらわれたものとして、以下のものがあります。

建造物侵入罪との関係

東京高裁判決(昭和46年3月8日) 

 大学の入学式を阻止するため、体育館に侵入した上、館内に設置されていた入学式挙行用の紅白幕、国旗、校旗等を焼損した事案で、建造物侵入罪と建造物等以外放火罪とは、手段と結果の関係にあるので牽連犯となるとしました。

 裁判官は、

  • 建造物侵入罪は、侵入した建造物の中で他の犯罪を犯す手段として犯されることがきわめて多いもので、同罪の構成要件はかかることを性質上予想しているものというべく、本件の物件放火のごときも当然それに含まれていると考えられるから、建造物侵入行為と侵入した建造物内における物件放火行為とは、いわゆる通常手段結果の関係にあるものと解するのが相当であり、従ってこの両罪は牽連犯とすべきものである

と判示しました。

往来危険罪との関係

名古屋地裁判決(昭和35年7月19日)

 橋梁を焼失させたような場合には、往来危険罪刑法124条1項)と建造物等以外放火罪とは観念的競合となるとしました。

 裁判官は、

と判示しました。

殺人罪との関係

東京地裁判決(昭和59年4月24日)新宿西口バス放火事件

 殺意をもって乗客のいる乗合バス内に放火し、バスを全焼させるとともに乗客を死亡又は負傷させた場合、殺人・殺人未遂と建造物等以外放火罪とは観念的競合となるとしました。

 裁判官は、

  • 殺人・殺人未遂と現住建造物等放火は、1個の行為で数個の罪名に触れる場合であるから、刑法54条1項前段10条により刑及び犯情の最も重いBを被害者とする殺人罪の刑で処断する

旨判示しました。