単独制・合議制とは?
一つの事件の裁判を担当する裁判官は、
- 1人の裁判官で構成される「単独制」
- 複数の裁判官で構成される「合議制」
のどちらかの体制がとられます。
最高裁判所
最高裁判所は、大法延が裁判官15人の合議制、小法廷が裁判官5人の合議制がとられます(裁判所法9条、5条1項・3項、最高裁判所裁判事務処理規則2条)。
高等裁判所
高等裁判所で行う裁判は、通常は裁判官3人の合議制がとられます。
ただし、内乱罪に関する罪(刑法77条、78条、79条)の第一審の場合は、裁判官5人の合議制がとられます(裁判所法18条)。
【補足説明】内乱罪に関する罪について
内乱罪に係る事件については、高等裁判所が第一審を扱うことになっています(裁判所法16条4項)。
内乱罪に関する罪を法は、高等裁判所の「特別権限に属する事件」と呼んでいます(刑訴法3条2項、5条2項、330条)。
内乱罪に関する罪は、高等裁判所の専属管轄となります。
地方裁判所
地方裁判所で行う裁判は、原則として裁判官1人の単独制(単独体)がとられますが、裁判官3人の合議制(合議体)がとられる場合もあります(裁判所法26条)。
地方裁判所事件のうち、裁判官1人の単独体で取り扱う事件を「単独事件」、裁判官3人の合議体で取り扱う事件を「合議事件」といいます。
合議事件は、
- 裁判官1人の単独体でもできるが、事件の複雑さや難易を考慮し、裁量により、裁判官3人の合議体で審判する決定をした事件である「裁定合議事件」(裁判所法26条2項1号)
- 法律で裁判官3人の合議体で審判しなければならないことが定められている事件である「法定合議件」(裁判所法26条2項2号)
に分けられます。
法定合議事件は、
死刑・無期・短期1年以上の懲役・禁錮に当たる罪に係る事件
※ ただし、強盗罪(刑法236条)、事後強盗罪(刑法238条)、昏睡強盗罪(刑法239条)、暴力行為等処罰に関する法律第1条の2第1項若しくは第2項又は第1条の3第1項の罪、常習累犯盗罪(盗犯等の防止及び処分に関する法律第2条又は第3条)を除く
が該当事件となります。
このページの最後に法定合議事件に該当する罪名を列挙します。
簡易裁判所
簡易裁判所は、常に裁判官1人の単独制で裁判を行います(裁判所法35条)。
簡易裁判所が裁判官3人の合議体で裁判を行うことはありません。
裁判官の種類
裁判官は、
に分けられます(裁判所法5条)。
刑事訴訟法における裁判官の呼称
刑事訴訟法上は、裁判所を構成する裁判官を
に分けて呼びます。
以下で詳しく説明します。
① 裁判長
裁判長は、複数の裁判官で構成される合議体において、その合議体を代表する裁判官をいいます。
② 陪席裁判官
陪席裁判官は、複数の裁判官で構成される合議体の裁判官のうち、裁判長以外の裁判官をいいます。
3人の裁判官で構成される裁判体において、真ん中を裁判長、裁判長から見て右隣を「右陪席」、左隣を「左陪席」と呼びます。
③ 補充裁判官
補充裁判官は、合議体の裁判において、審理が長くなることが予想される場合に、補充の裁判官として審理に立ち会い、途中で合議体の裁判官が審理に関与できなくなったとき、その裁判官に代わって合議体に加わる裁判官をいいます(裁判所法78条)。
④ 受命裁判官
受命裁判官は、合議体の裁判所から特定の訴訟行為を命ぜられた、その合議体の構成員である裁判官をいいます。
特定の訴訟行為とは、法で定められている以下の行為が該当します。
- 管轄区域外での職務執行(刑訴法12条)
- 管轄違いの場合の要急処分(刑訴法14条)
- 裁判官による押収・捜索 (刑訴法125条)
- 裁判官による検証(刑訴法142条:刑訴法125条を準用)
- 裁判所外での証人尋問(刑訴法163条)
⑤ 受託裁判官
受託裁判官は、裁判所間の共助(裁判所法79条)として、受訴裁判所(検察官が事件を起訴した裁判所)から特定の訴訟行為の嘱託を受けた他の裁判所の裁判官をいいます。
受訴裁判所が嘱託できる訴訟行為も、以下のとおり、法で定められています。
- 事実の取調べ(刑訴法43条4項)
※ 事実の取調べとは、訴訟記録以外の何らかの資料により事実の存在を確かめることであり、具体的には、証人尋問、被告人質問、証拠書類の取調べが該当します。
⑥ 参与判事補
参与判事補は、参与判事補制度に基づき、判事補を指導・養成することを目的として、昭和47年に最高裁判所規則「地方判所における審理に判事補の参与を認める規則」で設けられたものです。
参与判事補は、裁判官1人で審理を行う単独体の地方裁判所の審理に参与する裁判官(判事補)をいいます。
参与判事補は、受訴裁判所(検察官が事件を起訴した裁判所)の構成員にはなりません。
よって、参与判事補は、審理に立ち会い、事件について意見を述べることができますが、評議権、訴訟指揮権、発問権はなく、裁判官を審理から排除する規定(除斥・忌避・回避)の適用もありません。
また、参与判事補の交替は公判手続の更新事由ともならないものなので、形式的にも実質的にも裁判体の構成員となるものではなく、2人合議制を採用したものではないことが判例(最高裁決定 昭和54年6月13日)で示されています。
法定合議事件の罪名一覧
刑法、自動車運転死傷処罰法において、法定合議事件(死刑・無期・短期1年以上の懲役・禁錮に当たる罪に係る事件)に該当する罪名を列挙します。
- 内乱首謀(刑法77条1項1号) 死刑又は無期禁錮
- 内乱謀議参与(刑法77条1項2号前段) 無期又は3年以上の禁錮
- 内乱職務従事(刑法77条1項2号後段) 1年以上10年以下の禁錮
- 内乱予備陰謀(刑法78条) 1年以上10年以下の禁錮
- 外患誘致(刑法81条) 死刑
- 外患援助(刑法82条) 死刑又は無期若しくは2年以上の懲役
- 外患予備陰謀(刑法88条) 1年以上10年以下の懲役
- 看守者逃走援助(刑法101条) 1年以上10年以下の懲役
- 騒乱首謀(刑法106条1項) 1年以上10年以下の懲役又は禁錮
- 現住建造物等放火(刑法108条) 死刑又は無期若しくは5年以上の懲役
- 非現住建造物等放火(刑法109条1項) 2年以上の有期懲役
- 建造物等以外放火(刑法110条1項) 1年以上10年以下の懲役
- 消火妨害(刑法114条) 1年以上10年以下の懲役
- 激発物破裂(刑法117条1項) 放火(刑法108条、109条、110条)の例による
- ガス等漏出(刑法118条2項) 3年以下の懲役又は10万円以下の罰金
- 現住建造物等浸害(刑法119条) 死刑又は無期若しくは3年以上の懲役
- 建造物等以外浸害(刑法120条) 1年以上10年以下の懲役
- 水防妨害(刑法121条) 1年以上10年以下の懲役
- 往来妨害致死(刑法124条2項) 3年以上の有期懲役
- 電汽車往来危険(刑法125条1項) 2年以上の有期懲役
- 艦船往来危険(刑法125条2項) 2年以上の有期懲役
- 電汽車転覆(刑法126条1項) 無期又は3年以上の懲役
- 艦船転覆(刑法126条2項) 無期又は3年以上の懲役
- 船車転覆致死(刑法126条3項) 死刑又は無期懲役
- 電汽車往来危険転覆(刑法127条) 無期又は3年以上の懲役
- 艦船往来危険転覆(刑法127条) 無期又は3年以上の懲役
- 税関職員あへん煙輸入(刑法138条) 1年以上10年以下の懲役
- 浄水汚染致死(刑法145条) 3年以上の有期懲役
- 水道汚染致死(刑法145条) 3年以上の有期懲役水道汚染致死
- 浄水毒物混入致死(刑法145条) 3年以上の有期懲役
- 水道毒物混入(刑法146条前段) 2年以上の有期懲役
- 水道毒物混入致死(刑法146条後段) 死刑又は無期若しくは5年以上の懲役
- 水道損壊(刑法147条) 1年以上10年以下の懲役
- 通貨偽造(刑法148条1項) 無期又は3年以上の懲役
- 偽造通貨行使(刑法148条2項) 無期又は3年以上の懲役
- 外国通貨偽造(刑法149条1項) 2年以上の有期懲役
- 偽造外国通貨行使(刑法149条2項) 2年以上の有期懲役
- 詔書偽造(刑法154条1項) 無期又は3年以上の懲役
- 詔書変造(刑法154条2項) 無期又は3年以上の懲役
- 有印公文書偽造(刑法155条1項) 1年以上10年以下の懲役
- 有印公文書変造(刑法155条2項) 1年以上10年以下の懲役
- 虚偽有印公文書作成(刑法156条) 1年以上10年以下の懲役
- 偽造詔書行使(刑法158条1項) 無期又は3年以上の懲役
- 偽造有印公文書行使(刑法158条1項) 1年以上10年以下の懲役
- 虚偽有印公文書行使(刑法158条1項) 1年以上10年以下の懲役
- 不同意性交等(刑法177条) 5年以上の有期懲役
- 監護者性交等(刑法179条2項) 5年以上の有期懲役
- 不同意わいせつ致傷(刑法181条1項) 無期又は3年以上の懲役
- 監護者わいせつ致傷(刑法181条1項) 無期又は3年以上の懲役
- 不同意わいせつ致死(刑法181条1項) 無期又は3年以上の懲役
- 監護者わいせつ致死(刑法181条1項) 無期又は3年以上の懲役
- 不同意性交等致傷(刑法181条2項) 無期又は6年以上の懲役
- 監護者性交等致傷(刑法181条2項) 無期又は6年以上の懲役
- 不同意性交等致死(刑法181条2項) 無期又は6年以上の懲役
- 監護者性交等致死(刑法181条2項) 無期又は6年以上の懲役
- 特別公務員職権濫用致死(刑法196条) 3年以上の有期懲役
- 特別公務員暴行陵虐致死(刑法196条) 3年以上の有期懲役
- 加重収賄(刑法197条の3第1項・2項) 1年以上の有期懲役
- 殺人(刑法199条) 死刑又は無期若しくは5年以上の懲役
- 傷害致死(刑法205条) 3年以上の有期懲役
- 不同意堕胎致死(刑法216条) 3年以上の有期懲役
- 遺棄致死(刑法219条) 3年以上の有期懲役
- 保護責任者遺棄致(刑法219条) 3年以上の有期懲役
- 逮捕監禁致死(刑法221条) 3年以上の有期懲役
- 営利拐取(刑法225条) 1年以上10年以下の懲役
- 身の代金拐取(刑法225条の2) 無期又は3年以上の懲役
- 拐取者身の代金取得(刑法225条の2第2項) 無期又は3年以上の懲役
- 所在国外移送拐取(刑法226条) 2年以上の有期懲役
- 営利人身買い受け(刑法226条の2第3項) 1年以上10年以下の懲役
- 人身売渡し(刑法226条の2第4項) 1年以上10年以下の懲役
- 所在国外移送人身売買(刑法226条の2第5項) 2年以上の有期懲役
- 被略取者等所在国外移送(刑法226条の3) 2年以上の有期懲役
- 身の代金拐取幇助目的被拐取者引渡し(刑法227条2項) 1年以上10年以下の懲役
- 身の代金被拐取者収受(刑法227条4項前段) 2年以上の有期懲役
- 収受者身の代金取得(刑法227条4項後段) 2年以上の有期懲役
- 強盗・不同意性交等致死(刑法241条3項) 死刑又は無期懲役
- 建造物損壊致死(刑法260条後段) 3年以上の有期懲役
- 危険運転致死(自動車運転死傷処罰法2条) 1年以上の有期懲役