前回の記事の続きです。
器物損壊罪における不可罰的事後行為
不可罰的事後行為とは、簡単に説明すると、「犯罪を行った後に行った更なる犯罪を処罰しない」というルールです(詳しくは前の記事参照)。
器物損壊罪(刑法261条)においても、不可罰的事後行為の考え方が適用される場面があります。
例えば、窃盗罪、横領罪などにより財物を領得した後に、その領得犯人がこれを損壊しても器物損壊罪は不可罰的事後行為となり、器物損壊罪は成立しません。
参考となる裁判例として以下のものがあります。
東京地裁八王子支部判決(昭和51年12月17日)
贓物(盗品)の寄蔵者(保管者)が当該贓物(盗品)を損壊した事案につき、器物損壊罪は贓物寄蔵罪(現行法:盗品等保管罪)に吸収されるとした事例です。
裁判官は、
- 贓物を故買し、または贓物を収受した者が、たとえ、その贓物を損壊しても、さらに器物損壊の別罪を構成しないものと解されるところ、贓物を寄蔵する行為も、その贓物の所有者の贓物に対する追求権を侵害する点において、贓物を故買し、または収受して、その追求権を侵害するのと異るところはなく、また、贓物寄蔵罪の決定刑は、器物損壊罪のそれよりも重いことにかんがみると、器物損壊の行為は賍物寄蔵罪に吸収されるというべきである
- それゆえ、本件公訴事実第ニの行為(※窃盗犯人から預かった盗品は損壊する行為)は贓物寄蔵罪に吸収され、さらに器物損壊罪を構成しないものであるから、罪にならないものとして刑訴法336条により被告人に対し無罪の言渡をする
と判示しました。