刑法(強制性交等罪)

強制性交等罪(1) ~「強制性交等罪とは?」「犯人・被害者ともに男女を問わない」「被害者は生存していることを要する」「売春婦、夫婦も被害者になる」を判例で解説~

 これから数回にわたり強制性交等罪(刑法177条)について解説します。

強制性交等罪とは?

 強制性交等罪は、

  • 13歳以上の者に対し、暴行または脅迫を用いて、「①性交、②肛門性交、③口腔性交」をする行為
  • 13歳未満の者に対しは、暴行または脅迫は必要なく、「①性交、②肛門性交、③口腔性交」をする行為

を罰する罪いいます。

 なお、「①性交、②肛門性交、③口腔性交」をまとめて、「強制性交等」といいます。

主体(犯人)

 強制性交等の主体(犯人)は、男女をといません。

 男性犯人が女性被害者を強制性交等するのが通常ですが、女性犯人が男性被害者に対し、強制性交等する行為も、本罪を成立させます。

客体(被害者)

 強制性交等の客体(被害者)も、男女をといません。

 刑法177条の後段の被害者は、13歳未満の男女の被害者であり、本罪の成立を認めるに当たり、暴行・脅迫をされたことを要しません。

被害者は生存していることを要する

 被害者は生存していることを要します。

 死体に対して強制性交等を行っても、強制性交等罪は成立しません(最高裁判決 昭和23年11月16日)。

 これに対し、被害者を強制性交等する目的で暴行を加えて死亡させ、その直後に強制性交等した場合については、強制性交等の行為が被害者の死亡後であって、被害者の死亡と強制性交等の行為を包括して強制性交等致死罪(刑法181条2項)が成立します

 この点について判示した以下の判例があります。

最高裁判決(昭和36年8月17日)

 この判例で、裁判官は、

  • 姦淫の目的のため、その手段として暴行脅迫を用い、結局、被害者を窒息死に至らしめ、姦淫の目的を遂げたという趣旨を認定しているのであって、本件の場合は、姦淫行為が殺害の直後であったとしても、これを包括して強姦致死罪(現行法:強制性交等致死罪)と解すべきである

と判示しました。

売春婦も被害者になる

 被害者は、淫行の常習のない女子に限られるものではありません。

 なので、売春婦であっても、これを姦淫すれば、強制性交等罪を構成します。

 この点について判示した以下の判例があります。

広島地裁判決(昭和43年12月24日)

 売春婦を旅館に誘い、その場で暴行脅迫を加えて強姦と強盗を行った行為について、強盗強姦罪(現行法:強盗・強制性交等罪)が成立するとした事例です。

 裁判官は、

  • 被害者に全く自由の失なわれている強姦の場合には、売春婦といえども、まったく通常の婦女子と同様に、完全なる被害者である

と判示し、売春婦も強制性交等の被害者に当たるとしました。

内縁・夫婦関係にある者も被害者になる

内縁関係

 内縁関係にある者が被害者の場合でも、強制性交等罪が成立します(札幌高裁判決 昭和30年9月15日)。

夫婦関係

 夫婦間では性交を要求する権利があるとはいえ、性交の手段方法が相当でないときは、夫婦間でも強制性交等罪が成立する場合があると解されています。

 参考となる判例として、以下のものがあります。

広島高裁松江支部判決(昭和62年6月18日)

 この判例は、婚姻が実質的に破綻していたとして、強姦罪(現行法:強制性交等罪)の成立を認めた事例です。

 裁判官は、

  • 被告人と被害者B子は、本件当時、婚姻関係は完全に破綻し、両名はすでに夫婦たるの実質を失っていた
  • しかるに、被告人は、自分の遊び仲間である共犯者Aと2人で暴力を用いて妻をその実家から無理矢理連れ出し、自宅に連れ帰る途中、Aと共謀のうえ、B子を輪姦しようと企て、白昼、人里離れたAにおいて、B子に対し、暴行を加えてその反抗を抑圧したうえ、こもごもB子を強いて姦淫したものであることが認められる
  • 婚姻中、夫婦が互いに性交渉を求め、かつ、これに応ずべき関係にあることはいうまでもない
  • しかしながら、右 「婚姻中」とは実質的にも婚姻が継続していることを指し、法律上は夫婦であっても、婚姻が破綻して夫婦たるの実質を失い、名ばかりの夫婦にすぎない場合には、もとより夫婦間に関係はない
  • 夫が暴行又は脅迫をもって妻を姦淫したときは強姦罪(強制性交等罪)が成立し、夫と第三者が暴力を用い共同して妻を輪姦するに及んだときは、 夫についてもむろん強姦罪の共同正犯が成立する

と判示しました。

 なお、この判例の事案は、夫が第三者と共謀して妻を輪姦した事例なので、婚姻関係の破綻の有無にかかわらず、強制性交等罪の成立が認められるべき事案です。

東京高裁判決(平成19年9月26日)

 この判例は、法律上の夫が妻に対して、暴行脅迫を加えて、姦淫をした場合に、強姦罪が成立するとされた事例です。

 裁判官は、

  • 婚姻中の夫婦は、互いに性交渉を求め、かつ、これに応ずべき関係にあることから、夫の妻に対する性交を求める権利の行使として常に違法性が阻却されると解することも考えられる
  • しかし、かかる権利が存在するとしても、それを実現する方法が社会通念上一般に認容すべきものと認められる程度を超える場合には、違法性を阻却しないと解される
  • そして、暴行・脅迫を伴う場合は、適法な権利行使とは認められず、強姦罪(現行法:強制性交等罪)が成立するというべきである
  • いかなる男女関係においても、性行為を暴行脅迫により強制できるものではなく、そのことは、女性の自己決定権を保護するという観点からも重要である
  • 本件は、夫が妻に対し、「やらせろよ。早く服脱げよ。やるのかやらないのか、どっちなんだ。やらせなきゃこれから店に行くぞ。おまえが店に行けなくなってもいいのか。」などと、性交に応じなければ、妻が勤務先から解雇されるよう仕向ける旨申し向けて脅迫し、妻を床に押し倒すなどの暴行を加え、その反抗を抑圧して、強いて妻を姦淫した場合であり、強姦罪(強制性交等罪)が成立する

と判示しました。

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