他人の誘導・合図に従ったために起こした事故の運転者の過失認定の考え方
作業所、工事現場での誘導員、駐車場での誘導者、停車中の車両運転者の誘導、合図など、私人(助手・車掌を除くk)による誘導・合図に従って進行したところ事故となった場合、この誘導・合図を信頼したことについて、運転者に過失があるかないかが問題になります。
この誘導・合図が信頼できないと裁判で認定される場合は、運転者は、誘導・合図に従うべきではなく、自分自身が事故を起こさないように安全確認をして運転すべきだったとして、運転者に過失ありとされる場合があります。
この誘導・合図が信頼できると裁判で認定される場合は、運転者が誘導・合図に従ったのは、やむを得ないとして、運転者に過失なしとされる場合があります。
誰が誘導・合図をしたかによって、その誘導・合図の信頼性が一概に決せられるわけではなく、具体的な現場の状況、誘導者の職業、自動車交通との親近性、誘導・合図の方法など様々な事情を総合的に判断し、誘導・合図の信頼性が決せられます。
そして、運転者に過失があったかどうかの認定は、事案ごとの判断になります。
運転者に過失ありとした裁判例として、以下のものがあります。
① 工事中の道路での交通整理係の誘導・合図に従って起こした事故(最高裁決定 昭和37年9月11日)
② 交差点で右折する際の左斜め前に停車中の車両運転者の誘導・合図に従って起こした事故(福岡高裁判決 昭和41年6月15日)
③ 右折する際の対向直進車運転者の誘導・合図に従って起こした事故(名古屋高裁判決 昭和42年3月29日)
④ レストラン駐車場の誘導者の誘導・合図に従って起こした事故(大阪高裁判決 昭和44年10月21日)
⑤ モノレール作業所の警備保障会社の警備員の誘導・合図に従って起こした事故(大阪高裁判決 昭和59年9月14日)
運転者に過失なしとした事例として、以下のものがあります。
① 通りがかった通行人の誘導・合図に従って起こした事故(東京高裁判決 昭和39年5月12日)
② 道路舗装工事作業場の誘導員の誘導・合図に従って起こした事故(東京高裁判決 昭和47年12月7日)
③ 作業現場の旗振りをする女子作業員の誘導・合図に従って起こした事故(最高裁判決 昭和48年3月22日)
④ 工事現場付近のガードマンの誘導・合図に従って起こした事故(大阪高裁判決 昭和62年5月1日)
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