刑法(電子計算機使用詐欺罪)

電子計算機使用詐欺罪(2) ~「『人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与え、財産権の得喪若しくは変更に係る不実の電磁的記録を作り』とは?」「クレジットカード、ETCカードの不正使用事案」を判例で解説~

「人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与え」とは?

 電子計算機使用詐欺罪(刑法246条の2)の前段にある「人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与え、財産権の得喪若しくは変更に係る不実の電磁的記録を作り」の意味について説明します。

「人の事務処理」とは?

 まず、「人の事務処理」の意味について説明します。

 「人の事務処理」とは、

他人の財産上、身分上その他の人の生活関係に影響を及ぼし得る事柄の処理

をいいます。

 この「人の事務処理」は、業務として行われるか否か、法律的な事務か否かは問いませんが、事柄の性質上、財産権の得喪・変更に係る事務に限定されると考えられています。

「電子計算機」とは?

 「電子計算機」とは、

それ自体が自動的に情報処理を行う電子装置として一定の独立性を有し、財産権の得喪・変更に係る電磁的記録の作出などを行い得るもの

をいいます。

「虚偽の情報」とは?

 「虚偽の情報」とは、

電子計算機を使用する当該システムにおいて予定されている事務処理の目的に照らし、その内容が真実に反する情報

をいいます(東京高裁判決 平成5年6月29日)。

 すなわち、単に入力された情報が真実に反しているかではなく、電子計算機による事務処理の目的に照らし、その内容が真実に反するかを実質的に判断することになります。

「虚偽の情報」について言及した判例

 「虚偽の情報」について言及した判示を紹介します。

【クレジットカード不正使用事案】

最高裁決定(平成18年2月14日)

 この判例は、電子マネーの購入を申し込んだとする情報が、「虚偽の情報」に当たると判断しました。

 事案は、窃取したクレジットカードを利用して、出会い系サイトの有料サービスを受けようと考え、インターネットを介して、同クレジットカードの名義人氏名等の情報を入力して、利用代金のクレジットカード決済に用いられる電子マネーを購入した事案です。

 裁判官は、

  • 本件クレジットカード名義人による電子マネーの購入申込みがないにもかかわらず、本件電子計算機に同カードに係る番号等を入力送信して名義人本人が電子マネーの購入を申し込んだとする情報が「虚偽の情報」に当たる

としました。

 また、この判例は、「人を介さずに、電子計算機を介してクレジットカード決済を行った行為について、電子計算機使用詐欺が成立する」としており、この点も注目すべき点になっています。

 クレジットカードの不正使用については、クレジットカードの名義人でないものが、名義人になりすまし、同カードの使用権限があるかのように装い、店員に同カードを示し、加盟店で商品等を購入する行為は、詐欺罪を成立させます(最高裁決定 平成16年2月9日)。

 対して、電子計算機使用詐欺罪が成立するクレジットカードの不正使用の事案は、人を介さず、電子計算機を介してクレジットカード決済を行う点に違いあります。

【ETCカード不正使用事案】

 上記クレジットカードの事案と同様、盗んだETCカードを利用して高速道路を走行するような場合も、ETCカードの真実の名義人が高速道路を利用したかのような「虚偽の情報」を料金所設置の電子計算機に与えるといえます。

 ETCシステムを利用した行為について、電子計算機使用詐欺罪の成立を認めた判例として、以下の判例があります。

千葉地裁判決(平成22年10月4日)

 特大車に大型車の車両情報が記録されたETC車載器を搭載・作動させて料金所を通過し、これにより高速道路会社の電子計算機に虚偽の情報を与えて不実の電磁的記録を作って正規の通行料金との差額を免れた行為について、電子計算機使用詐欺罪が成立するとしました。

千葉地裁判決(平成21年9月1日)

 高速道路に入った料金所を偽った情報が記録されたETCカードを挿入し、車載器を作動させて料金所を通過し、これにより高速道路会社の電子計算機に虚偽の情報を与えて不実の電磁的記録を作って正規の通行料金との差額を免れた行為について、電子計算機使用詐欺罪が成立するとしました。

【銀行支店長が部下に不正な振込入金をさせた事案】

東京高裁判決(平成5年6月29日)

 この判例は、入金等の権限がある信用金庫の支店長が、多額の個人的債務の返済に窮したことから、情を知らない部下の係員に命じて、その返済に必要た資金を自己の預金口座に振込入金させた事案です。

 第一審判決(東京地裁判決 平成4年10月3日)では、

  • 支店長には入金・送金の権限があるため、当該振込入金等は、支店の業務として行われたものであって架空のものではなく、「虚偽の情報」を与えたことにはならない

とする見解の下に、電子計算機使用詐欺罪の成立を否定しました。

 しかし、控訴審において、この判決は覆されました。

 東京高等裁判所の裁判官は、

  • 被告人の本件各行為は、被告人が勤務先のA信用金庫とは関係がない副業等により負った個人的な債務の処理のために勝手に部下職員を使用してなした不正行為であって、同金庫B支店長としての業務上の行為というよりは、個人すなわち同金庫の一般顧客と同等の立場における行為に、自己の支店長としての地位を悪用したものとみるのが相当と思われる
  • 支店長は、その支店の保有する資金の管理者であり、また、オンラインシステムの端末機やこれを操作する職員を管理・監督する者ではあっても、無制限な入金等の権限を有するわけではなく、現金等の受入れの事実がないのに、特定の口座に入金したり、振込入金したりする権限が全くないことは明らかである
  • 金融機関が、振込・入金の無効を主張することができないことになるからといって、本件のような不正の入金等に関する入力情報が虚偽ではないことになるわけではない
  • 本件において、被告人が電子計算機に入力した入金等に関する情報に経済的・資金的実体が伴っていると解すべき理由は見当たらない。

と判示し、金融実務等における「虚偽の情報」とは、入金等の入力処理の原因となる経済的・資金的実態を伴わないか、あるいはそれに符合しないような情報をいうとして、電子計算機使用詐欺罪の成立を認めました。

「虚偽の情報を与え」とは?

 「虚偽の情報」を与えた例として、金融機関のオンラインシステムを悪用した架空入金のデータ入力が挙げられます。

 例えば、他人のキャッシュカードを自動振替機等で不正に使用して、他人の暗証番号と振込データを入力し、仕向銀行のコソピュータセンターや全銀センターを介して、被仕向銀行のコソピュータセンターの電子計算機に振込電信を発出する行為のように、部外者がキャッシュカードを不正使用する態様のものが該当します。

 そのほか、金融機関の職員などの部内者が、オンラインシステムの窓口端末機を不正に操作して、振替入金や振込依頼等の事実がないのに、これがあったような入金データを入力して元帳ファイル上の預金残高を書き替える行為が該当します。

 この点について、以下の判例があります。

大阪地裁判決(昭和63年10月7日)

 この判例は、銀行の女子行員がオンラインシステムの端末を操作して、同システムの電子計算機に対し自己の預金口座等に振替入金があったとする虚偽の情報を与え、同計算機に接続されている記憶装置の磁気ディスクに記録された同口座の預金残高を書き換えた事案につき、電子計算機使用詐欺罪が成立するとしました。

東京地裁八王子支部判決(平成2年4月23日)

 この判例は、オンラインによる電信為替送金のシステムを悪用して、勤務先の電算機の端末から不正の振込発信をし、これと接続している被仕向(振込先)銀行の電算機に接続された磁気ディスクに記憶された預金口座の預金残高を書き換えた行為が、電子計算機使用詐欺罪に当たるとしました。

千葉地裁判決(平成5年3月18日)

 この判例は、銀行の女子行員が、愛人と共謀の上、銀行のオンラインシステムの端末機を操作して、愛人名義の口座に入金があった旨の虚偽の入力情報を与えた行為につき、電子計算機使用詐欺罪が成立するとしました。

東京地裁判決(平成7年3月1日)

 この判例は、信用組合の支店の副長らが共謀の上、同組合の係員にオンラインシステムの端末機を操作させて、第三者名義の口座に入金があった旨の虚偽の入力情報を与えた行為につき、電子計算機使用詐欺罪が成立するとしました。

大阪地裁判決(平成8年12月6日)

 この判例は、信用組合の女子職員が、係長又は部長代理として、同組合のオンラインシステムの端末機を操作して、自己が開設し管理する口座等に振替入金があった旨の虚偽の入力情報を与えた行為につき、電子計算機使用詐欺罪が成立するとしました。

「不正な指令を与え」とは?

 「不正な指令」を与えるとは、たとえば、プログラマーが自己の預金残高を増額させ、あるいは自己の債務等を減額する処理を行うプログラムを不正に作出して、これを電子計算機に用いるような行為が該当します。

虚偽の情報、不正な指令を「与え」とは?

 虚偽の情報、不正な指令を「与える」行為は、電子計算機使用詐欺罪を行う犯人自らが行う場合のほか、オペレーター等の行為を利用した、間接正犯的態様のものもあります。

 例えば、銀行の支店長代理が、情を知らない係員に端末機を操作させて、虚偽の入金データを入力させた行為(上記の東京高裁判決 平成5年6月29日と東京地裁判決 平成7年3月1日参照)が、間接正犯的態様になります。

 また、パンチャーなどが、機械的に伝票の内容を電子計算機への入力用記録媒体に記録し、オペレーターがこの記録媒体を用いて財産権の得喪・変更に係る電磁的記録である元帳ファイルの更新を行っている場合に、情を知らないパンチャーに虚偽伝票を示し、その内容を記録媒体に記録させる行為が、間接正犯的態様としてあげられます。

「不実の電磁的記録を作り」とは?

 「不実の電磁的記録を作り」の「不実」とは、

真実に反する内容

を意味します(「虚偽」と同じ趣旨です)。

 ちなみに、「虚偽」と「不実」では、「虚偽」は行為者が積極的・直接的に真実に反するものを作り出すこと、 つまり虚構を行う場合に用いられることが多いのに対し、「不実」は、単に客観的に真実に反する記録という意味で、行為者の直接の行為内容ではなく、間接的に起こることに用いられるというニュアンスの違いがあります。

 「作り」とは、具体的には、真実に反して電子計算機に接続されている元帳ファイル等の預金残高の記録が増額されたり、貸付残高の記録が減額された場合をいいます。

 このような場合は、「不実」の電磁的記録が作られたといえます。

 また、犯人が、第三者のA、B間で振替送金をしたような電磁的記録を勝手に作出した場合において、民事上は、Bに預金債権が成立するときでも、Aの意思に反した振替送金であれば電磁的記録は不実なものとされます。

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