刑法(強制性交等罪)

強制性交等罪(4) ~「強制性交等罪における暴行・脅迫の定義」「暴行は第三者又は物に対する暴行も含まれる」「脅迫は欺罔的脅迫でもよい」を判例で解説~

強制性交等罪における暴行・脅迫の定義

暴行の定義

 強制性交等罪(刑法177条)の暴行は、

直接、被害者の身体に向けて加えられる有形力の行使

をいい、暴行の程度は、

被害者の反抗を著しく困難にする程度に達すること

を要します。

 「被害者の身体に向けて」の意味は広い解釈がされており、

第三者又は物に対する暴行も含まれる

と解されています。

 理由は、強制性交等罪の場合は、手段たる暴行によって達成される結果(強制性交等の実行)が明確かつ限定的であり、しかも実害が大きいため、暴行の範囲を狭く解釈すべき合理性はないためです。

 被害者に向ける暴行が広く解釈されていることが分かる判例として、以下の判例が参考になります。

大阪高裁判決(昭和38年5月28日)

 強姦(強制性交)の意思をもって被害者女子を車に同乗させ、被害者から停車を懇願されたのに聞き入れず、そのまま進行を続け、被害者に進行中の車からやむを得ず飛び降りさせて負傷させた事案で、裁判官は、強姦の手段である暴行に該当するとし、強制性交等罪の成立を認めました。

脅迫の定義

 強制性交等罪における脅迫は、

畏怖心を生じさせる目的で人に害悪を告知する行為

をいい、

害悪の内容、性質、通知方法のいかんを問わない

と解さています。

 その意味では、強制性交等罪に伴う脅迫は、恐喝罪、強盗罪の脅迫と同様であると解されます。

 強制性交等罪の脅迫は、強制性交等罪の暴行と同様に、広い解釈がされており、

強制性交の相手方又はその親族の生命・身体等に対する害悪の告知に限られず、第三者に対する害悪の告知でもよい

とされます。

 また、強制性交等における脅迫は、

  • 犯人自身によって告知されることを要しない
  • 告知の内容は虚偽であってもよい
  • 犯人自らが害悪を加えるものとして告知される必要はなく、害悪の実現に影響力があるものとして告知されれば足りる

とされています。

 参考となる判例として、以下のものがあります。

東京地裁判決(昭和37年4月24日)

 欺罔的脅迫行為による強制性交等罪の成立を認めた事例です。

 裁判官は、

『被告人S、Kは、皇居前広場でB(当17才)が愛人と刺激的な性行為をなしているのを覗き見して劣情を催うし、Bを強姦しようと共謀の上、帰宅の途についたBを尾行し、路上で被告人Sにおいて「私は私立探偵だが君は皇居前広場で関係していたろう。それを雑誌社の友人が写真に撮った。写真には顔も体全体も学校の徽章もよく写っている。雑誌に写真が出て学校などに知れたら大変だろう」と虚偽の事実を申し向け、驚愕したBに「ネガを取り返してやるから今日でも明日でも君と会う時間を決めよう」ともちかけそのような写真が雑誌に掲載されて学校、友達、母親等に知れたら自分の一生はだめになると思い極度に畏怖、困惑したBが「ぜひ今夜中にネガを取り戻して下さい」と懇願するや「子供だから金を出さなくてもよいだろう」といって、赤羽駅に連れ戻し、雑誌記者を装った被告人Kは、同所で電話連絡をしたように装って、「どうにかなりそうだ」といい、被告人Sは「それでは新宿の雑誌社へ行こう」などといって、Bを新宿へ伴い、喫茶店に連れ込み、被告人Kは「写真を撮った者には連絡が取れないが社の者に話をしておいた。ネガを取り戻すには10万円くらい出さなくてはだめらしい」といい、被告人Sは「それでは俺が金を都合しよう」とこれに応じ、その巧みな所作によつて、Bをしてネガを取り戻してこの苦境より救ってくれる者は被告人らをおいては他にないとの錯覚に陥らしめ、前記の畏怖あいまって、全く抵抗心を失っているBを、被告人Sの肩書居室に連れ込み、間もなく順次姦淫したものである』

と判示し、被害者をだまして畏怖させた上、強制性交した行為について、強制性交等罪が成立するとしました。

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