自動車運転死傷処罰法

自動車運転死傷処罰法(19)~「危険運転致死傷罪等と過失運転致死傷罪との関係」を説明

 前回の記事の続きです。

危険運転致死傷罪等と過失運転致死傷罪との関係

 ①危険運転致死傷罪(2条、3条、6条)、②過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪(4条)、③無免許過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪(6条3項)、④無免許過失運転致死傷罪(6条4項)(以下、①~④の罪を適宜「危険運転致死傷罪等」と略します)は、

①危険運転致死傷罪(2条、3条、6条)につき、

悪質・危険な自動車の運転行為による死傷事案につき、過失犯としてではなく、事故を起こして人を死傷させる高度の類型的な危険性を有する運転行為を故意に行った結果、人を死傷させる罪

として構成したものであり、

②過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪(4条)、③無免許過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪(6条3項)、④無免許過失運転致死傷罪(6条4項)については、

過失運転致死傷罪を構成要件に含む罪

であるので、過失運転致死傷罪(5条)と同様、人の生命・身体の安全を保護法益とするものです。

 そのため、危険運転致死傷罪等が成立する場合には、本罪と同じ保護法益の過失犯である過失運転致死傷罪は成立しません。

犯罪事実を過失運転致死傷罪から危険運転致死傷罪等に罪名を変更する場合の刑事訴訟法上の手続

 刑事訴訟法上の手続において、捜査の結果、犯罪事実を過失運転致死傷罪(5条)から危険運転致死傷罪等に罪名を変更する場合において、

  • 特定の事故に対する評価の間では逮捕のやり直しをする必要はなく、送致書の罪名と被疑事実の変更で足りる
  • 送致から勾留段階では逮捕前置主義に反せず、罪名と被疑事実を勾留請求段階で変更することで足りる
  • 勾留から起訴段階では求令起訴又は勾留中求令起訴をし、公判段階では訴因変更の措置を採る

とされています。

※「求令起訴」とは、検察官が起訴と同時に、身柄を拘束されていない被疑者に対して、勾留を求める手続きのことをいいます。

※「勾留中求令起訴」とは、既に勾留されている被疑者を別の事実で起訴する際に、改めて裁判官に別の事実での勾留を求め、起訴後は、別の事実で被告人を勾留する起訴手続です。

 なお、危険運転致死傷罪(2条、3条、6条)とは、

  • アルコ一ルの影響により正常な運転が困難な状態での走行による危険運転致死傷罪(2条1号
  • 薬物の影響により正常な運転が困難な状態での走行による危険運転致死傷罪(2条1号
  • 進行の制御が困難な高速度での走行による危険運転致死傷罪(2条2号
  • 技量未熟での走行による危険運転致死傷罪(2条3号
  • 妨害目的での運転による走行による危険運転致死傷罪(2条4号
  • あおり運転による危険運転致死傷罪(2条5号・6号
  • 赤信号を殊更に無視した走行による危険運転致死傷罪(2条7号
  • 通行禁止道路の進行による危険運転致死傷罪(2条8号
  • アルコール又は薬物の影響により正常な運転に支障が生じるおそれがある状態での運転による危険運転致死傷罪(3条1項
  • 病気の影響により正常な運転に支障が生じるおそれがある状態での運転による危険運転致死傷罪(3条2項
  • 無免許危険運転致傷罪(6条1項
  • 無免許危険運転致死傷罪(6条2項

をいいます。

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