刑法(横領罪)

横領罪(24) ~「①地中の一時的埋蔵物、②海中の投棄物に対する横領罪の成否」を判例で解説~

地中の一時的埋蔵物に対する横領罪の成否

埋蔵物とは?

 民法241条において、埋蔵物は、遺失物法の定めるところに従い、公告をしてから6か月以内に所有者が判明しないときは、発見者が所有権を取得するしています。

 ここにいう「埋蔵物」とは、「土地その他の物の中に外部からは容易に目撃できないような状態に置かれ、しかも現在何人の所有であるか分かりにくい物」をいいます(最高裁判決 昭和37年6月1日)。

埋蔵物と横領罪

 埋蔵物の領得が横領罪を構成するかどうかが争われた判例として、次のものがあります

名古屋高裁判決(昭和26年12月6日)

 工場敷地内に埋まっていた板ガラスについて、紡績工場の天窓に使用されていたが、空襲で破損することをおそれて敷地内に埋蔵していたものである場合には、工場の従物と解され、所有者不明の物ではないから、敷地を耕作していて発見したとして警察に届け出て6か月を経過しても、その者が所有権を取得することはなく、その板ガラスを領得すれば、横領罪となるとしました。

 裁判官は、

  • 板ガラスの埋蔵してある敷地の部分は、昭和21年春頃から、被告人が麦作のため耕作していたもので、板ガラスを占有し、埋蔵ぜられていることを発見しても、板ガラスの所有者は、終戦後は国、昭和24年4月からA株式会社で同会社のためB株式会社が管理する権限があったことがはっきりしているから、民法第241条にいわゆる所有者不明の埋蔵物と解することはできない
  • 従って、被告人が昭和24年6月24日、羽島地区警察署に埋蔵物発見届を出し、その後6か月を経過しても、被告人が所有権を取得することはなく、被告人が耕作している畑の中に本件板ガラスがあったのであるから、被告人がこれを占有していたもので、所有者又はその代理人にこれが返還を拒否して領得すれば、横領罪が成立することは、疑いの余地がない

と判示し、横領罪の成立を認めました。

海中の投棄物に対する横領罪の成否

 海中に所有物が投棄された場合には、一般的にはその所有権が放棄されたと解されることになります。

 なので、不要物として海中に投棄された物は無主物となり、それを領得しても横領罪や窃盗罪は成立しないことになります。

 ただ、海中に投棄された物が所有権が放棄され、無主物になるかどうかの個々の認定は、あくまでも投棄した者の意思解釈によることになるので、個別の事案ごとに検討されることになります。

 海中に投棄された物について所有が認められた事例として、以下の判例があります。

最高裁判決(昭和38年5月10日)

 この判例では、日本政府から引き渡されて連合国の所有物となった爆発物件等を、連合国たるアメリカ占領軍が自ら又は日本政府に命じて海中に投棄したことに関し、日本軍の武装解除の完全履行の目的のために、作戦上の敵対行為の一時的抑制ないし危険性の除去手段として行われたものであるから、海中に投棄したことで連合国がその所有権を放棄したと解すべきではなく、深海に沈没し又は流失して管理支配が不可能に帰した物件以外の爆発物件等の所有権は、海中から引き揚げて陸上の指定解撤地域まで運搬する間は、占領軍物件として連合国に存していたと解するのが相当であり、在日米軍の占領軍としての活動が終了すると共に日本政府に全面的に返還され、その後は海底有姿のまま日本国の所有に帰したと認められるとしました。

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