刑事訴訟法(公判)

公判の流れ⑨~「証拠調べ手続における裁判官による証拠決定」「証拠調べ請求が却下される場合」「証拠調べ請求が却下される場合」などを説明

 前回の記事の続きです。

 公判手続は、冒頭手続→証拠調べ手続 →弁論手続→判決宣告の順序で行われます(詳しくは前の記事参照)。

 前回の記事では、証拠調べ手続のうちの

  • 検察官は手持ちの証拠の全てを証拠調べ請求する必要はない
  • 検察官が必ず証拠調べ請求しなければならない証拠がある
  • 反証となる証拠の証拠調べ請求

を説明しました。

 今回の記事では、証拠調べ手続のうちの

  • 裁判官による証拠決定
  • 証拠調べ請求が却下される場合
  • 証拠決定に対する異議申立て

を説明します。

裁判官による証拠決定

 裁判所は、検察官、被告人又は弁護人から、証拠調べ請求(裁判官に証拠を提出することの請求)がなされた場合、証拠調べをするか、それとも証拠調べ請求を却下するかの決定をします(刑訴法規則190条1項)。

 裁判所が、検察官、被告人又は弁護人からの請求なしに、職権で証拠調べを行う場合も、裁判所は、証拠調べをするか、それとも証拠調べを却下するかの決定をします。

 この証拠調べをする旨の決定又は証拠調べの請求を却下する旨の決定を

証拠決定

といいます。

証拠調べ請求が却下される場合

 検察官、被告人又は弁護人からの証拠調べ請求が裁判官に却下される場合として、

  1. 証拠能力のない証拠(例えば、違法収集証拠であり、証拠として採用できない証拠)の取調べ請求であった場合
  2. 立証趣旨(その証拠によって証明しようとすること)が不明確な証拠の取調べ請求であった場合
  3. 「取調べの必要性のない証拠」の取調べ請求であった場合

が挙げられます。

 ③の「証拠調べの必要性のない証拠」が何かについては、裁判所が自由裁量の範囲で判断することができます。

 この点を判示した以下の判例があります。

最高裁判決(昭和23年6月23日)

 裁判官は、

  • 事案に関係のないと認められる証人を調べることが不必要であるのはもちろん、事案に関係あるとしても、その間おのずから軽重、親疎、濃淡、遠近、直接関接の差は存するのであるから、健全な合理性に反しない限り、裁判所は、一般に自由裁量の範囲で適当に証人申請の取捨選択をすることができると言わねばならぬ
  • 憲法第37条第2項に、「刑事被告人は、公費で自己のために強制手続により証人を求める権利を有する」というのは、裁判所がその必要を認めて尋問を許可した証人について規定しているものと解すべきである
  • この規定を根拠として、裁判所は被告人側の申請にかかる証人の全てを取調ぶべきだとする論旨(※弁護人の主張)には到底賛同することができない

と判示し、証拠決定するか否かは、裁判所が自由裁量の範囲で判断できるとしました。

証拠決定は裁判所の自由裁量であり、検察官、弁護人又は被告人は裁判所の証拠決定に対して異議申立てができる

 裁判所は、証拠決定するか否を自由裁量の範囲で判断できるところ、その判断は、裁判所の恣意的判断を許すものではありません。

 なので、①~④に該当する裁判所の証拠決定は違法(法令違反)となります。

  1. 裁判所の主観的な専制・独断・実験則違反の証拠決定
  2. 裁判所の自由裁量権を著しく逸脱した証拠決定
  3. 刑訴法1条の実体的真実発見主義の趣旨に反する証拠の却下決定
  4. 迅速裁判主義(憲法37条1項)に反する取調べ決定

 そして、①~④に該当するような違法な証拠決定があった場合に、検察官、被告人又は弁護人は、証拠調べに関する決定に対する異議を申し立てることができます(刑訴法309条1項刑訴法規則205条1項ただし書)。

 なお、証拠調べに関する決定に対する異議申立ては、刑訴法規則205条1項ただし書により、法令違反を理由とする場合に限られます。

刑訴法規則205条1項

 法第309条第1項の異議の申立は、法令の違反があること又は相当でないことを理由としてこれをすることができる。ただし、証拠調に関する決定に対しては、相当でないことを理由としてこれをすることはできない

 なお、①の「裁判所の主観的な専制・独断・実験則違反の証拠決定」が違法であることを判示した以下の判例があります。

最高裁判決(昭和23年7月29日)

 裁判官は、

  • 刑事裁判における証人の喚問は、被告人にとっても又検察官にとっても重要な関心事であることは言うを待たないが、さればといって、被告人又は弁護人からした証人申請に基づきすべての証人を喚問し、不必要と思われる証人までをもことごとく尋問しなければならぬという訳のものではなく、裁判所は当該事件の裁判をなすに必要適切な証人を喚問すればそれでよいものと言うべきである
  • そして、いかなる証人が当該事件の裁判に必要適切であるか否か、従って証人申請の採否は、各具体的事件の性格、環境、属性、その他諸般の事情を深く斟酌して当該裁判所が決定すべき事柄である
  • しかし、裁判所は、証人申請の採否について自由裁量を許されていると言っても、主観的な専制ないし独断に陥ることはもとより許され難いところであり、実験則に反するに至ればここに不法を招来することとなるのである

と判示し、裁判所の主観的な専制・独断・実験則違反の証拠決定は違法となるとしました。

検察官、被告人又は弁護人は、証拠調べに対する意見を述べる

 裁判所は、証拠決定に当たっては、その証拠調べを請求した者の相手方(例えば、検察官が証拠調べ請求をしたのであれば、相手方は弁護人)の意見(異議があるのか、ないのか)を聴かなければなりません。

 裁判所の職権による証拠調べの場合は、検察官、被告人又は弁護人の意見を聴かなければなりません(刑訴法規則190条2項)。

 この意見は、裁判所の証拠決定の参考とするためのものであり、裁判所を拘束する力はありません。

 しかし、この意見を聴かないで行った証拠決定は違法となります。

 検察官、被告人又は弁護人が、証拠調べに対し、異議があるという意見をする場合の具体的な理由として、

  • その証拠が事件に関連しない(関連性なし)
  • その証拠が違法収集証拠であるなどで、証拠として採用できない証拠である(証拠能力なし)
  • その証拠を裁判官が取り調べる必要がない(取調べの必要なし)

などが挙げられます。

裁判所は、証拠決定に先立ち、証拠の提示命令を行う場合がある

 裁判所は、証拠決定をするために必要があると認めるときは、検察官、被告人又は弁護人に対し、証拠調べ請求する証拠(証拠書類・証拠物)の提示を命ずることができます(刑訴法規則192条)。

 この命令を「提示命令」といいます。

 提示命令は、裁判所が、証拠決定に先立ち、その証拠の証拠能力の有無、証拠調べの必要性などを判断するために行われるものです。

公判前整理手続に付された事件は、その手続の中で証拠決定がなされる

 公判前整理手続は、事件の争点・証拠の整理により刑事裁判の審理の充実・迅速化を図る目的で行われる公判準備の手続(本番の公判の前に行う準備手続)です。

 公判前整理手続に付された事件は、本番の公判ではなく、公判前整理手続の中で裁判官による証拠決定がなされます(刑訴法316条の5第7号)。

次回の記事に続く

 次回の記事では、証拠調べ手続のうち、

証拠調べの順序

を説明します。