私たちの脳は、感情を素早く伝達し合うようにできています。
例えば、親や上司がご機嫌な場合、近くにいる子どもや部下の気分もプラスに傾きます。
逆に、親や上司が不機嫌でいると、近くにいる子どもや部下の気分はマイナスに傾きます。
これは、相手の感情に自分の感情が刺激され、自分の感情が相手の感情と同期するためです。
感情は非常に伝達しやすいのです。
感情は非常に伝染しやすいことを理解せず、
- 自分の怒りなどの負の感情を簡単にまき散らして周囲を不快にさせる人
- 他人がまき散らす負の感情に簡単に伝染させられてしまう人
がたくさんいます。
周りにいる人たちのことを考えずに、怒りなどの負の感情を周囲にまき散らす人がクズであることは間違いないですが、他人がまき散らす負の感情を防御することなく受けてしまい、簡単に精神を病んでしまう人も問題です。
こうならないためにも、今回は、脳は感情を伝達し合うことについての知識を説明します。
脳が感情を素早く伝達し合う機能を備えている理由
私たちの脳が、お互いの感情を素早く伝達し合うように進化したのは、周囲の環境に関する重要な情報を感情で知らせるためです。
誰かが怯えた顔をしていれば、それは何か恐ろしものが近くにあることを意味します。
怯えた顔をした人を見た人の脳は、危険から見を守るために、同じように恐怖を感じ、「危険な状況に対処せよ」「危険を回避する行動をとれ」と自分自身を促します。
この感情の伝達能力は、人類が進化する過程で強化されてきた能力です。
狩猟採取時代を例にあげると、例えば、村にライオンなどの猛獣が近づいてきた場合、ライオンの第一発見村人がライオンを追い払うために怒りの声を上げれば、その怒りの感情が周囲の人に伝達され、周囲の人も怒りの感情になり、武器を持ってライオンを追い払う行動をとることができます。
また、狩猟採取中にたくさんの木の実がなっている木を見つけて、誰か一人が喜びの姿を見せれば、周りの仲間は、その喜びの感情に共鳴し、木の実がなっている木に集まることができます。
このように感情が他人に瞬時に伝達される能力は、人間にとって生存上有利な能力であったため、脳はお互いの感情を素早く伝達し合えるように進化してきたのです。
他人の感情を感じる能力は生まれ持った能力である
子どもは、親の気分の影響を強く受けます(例えば、親がけんかをしていると、自分が悪いことをしたような気持ちになるなど)。
この感情伝達能力は、赤ちゃんの頃に既に確立していることが研究で分かっています。
心理学者ウェンディ・メンデスの研究
心理学者メンデスは、母親と一歳の赤ちゃん69組を対象に以下のような調査をしました。
① 母親をリラックスさせ、その後、母親を赤ちゃんに合わせ、赤ちゃんの反応を観察
② 母親にストレスを与え、その後、母親を赤ちゃんに合わせ、赤ちゃんの反応を観察
③ 母親と再会した赤ちゃんの生理的状態を調査
結果、ストレスを受けた母親と再会した場合の赤ちゃんの心拍数は6拍増加し、リラックスした母親と再会した場合の赤ちゃんの心拍数は4拍減少したことが分かりました。
この研究は、赤ちゃんの生理状態が母親の感情に同調することを明らかにしました。
人には、他者の感情に同調する能力が先天的に備わっているということです。
なお、言うまでもありませんが、母親も赤ちゃんの感情に同調します。
赤ちゃんが泣きだすと、母親はすぐさまその痛みを感じて、わが子の苦痛を和らげる手助けをしたくなります。
感情の同調能力は、子どもを育てるという観点からも重要な能力であるといえます。
誰かの行動を直接見なくても感情は伝染する
Facebookの実験
2012年にFacebookが50万人を超えるユーザを対象に以下のような実験をしました。
① あるユーザにはポジティブな投稿が多く表示されるようにする
② 別のユーザにはネガティブな投稿が多く表示されるようにする
③ ユーザへの影響を調査
結果、ポジティブな投稿を多く見たユーザは、自分でも肯定的な投稿をすることが増え、ネガティブな投稿を多く見たユーザは、不満をテーマにした投稿など否定的な投稿をする傾向が高まることが分かりました。
人には、ポジティブなものを見るとポジティブな感情を作り出し、ネガティブなものを見るとネガティブな感情を作り出すという性質があることが証明した実験といえます。
感情は、直接、人の行動を見なくても伝染するということです。
人が持つ感情の伝達能力は強力なのです。
負の感情をまき散らすべきではない。負の感情に感染させられるべきではない。
感情は、自分の中だけで完結するものではありません。
感情は外部に漏れだし、周囲の人を感染させます。
まずは、そのことを自覚しましょう。
自分勝手かつ無神経に、怒り、恐怖、不安などの負の感情を周囲にまき散らしてはいけません。
その負の感情は他人の感情に悪影響を与えます。
場合によっては、他人の感情だけでなく、他人の行動にも悪影響を与えるため、他人に与える被害は甚大なものになります。
また、他人の感情の影響を受ける側も、「簡単に他人の負の感情と同期しない」という意志力を持ち、他人の負の感情に感染しない努力をしましょう。
負の感情をまき散らす人に感情を揺さぶられて精神を病んではいけません。
「自分の感情」と「他人の感情」を区別する
他人の感情に伝染しないために、「自分の感情」と「他人の感情」を区別しましょう。
- 今沸き起こっている感情は、自分の中か湧いて出てきた感情なのか?
- それとも、他人の感情が伝染して沸き起こった感情なのか?
を言葉を使って自分に問いかけるのです。
もし、他人の感情であれば、「これは自分の感情ではない!」と結論づけ、
「この感情は他人のもの」
「自分のものではない」
と言葉を使って思考を整理し、他人の感情を自分から切り離すことをしましょう。
捕捉
人を動かしたければ感情を用いるのが有効である
感情は人に強力に伝染する性質があることを理解してもらえたと思います。
この性質をうまく利用すれば人を動かせるということです。
政治家は感情に訴えかける演説をしますが、これは大衆の感情に訴えかけることができれば、票を集められるからですね。
感情に訴えかけることができると周囲を味方につけることができる場合があります。
今年の話でいえば、2019年7月の吉本工業のお家騒動(雨上がり決死隊の宮迫さんやロンブーの亮さんなどの反社会勢力に対する闇営業問題)で宮迫さんと亮さんの涙ながらに悲痛な思いを訴えた謝罪会見は国民の感情を動かしましたね。
視聴者の感情は、宮迫さんと亮さんの感情と同期し、一気に国民感情は宮迫さんと亮さんを擁護する方向に変わり、その後、マスコミは2人を叩けなくなりました(直後、会社(吉本工業)を叩く方にシフトしました)。
このように、人を動かしたければ感情に訴えかけることは有効な手段となります。
ただし、空回りして痛い人にならないように気を付けましょう。