過失運転致死傷罪

過失運転致死傷罪(10)~「車で対面信号が黄色又は赤色点滅である交差点を直進する際の注意義務」を判例で解説~

車で対面信号が黄色又は赤色点滅である交差点を直進する際の注意義務

 過失運転致死傷罪(自動車運転死傷行為処罰法5条)における「自動車の運転上必要な注意」とは、

自動車運転者が、自動車の各種装置を操作し、そのコントロール下において自動車を動かす上で必要とされる注意義務

を意味します。

 (注意義務の考え方は、業務上過失致死傷罪と同じであり、前の記事参照)

 その注意義務の具体的内容は、個別具体的な事案に即して認定されることになります。

 今回は、車で対面信号が黄色又は赤色点滅である交差点を直進する際の注意義務について説明します。

注意義務の内容

 点滅する対面する信号について、

  • 黄色の点滅の場合→車両は他の交通に注意して進行することができる
  • 赤色の点滅の場合→車両は停止位置において一時停止しなければならない

と法で定められています(道路交通法施行令2条1項)。

 なお、黄色点滅・赤色点滅の交差点は、「交通整理の行われていない交差点」に当たります(最高裁決定 昭和44年5月22日)。

被告車の対面信号機が黄色点滅、相手車側信号機が赤色点滅の場合

 被告車の対面信号機が黄色点滅、相手車側信号機が赤色点滅の場合、過失の存否を分かつ主な要因は、

  • 相手車が既に交差点に進入しているか
  • 相手車が高速で交差点を通過しようとしたか
  • 被告車が交差点に進入した際の速度が高速であったかどうか

などの相手車や被告車の運転状況などが考慮されます。

被告車に過失ありとされた事例

東京高裁判決(昭和43年4月9日)

 右方から進行して来た相手車が赤色点滅に従い一時停止後発進したのを認めながら、黄色点滅信号側の被告車が時速40キロメートルで進入し衝突した事案で、被告人に過失ありとしました。

被告車に過失なしとされた事例

最高裁判決(昭和48年5月22日)

 明らかに広いとは認められない道路を時速50キロメートルで進行し、右方道路から赤色点滅に従わず一時停止せずに時速60キロメートルで進行して来た相手車を右斜め前方15メートルで発見し、衝突した事案で、相手車が一時停止の信号を無視して暴走することまで予想すべき注意義務はないとし、被告人の過失はないとしました。

東京高裁判決(昭和44年10月20日)

 交差道路よりやや狭い道路を時速約30キロメートルで進行し、右方道路から赤色点滅に従わず一時停止をせずに時速約60キロメートルで進行して来た自動二輪車を右斜め前方約15.6メートルで発見し、衝突した事案で、相手車が一時停止の信号を無視して暴走することまで予想すべき注意義務はないとし、被告人の過失はないとしました。

飯田簡裁判決(昭和48年9月25日)

 時速25ないし30キロメートルで交差点に進入し、左方道路から時速20ないし25キロメートルで赤色点滅に従わず一時停止をせずに進行して来た相手車を、交差点中央から約10メートルに認めたが加速進行しようとし衝突した事案で、相手車が一時停止の信号を無視して暴走することまで予想すべき注意義務はないとし、被告人の過失はないとしました。

被告車の対面信号機、相手方信号機が共に黄色点滅の場合

 被告車の対面信号機、相手方信号機が共に黄色点滅の場合、交差点の見通状況、明暗度等諸般の事情に基づいて、減速、前方左右注視義務の存否を判断することになります。

 明らかに幅員の広い道路を進行する場合には、相手車において、交差点入口で徐行し、広路進行車の進行を妨害すべきではないとされます。

 参考となる事例として、以下のものがあります。

最高裁判決(昭和48年9月27日)

 被告車が明らかに広い道路を時速60キロメートルで進行し、右方道路から、最徐行をしている自動ニ輪車を追い越して進入して来た自動二輪車を約23メートルに認め衝突した事案。

 このような無謀運転車が被告車の進路を妨害して突如現れないと期待できることを理由に、被告人に過失はないとしました。

被告車の対面信号機が赤色点滅、相手車側信号機が黄色点滅の場合

 被告車の対面信号機が赤色点滅、相手車側信号機が黄色点滅の場合には、被告人側において、一時停止し交差道路の安全を確認して進入すべきとされます(最高裁決定 昭和50年9月11日)。

 被告車が赤色点滅信号側であったとしても、黄色点滅信号側の相手車が無謀な運転をしてきた場合、相手の運転の無謀性が、被告車の過失の認定に影響し、被告人の過失が否定される場合もあります(新潟地裁新発田支部判決 昭和49年3月8日)。

被告車に過失ありとされた事例

最高裁決定(昭和50年9月11日)

 被告車が、幅員が明らかに広いとはいえない道路を進行し、赤色点滅信号に従って一時停止し、黄色点滅信号側の右方道路から時速55キロメートルで進行して来る相手車を約50メートル手前に認めたが先行できると考えて発進し、時速5キロメートルで進入し衝突した事案。

 一時停止をするほか、交差道路を進行する車両の進行を妨害してはならず、衝突回避の措置をとるべきことを理由に、被告人に過失ありとしました。

大阪高裁判決(昭和49年2月6日)

 被告車が、交差道路より狭い道路を進行し、赤色点滅信号に従って一時停止後、発進進入したところ、黄色点滅信号側の左方道路から時速50キロメートルで進行して来る相手車を約40メートル手前に認め衝突した事案。

 被告車が先入車であり、先行順位にあっても、減速停止等の注意義務があるとし、被告人に過失ありとしました。

被告車に過失なしとされた事例

新潟地裁新発田支部判決(昭和49年3月8日)

 被告車が、互いに優先道路でない道路を進行して、赤色点滅信号に従って一時停止し、黄色点滅信号側の左方道路から進行して来る相手車を約118メートル手前に認めたが、先行できると考えて発進し、時速10キロメートルで進入したところ、相手車が時速80キロメートルで前方注視不十分のまま進行して来て衝突した事案。

 事故は相手車の高速かつ前方注視不十分のままの運転という重大過失によるもので、被告人にはこうした車両のあり得ることについての予測義務はないとし、被告人に過失はないとしました。

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