刑法(強制性交等罪)

強制性交等罪(6) ~「強制性交等罪の実行の着手の時期」「自動車内に引き込んだ場合の強制性交等罪の実行の着手の時期」を判例で解説~

強制性交等罪の実行の着手の時期

 強制性交等罪(刑法177条)の実行の着手の時期について説明します。

 実行の着手があったかどうかが、強制性交等未遂罪の成立の可否を分ける分岐点になります(実行の着手と犯罪の既遂と未遂の考え方については前の記事参照)。

 一般的にいえば、実行の着手とは、犯罪の構成要件の一部に該当する行為を開始することをいいます(大審院判決 明治36年12月21日)。

 具体的にどれだけの行為があれば着手といえるかは、必ずしも明確ではなく、具体的な事案ごとに検討していくことになります。

実行の着手を認めるにあたり、暴行・脅迫行為の着手があればよく、強制性交行為の着手は不要

 強制性交罪は、暴行・脅迫行為と強制性交行為が結合した形態の犯罪であるので、強制性交行為そのものに着手しなくても、暴行・脅迫行為があれば、実行に着手したことになります。

 この点を判示した以下の判例があります。

最高裁判決(昭和28年3月13日)

 裁判官は、

  • 被告人は、婦女を誘惑して郊外に連れ出し、午後10時過頃、人家も稀れなお寺の境内に連れ込み、同所で被害女性を強姦しようと企て、突然、同女の首を締めて境内の方へ押すようにしながら「大きな声をするな、殺して逃げてしまえばそれまでだ」と申し向けて脅迫したというのであるから、たとい被告人に未だわいせつ行為に出でんとした直接の姿態がなかったとしても、これをもって強姦の実行に着手したものというに妨げない
  • 原判決が被告人の所為に対し、強姦未遂罪(現行法:強制性交等未遂罪)をもって問擬(もんぎ)したのは正当である

と判示し、暴行・脅迫行為をした時点で、強制性交等罪の実行の着手があり、強制性交などのわいせつ行為に及んでいなくても、実行の着手が認められる以上、強制性交等未遂罪が成立するとしました。

自己又は他者が行った暴行・脅迫の先行行為を利用して強制性交をしようとした場合の実行の着手は、先行する暴行・脅迫の結果を利用しようとした時点で認められる

 判例は、強制性交以外の目的で自ら又は共犯者の行った暴行・脅迫の結果を利用した場合にも、強制性交等罪の成立を認めています(詳しくは前の記事参照)。

 このような場合には、先行する暴行・脅迫の結果を利用して強制性交をしようとする行為があった時点で実行の着手があったといい得るとされます。

自動車内に被害者を連れ込んで強制性交する場合の実行の着手の時期

 車を利用して被害者を拉致し、車内あるいは他の場所で被害者を姦淫するという形態の強制性交する事犯にあっては、被害者を車内に引き入れるなどのための暴行の開始と姦淫行為の開始とが時間的にも距離的にも相当離れている場合が多く、また、姦淫に際しては、あらためて暴行・脅迫行為が加えられるのが通常であるため、どの時点から強制性交等罪の実行の着手があったと認めるべきかが問題となります。

 しかも、この種の事犯では、車内に引き入れようとした際に傷害の結果を生じやすく、実行の着手をどの時点に求めるかで、「強制性交等致傷罪」が成立するか、「強制性交等罪と傷害罪の併合罪」が成立するか分かれるため問題となります。

 この問題は、暴行が刑法177条に規定する「暴行又は脅迫を用いて性交等した」といい得るだけの強制性交の結果への直接的危険性を有しているかということに帰着します。

 この点についての指導的判例は、最高裁決定(昭和45年7月28日)です。

 この判例は、数人が共謀の上、夜間1人で道路を通行中の女子Aを強姦しようと企て、必死に抵抗するAをダンプカーの運転席に引きずり込み、車を発進させて同所から約5800メートル離れた場所に至り、運転席内でこもごもAを強姦したという事案について、裁判官は、

  • 被告人がAをダンプカーの運転席に引きずり込もうとした時点において強制性交等罪の実行の着手があったものと解するのが相当である

としました。

 この判例において、裁判官は、「すでに強姦に至る客観的な危険性を明らかに認められる」として、実行の着手を認めたものです。

 さらに、判断基準として、行為の状況、暴行の強度などの客観的事実関係の他に、犯人の強制性交に対する意図の強固さという点が考慮されています。

 自動車の中に引きずり込んで、車内あるいはどこか邪魔の入らない所で強姦しようという犯人の意図が強固である場合には、自動車の特性ともいえる高度の密室性と移動性からみて、一度車内に引きずり込まれてしまえば、車内においてであれ、どこか他の場所においてであれ、姦淫に至る危険性は、他に特段の事情がない限りきわめて高いといわなければなりません。

 なので、車内に引きずり込もうとして暴行を加えた段階で、強制性交等罪の実行の着手を認めたこの判例は支持されています。

 この判例により、暴行・脅迫が強制性交行為の直接の手段ではなく、また、強制性交行為との間に時間的・場所的間隔があっても、犯人の意図が強固であり、強制性交に至る客観的危険性が高い場合には。強姦の実行の着手と認められるという考え方が明確にされました。

自動車を用いての強制性交等罪の実行に着手したその他の事例

 自己の運転による自動車を故意に被害者あるいはその自転車に激突させる行為を姦淫の手段としての暴行と認めた事例として以下の判例があります。

名古屋高裁判決(平成9年6月5日)

 被告人が女子中学生を拉致、強姦する目的でその後方から自動車で接触し転倒させたものの、思いのほか大きな怪我を負わせてしまったことに動転し、犯跡隠蔽のため同女を更に轢過して殺害した上、その死体を7つに切断して池に投棄した行為について、強姦致傷(現行法:強制性交等致傷)、殺人、死体損壊遺棄の成立を認めました。

大阪地裁判決(平成9年6月18日)

 自動車を運転していた被告人が、強姦の目的で被害者運転の自転車に自車を衝突させて被害者を転倒させ、病院へ連れていくと偽って自車に同乗させた上、強姦しようとしたが、被告人が任意に犯行を中止したため、姦淫は未遂に終わった事案で、強制性交等未遂罪の成立を認めました。

犯人の強制性交の意図の強固さと強制性交に至る客観的危険性を中心にして実行の着手の有無が判断された事例

 暴行・脅迫が強制性交の直接の手段とはいえない場合には、暴行・脅迫が加えられるに至った経過、当時の場所的・時間的状況、暴行等の強度等により、強制性交の実行の着手と認められるか否かの認定上、問題を生じる場合が多くあります。

 しかし、このような場合にも、基本的考え方としては、犯人の強制性交の意図の強固さと強制性交に至る客観的危険性を中心にして判断すべきとされます。

 この観点から、強制性交の実行の着手が認められた行為として、以下の行為があります。

① 人通りの少ない山道で道路脇の山林に引っ張り込んで強制性交しようという意図の下に、いきなり被害者の腰を抱いて押さえつけた行為(仙台高裁判決 昭和33年8月27日)

② 強制性交の意思をもって、婦女を単車に同乗させ、道の途中で被害者から停車を懇請されたのに聴き容れず、そのまま進行を続け、被害者をして進行中の車から飛降りるのやむなきに至らしめ、負傷させた行為(大阪高裁判決 昭和38年5月28日)

③ 10歳の少女を強制性交する意思の下に、山道の奥深く連れ込もうとしたところ、不安に感じた少女が逃げ出そうとしたのを妨げるため、背後から少女の胴を抱き、手で少女の口を塞ぐなどの暴行を加えた行為(東京高裁判決 昭和38年6月13日)

白タク営業をしていた被告人が、夜間、女性1人が客として乗車したのを奇貨として、 これを強制性交しようと企て、指定された行先とは異なる山間部に車を走らせ、人家の少ない空き地に停車した上、下車し、無言で後部ドアを開いて被害者の身辺に迫るため乗車しようとした行為(高松高裁判決 昭和41年8月9日)

⑤ 強制性交の犯意をもって、モーテルのガレージ内に自動車を乗り入れ、 同乗中の婦女を2階の寝室に連れて行こうとして暴行・脅迫を加えた行為(名古屋高裁金沢支部判決 昭和46年3 月18日)

⑥ ラブホテルの敷地内でホテルに連れ込もうとして暴行を加えた行為(東京高裁判決 昭和57年9月21日)

実行の着手を認めなかった事例

 犯人の強制性交の意図の強固さと強制性交に至る客観的危険性を検討した上、強制性交等罪の実行の着手を認めなかった事例として、以下の裁判例があります。

広島高裁判決(平成16年3月23日)

 裁判官は、

  • 本件犯行の時刻、犯行現場の状況、被告人が被害者に加えた暴行脅迫の内容及び程度、被害者を連れ込もうとした自動車の停車位置や状況、自動車までの距離、被害者の年齢、体格及び抵抗の状況、被害者に暴行脅迫を加えた後に被告人が被害者や通行人らとしたやりとりの内容などを考慮すると、被告人が被害者を姦淫しようとする犯意が強固であったことを併せ考慮してみても、被告人は単独で、しかも凶器を使用することなく本件犯行を遂行しようとしているところ、成人した被害者の激しい抵抗を排除して、マンションの外階段を降り、その出入口から約20メートル離れていて民家の前に停めてある自動車内に被害者を連れ込み、その停車場所で、あるいは、自動車を運転して適当な場所まで移動するなどした上、強いて姦淫行為に及ぶためには、客観的に困難な事情が多々あったというべきである
  • そうすると、被告人が被害者に暴行脅迫を加えた時点において、直ちに強姦の犯意を確実に遂行できるような状況にあったということはできないのであって、本件暴行脅迫は、被告人の姦淫の意図を実現するための手段としては、その客観的危険性を具備しておらず、その準備段階にあったというべきであるから、いまだ強姦の実行に着手したということはできない
  • 検察官は、被告人が被害者に加えた暴行脅迫の態様・程度は、被害者の反抗を抑圧するに十分であるものと認められるほど悪質、重大なものであること、強姦の犯意が強固であることなどから、強姦の実行の着手を認めた原判決の認定は相当であると主張する
  • しかし、すでに検討したとおり、被告人が加えた暴行脅迫の程度は、重大であるとまではいえないものであり、被害者も、被告人からの難を逃れるために種々の対応を行っていることからしても、本件事案においては、被告人が暴行脅迫を加えた時点で、直ちに被害者を自動車内に連れ込んで強姦に至る客観的な危険性があったということはできない

と判示し、強制性交等罪の実行の着手があったことを否定し、強制性交等未遂罪の成立を否定しました。

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