刑事訴訟法(捜査)

おとり捜査とは? ~おとり捜査の適法性・違法性とその理由を判例・刑事訴訟法などで解説~

おとり捜査とは?

 おとり捜査とは、

捜査機関又はその依頼を受けた捜査協力者が、その身分や意図を相手方に秘して犯罪を実行するように働きかけ、相手方がこれに応じて犯罪の実行に出たところで、現行犯逮捕等により検挙する捜査手法

をいいます。

 このおとり捜査の定義は、 最高裁判例(平成16年7月12日)によるものです。

 おとり捜査は、相手を罠にはめて、犯意を誘発させる捜査手法なので、おとり捜査が許容され、適法とされるかどうかが問題となります。

おとり捜査は、許容されている捜査手法である

 基本的な考え方として、おとり捜査は、許容されている捜査手法です。

 現に、おとり捜査が許容されることを想定した法律があります。

 麻薬及び向精神薬取締法58条、あへん法45条では、

『麻薬取締官と麻薬取締員は、麻薬あへん・けしがらに関する犯罪の捜査にあたり、厚生労働大臣の許可を受けて、何人からも麻薬・あへん・けしがらを譲り受けることができる』

旨を記載し、おとり捜査を許容する規定を置いています。

 上記のような法律があるように、おとり捜査は、薬物犯罪で実行されることが多い捜査手法です。

 これは、薬物犯罪は、国民に及ぼす害悪が大きい上、薬物の密売ルートを特定し、薬物の供給元を根絶するため、秘密の状態で行われる必要があるからです。

おとり捜査の適法性について判示した判例

 おとり捜査の適法性について判示した判例として、最初に紹介した最高裁判例(平成16年7月12日)があります。

 この判例において、裁判官は、

  • 少なくとも、直接の被害者がいない薬物犯罪等の捜査において、通常の捜査方法のみでは当該犯罪の摘発が困難である場合に、機会があれば犯罪を行う意思があると疑われる者を対象におとり捜査を行うことは刑訴法197条1項に基づく任意捜査として許容されるものと解すべきである
  • 麻薬取締官において、捜査協力者からの情報によっても、被告人の住居や大麻樹脂の隠匿場所等を把握することができず、他の捜査手法によって証拠を収集し、被告人を検挙することが困難な状況にあり、一方、被告人は既に大麻樹脂の有償譲渡を企図して買手を求めていたのであるから、麻薬取締官が、取引の場所を準備し、被告人に対し大麻樹脂2㎏を買い受ける意向を示し、被告人が取引の場に大麻樹脂を持参するよう仕向けたとしても、おとり捜査として適法というべきである

と判示し、おとり捜査が適法となることを示しました。

 また、おとり捜査の適法性について判示した初期の判例として、最高裁判例(昭和28年3月5日)があります。

 この判例で、裁判官は、

  • 他人の誘惑により犯意を生じ又はこれを強化された者が犯罪を実行した場合に、…その他人である誘惑者が一私人でなく、捜査機関であるとの一事をもってその犯罪実行者の犯罪構成要件該当性又は責任性もしくは違法性を阻却し、又は公訴提起の手続規定に違反し、もしくは公訴権を消滅せしめるものとすることのできない

と判示しました。

 判例の内容を分かりやすく言うと、

  • おとり捜査は、ただちに違法となるものではない
  • おとり捜査を理由に、犯罪を成立させなかったり、公訴提起の手続が違法となるものでない

という意味です。

おとり捜査は無制限に許容されるものではない

 これまで、おとり捜査の適法性について説明してきました。

 しかし、おとり捜査は無制限に適法とされるわけではありません。

 おとり捜査の方法が、公正を欠き、不当な手段であるなど、おとり捜査として許容される限度を逸脱した場合は、違法とされるでしょう。

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