刑事訴訟法(公判)

裁判所とは?④ ~「裁判官の除斥、忌避、回避:その2」を説明

 前回の記事の続きです。

 前回の記事では、裁判官の除斥(じょせき)を説明しました。

 今回の記事では、裁判官の忌避(きひ)、回避を説明します。

忌避(きひ)とは?

 忌避とは?

  • 裁判官に除斥原因があるとき
  • 又は
  • 不公平な裁判をするおそれがあるとき

に、検察官又は被告人の申立てにより、 その裁判官を職務の執行から排除する制度

をいいます(刑訴法21条1項)。

 除斥との違いは、

  1. 忌避の原因が非類型的である(除斥の原因は刑訴法20条に7類型が規定されている)
  2. 当事者(検察官又は被告人)の申立てによる(除斥は申立てなしで職務の執行から排除される)
  3. 裁判所の決定によって効果が生じる(除斥は何らの裁判を要せず、当然に職務の執行から排除される)

の3点です。

 忌避の原因は、

  • 裁判官に除斥原因があるとき

又は

  • 不公平な裁判をするおそれがあるとき

の2つです。

 「不公平な裁判をするおそれがあるとき」とは、

除斥原因に準じるような客観的事情(裁判官と事件との間に、客観的に公平な裁判を期待し得ないような特殊な人的・物的関係)があり、かつ、そのためその裁判官が不公平な裁判をするおそれが客観的に認められる場合

をいいます。

 忌避を申し立てることができるのは(忌避の申立権者は)、検察官と被告人です。

 被告人の弁護人も、被告人のために忌避の申立てができますが、被告人の明示した意思に反することはできません(刑訴法21条2項)。

忌避の判断基準を示した判例

 忌避の判断基準を示した判例として、以下のものがあります。

大審院判決(昭和14年11月22日)

 不公平な裁判をするおそれの有無は、申立人の主観によってではなく、客観的事情によって決せられます。

 裁判官は、

  • 偏頗な裁判を為すおそれありとするや否やは、忌避申立人自身の単なる主観により肯定すべきものにあらず
  • 偏頗の裁判を為すおそれありや否やは忌避申立人の所信に従ってこれを決すべきものにあらず
  • すべからく一般人の通念に照らし、理知的是認し得べき場合においてのみそのおそれあるものと為すを相当とする

と判示しました。

最高裁判決(昭和48年10月8日)

 裁判官の審理の方法・態度に対する不服・不満は忌避の理由にはなりません。

 そのような不服・不満は、異議申立て方法により救済を求めるべきものとなります。

 裁判官は、

  • 裁判官の忌避の制度は、裁判官がその担当する事件の当事者と特別な関係にあるとか、訴訟手続外において既に事件につき一定の判断を形成しているとかの、当該事件の手続外の要因により、当該裁判官によっては、その事件について公平で客観性のある審判を期待することができない場合に、当該裁判官をその事件の審判から排除し、裁判の公正および信頼を確保することを目的とするものであって、その手続内における審理の方法、態度などは、それだけでは直ちに忌避の理由となしえないものである
  • れらに対しては異議、上訴などの不服申立方法によって救済を求めるべきであるといわなければならない
  • したがって、訴訟手続内における審理の方法、態度に対する不服を理由とする忌避申立は、しょせん受け入れられる可能性は全くないものであって、それによってもたらされる結果は、訴訟の遅延と裁判の権威の失墜以外にはありえず、これらのことは法曹一般に周知のことがらである

と判示しました。

最高裁決定(昭和31年9月25日)

 被告事件に関連する民事事件の審判に関与した裁判官が、被告事件に関与したとしても、それだけでは、不公平な裁判をするおそれがあるとはいえず、忌避の理由にはなりません。

 裁判官は、

  • 申立人に対する背任被告事件における公訴事実とその社会的事実関係を同じくする民事訴訟事件について、その審判に関与した裁判官が、その後、右背任被告事件について合議体の一員として審判に関与したとしても、ただその一事をもって刑訴21条1項にいわゆる不公平な裁判をするおしれがあるものとすることはできないし、また同裁判所を目して憲法37条1項にいわゆる公平な裁判所でないとすることを得ない

と判事しました。

忌避の申立ての時期

 検察官・被告人が忌避を申し立てることができる時期は、除斥原因を理由とする忌避の申立ての場合は時期の制限はありません。

 しかし、不公平な裁判をするおそれがあることを理由とする場合は、当事者(検察官・被告人)が事件についての請求又は陳述をした後は、原則として、忌避を申し立てることはできません(刑訴法22条)。

 この理由は、当事者(検察官・被告人)が事件について請求や陳述をした場合は、その裁判官の審理を受ける意思を当事者(検察官・被告人)が暗黙に表示したものと認められるので、その後における忌避申立てを禁じ、忌避申立ての濫用を防止するためです。

※ ここでいう「請求又は陳述」とは、冒頭陳述証拠調べ請求、訴因変更請求(起訴状に記載された訴因または罰条について、検察官が審理の途中で追加・撤回・変更の請求をすること)、証人尋問などを指します。

※ 単に手続的事項に関するもの(公判期日の変更請求など、管違いの申立てなど)は、「請求又は陳述」に含まれないとされます。

忌避の申立てが却下される場合

 忌避の申立てが以下の①~③いずれかに該当する場合は、申立てを決定で却下しなければなりません(刑訴法24条)。

  1. 訴訟を遅延させる目的のみでされたことが明らかな場合(例えば、裁判官の審理の方法、態度に対する不服・不満を理由とする忌避申立ては、必然的に訴訟の遅延を招くものなので、訴訟遅延の目的のみでなされた忌避申立てという評価になります)
  2. 事件について請求又は陳述した後になされた場合
  3. 裁判所の規則で定める手続(刑訴法規則9条)に違反してなされた場合

 この却下の決定は、忌避申立てを受けた裁判官も却下の決定に関与できますし、忌避された裁判官が単独体(裁判官1人で裁判を行う体制)の裁判所の裁判官である場合には、忌避申立てを受けた裁判官自ら却下の裁判ができ、この却下決定を簡易却下といいます(刑訴法24条2条

忌避の申立てがなされると訴訟手続が停止される

 忌避の申立てがなされると、申立てを簡易却下する場合を除き、 原則として、訴訟手続が停止されます(刑訴法規則11条)。

 忌避の申立てに関する決定は、忌避を申し立てられた裁判官を関与させないで、合議体(1人の裁判官ではなく、複数の裁判官が判断する体制)で行われます(刑訴法23条)。

回避とは?

 回避は、

裁判官が忌避されるべき原因があると思料するときに忌避の申立てを待たず、裁判官が自発的に職務の執行から退くもの

をいいます(刑訴法規則13条)。

除斥、忌避、回避の違いのポイント

 除斥、忌避、回避は、

  • 除斥は、刑訴法20条に記載される7類型に該当すれば、裁判官は、当然に職務の執行から除外される
  • 忌避は、当事者(検察官又は被告人)の申立てが認められれば、裁判官は職務の執行から除外される
  • 回避は、裁判官が自らの意思で職務から退く

という違いがあります。