これから数回にわたり昏酔強盗罪(刑法239条)について解説します。
昏酔強盗とは?
昏酔強盗罪(刑法239条)は、人を昏酔させて財物を盗むことによって成立する犯罪です。
昏酔させる方法として、
- 酒を飲ませて泥酔させる
- 薬物を飲ませて意識を失わせたり、眠らせる
といった方法が考えられます。
昏酔強盗罪が設けられた趣旨
人を昏酔させる行為は、広義においては有形力の行使の一種であり、暴行の概念に含まれます。
ただ、刑法には暴行の定義の規定がないため、解釈論上、暴行の概念から昏酔が除外されるおそれもあるので、特に本条が設けられたものとみられています。
刑法は、財物を奪取する行為を「強盗」と「窃盗」とに分類し、行為者が相手方の反抗を抑圧して財物を奪取したのであれば「強盗」を認定し、そうでなければ「窃盗」を認定するとしました。
そして、財物を奪取するため、相手方を昏酔させてその反抗を抑圧した上、財物を奪取するという昏酔強盗の行為は、窃盗というよりはむしろ強盗に類する罪質のものといえ、その反社会性の評価においても、強盗と同じものとして取り扱うのが相当であるとされました。
このような見地から、刑法239条は、相手方を昏酔させてその反抗を抑圧した上、財物を奪取する行為を「強盗として論ずる」と定め、これを刑法上、強盗として取り扱うことを明らかにしました。
昏酔強盗罪の行為
昏酔強盗罪が成立するためには、財物を盗取する目的を持った状態で、被害者を昏酔させる必要がある
昏酔強盗罪は、人を昏酔させてその反抗を抑圧し、財物を盗取することが構成要件となっています。
それゆえ、昏酔強盗罪が成立するには、まず、行為者が財物を盗取するために人を昏酔させることが必要になります。
いいかえると、行為者が、強盗以外の目的で被害者を昏酔させた後、財物を盗取した場合は、昏酔強盗罪は成立しないことになります。
例えば、
- 強制性交する目的で相手方を昏酔させた後、財物盗取の犯意を生じ、昏酔に乗じて財物を盗取した場合
- 行為者以外の者の行為により、あるいは相手自らが何らかの理由により昏酔しているのを奇貨として、その者から財物を盗取した場合
は、行為者が財物を盗取するために人を昏酔させたものではないので、昏酔強盗罪は成立しないと解されています。
参考となる判例として、以下の判例があります。
この判例で、裁判官は、
- 昏酔強盗が成立するためには、強盗犯人自らが被害者を昏酔せしめることが必要てあって、他人が昏酔せしめていたり、または被害者自らが昏酔又は熟睡している間に、被害者の財物を奪取しても強盗罪とはならない
- これは単純窃盗であるに過ぎない
と判示しました。