前回の記事の続きです。
刑の一部執行猶予とは?
刑の執行猶予には、
- 刑の全部執行猶予
- 刑の一部執行猶予
の2つがあります。
この記事では、刑の一部執行猶予を説明します。
刑の一部執行猶予とは、
有罪判決をして刑を言い渡すに当たり、情状により、刑のうち一部を実刑、一部を執行猶予とするもの
です。
例えば、「拘禁刑2年、そのうち1年を一部執行猶予とする」という判決が言い渡された場合、刑務所で1年の受刑し、1年受刑をし終えたら出所して、残りの1年を執行猶予期間として社会内で過ごします。
そして、その1年の執行猶予期間を無事経過したときは、その刑は実刑部分の期間を刑期とする刑に軽減されます。
刑の一部執行猶予の目的
従前の刑法では、懲役刑又は禁錮刑に処する場合、全部実刑か全部執行猶予のいずれかの選択肢しか存在しませんでした。
その後、犯罪をした者の再犯防止・改善更生を図るためには、施設内処遇後に十分な期間にわたり社会内処遇を実施することが有用な場合があると考えられました。
そこで、施設内処遇に引き続き、必要かつ相当な期間、刑の執行猶予の言渡しの取消しによる心理的強制の下で、社会内における再犯防止・改善更生を促すことを可能とする刑の言渡しの選択肢を増やすべく、刑の一部執行猶予制度が導人されることとなりました。
刑の一部執行猶予の制度は、刑の言渡しについて新たな選択肢を設けるものであり、従来より刑を重くし、あるいは軽くするものではありません。
刑の一部執行猶予を付すための要件
刑の一部執行猶予を付すための要件は、刑法27条の2第1項に規定され、
1⃣ ⑴前に拘禁刑以上の刑に処せられたことがないか、⑵前に拘禁刑以上の刑に処せられたが、①その刑の全部の執行を猶予されたか、②その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に拘禁刑以上の刑に処せられたことがないこと
2⃣ 3年以下の拘禁刑を言い渡す場合であること
3⃣ 犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して、再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められるとき
であり、この1⃣~3⃣の3つの要件を全て満たすときに、裁判所は刑の一部執行猶予を付すことができます。
1⃣の説明
1⃣の「⑴前に拘禁刑以上の刑に処せられたことがない」と「⑵前に拘禁刑以上の刑に処せられたが、①その刑の全部の執行を猶予された」は、実刑前科がなく、今回初めて刑務所に服役することとなる者が該当します。
1⃣の「⑵前に拘禁刑以上の刑に処せられたが、②その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない」は、前刑の執行終了後5年以上経過した者で、刑の全部の執行猶予も可能とされている者が該当します。
刑の一部執行猶予の進行が開始する日
刑の一部執行猶予の期間は、刑の全部執行猶予と同様、1年以上5年以下です(刑法27条の2第1項)。
刑の一部執行猶予の場合、実刑部分の施設内処遇を先に執行し、「執行が終わった日」(刑法27条の2第2項)から刑の一部執行猶予の猶予期間が起算されることとなります。
具体的には、「執行が終わった日」とは実刑部分の刑の最終日の24時を指すので、一部行猶予の期間は、実刑部分の最終日の翌日から進行します。
ただし、刑の一部執行猶予により、実刑部分の施設内処遇が終わり、他の執行すべき懲役又は禁錮が存在する場合には、当該他の刑の執行が終わった日から刑の一部執行猶予の猶予期間が起算されることとなります(刑法27条の2第3項)。
保護観察
刑の一部執行猶予における猶予期間中、刑の全部執行猶予の場合と同様、保護観察に付することができます(刑法27条の3第1項)。
刑の一部執行猶予の猶予期間経過の効果
刑の一部執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間を経過したときは、その刑は、実刑部分の期間を刑期とする拘禁刑に減軽され、実刑部分の期間の執行を終わった日又はその執行を受けることがなくなった日に、刑の執行を受け終わったこととなります(刑法27条の7)。
薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予の特則
薬物使用等の罪を犯した者については、刑法27条の2第1項に掲げる者以外のもの、具体的には、
- 前に拘禁刑以上の刑に処せられたことがあって、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に拘禁刑以上の刑に処せられたもの
についても、刑の一部執行猶予を言い渡すことができます(薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律3条)。
この場合には、刑法27条の3第1項の規定にかかわらず、執行猶予の期間中は保護観察が付されます(同法4条)。