刑法(総論)

刑罰(9)~刑の加重・減軽①「併合罪加重の考え方」を説明

 前回の記事の続きです。

刑の加重

 「刑罰」は、「法定刑」→「処断刑」→「宣告刑」という過程を経て裁判所により決定されます(詳しくは前回の記事参照)。

 その中で「処断刑」は、法定刑に

  1. 加重(かちょう)
  2. 減軽

の修正を加え、処断の範囲を画する刑罰です。

 ①の刑の加重は、あらかじめ法律によって規定されている事由(法律上の加重事由)がある場合においてのみなされます。

 これは罪刑法定主義の要請によるものです。

 この刑の加重事由には、

の2つがあります。

 この記事では、併合罪加重について説明します。

併合罪加重の考え方

1⃣ 併合罪のうちの1罪について死刑に処するときは、没収を除き、他の刑を科すことができない

 併合罪のうちの1罪について死刑に処するときは、没収を除き、他の刑を科しません(刑法46条1項)

 例えば、殺人罪(刑法199条)と窃盗罪(刑法235条)を犯した場合で、殺人罪につき死刑を言い渡すときは、窃盗罪の刑(拘禁刑1年など)を科しません。

 よって、判決は、殺人罪と窃盗罪につき死刑1個が言い渡されます。

 なお、この死刑判決に、没収(例えば、殺人罪で使用した包丁の没収)を加えることは可能です。

2⃣ 併合罪のうちの1罪について無期拘禁刑に処するときは、罰金・科料・没収を除き、他の刑を科すことができない

 併合罪のうちの1罪について無期拘禁刑に処するときは、罰金・科料・没収を除き、他の刑を科しません(刑法46条2項)。

 例えば、殺人罪(刑法199条)と窃盗罪(刑法235条)を犯した場合で、殺人罪につき無期拘禁刑を言い渡すときは、窃盗罪について拘禁刑(拘禁刑1年など)を科しません。

 よって、判決は、殺人罪と窃盗罪につき無期拘禁刑1個が言い渡されます。

 ただし、この場合、窃盗罪について罰金刑(例えば、罰金30万円)を科すことは可能であり、窃盗罪について罰金30万円を科す場合は、殺人罪と窃盗罪につき無期拘禁刑及び罰金30万円の判決が言い渡されることになります。

3⃣ 併合罪のうちの2個以上の罪について有期の拘禁刑に処するときは、その最も重い罪について定めた刑の長期にその2分の1を加えたものが長期となる

 併合罪のうちの2個以上の罪について有期の拘禁刑に処するときは、その最も重い罪について定めた刑の長期にその2分の1を加えたものを長期とします(刑法47条)。

 例えば、傷害罪(刑法204条:15年以下の拘禁刑)と窃盗罪(刑法235条:10年以下の拘禁刑)を犯した場合で、傷害罪につき拘禁刑を科し、窃盗罪についても拘禁刑を科そうとする場合、傷害罪と窃盗罪に対して言い渡す刑の長期(被告人に科すことができる最大の刑期)は、15年+7年6月(15年÷2)=22年6月となります。

【それぞれの罪について定めた刑の長期の合計を超えることはできない】

 ただし、それぞれの罪について定めた刑の長期の合計を超えることはできないし(刑法47条ただし書き)、加重された長期も30年を超えることはできません(刑法14条2項)。

 例えば、傷害罪(刑法204条:15年以下の拘禁刑)と住居侵入罪(刑法130条:3年以下の拘禁刑)を犯した場合で、傷害罪につき拘禁刑を科し、住居侵入罪についても拘禁刑を科そうとする場合、傷害罪と住居侵入罪に対して言い渡す刑の長期(被告人に科すことができる最大の刑期)は、ひとまず、15年+7年6月(15年÷2)=22年6月という計算になります。

 しかし、刑法47条ただし書きにより、傷害罪(15年以下の拘禁刑)と住居侵入罪(3年以下の拘禁刑)の罪について定めた刑の長期の合計18年(15年+3年)を超えることはできません。

 よって、この場合、被告人に科すことができる刑の長期は「22年6月」ではなく、「18年」の拘禁刑となります。

【有期拘禁刑につき、加重された長期が30年を超えることはできない】

 それぞれの罪について加重された長期が30年を超えることはできません(刑法14条2項)。

 例えば、傷害罪(「今回犯した傷害罪」という)を犯した場合で、前にも傷害罪を犯してその傷害罪につき既に有期拘禁刑の確定判決を受けてる場合(「累犯前科」という。刑法56条)、「今回犯した傷害罪」は前に「累犯前科」があるので、以下のような長期の計算になります。

 まず、「今回犯した傷害罪」には、「累犯前科」があるので、再犯加重(刑法57条)がされます(詳しくは次の記事参照)。

 傷害罪の法定刑は、「15年以下の拘禁刑」なので、再犯加重がなされると、その長期は、その罪について定めた拘禁刑の長期の2倍以下なるので(刑法57条)、15年×2=30年となります。

 ここで更に、傷害罪のほかに、傷害罪と併合罪関係になる窃盗罪(刑法235条:10年以下の拘禁刑)を犯していた場合、「その最も重い罪について定めた刑の長期にその2分の1を加えたものが長期となる(刑法47条)」ので、刑の長期の計算は、「上記の30年」+「15年(30年÷2)」という計算が入り、この場合の刑の長期は、45年以下の拘禁刑となります。

 しかし、ここで「それぞれの罪について加重された長期が30年を超えることはできない(刑法14条2項)」という制限が入るので、「累犯前科の傷害罪」と「窃盗罪」につき、刑の長期は「30年以下の拘禁刑」となります(「45年以下の拘禁刑」ではない)。

4⃣ 2個以上の罰金は、それぞれの罪について定められた罰金の多額の合計以下で処断される

 2個以上の罰金は、それぞれの罪について定められた罰金の多額の合計以下で処断します(刑法48条2項)。

 刑法48条2項の「多額の合計以下で処断する」とは、各罪につき定められた罰金額の多額を合算し、この額を多額として処断することをいいます。

 例えば、窃盗罪(50万円以下の罰金)を5つ犯し、その5つの窃盗罪で起訴された場合、処断刑は、50万円十50万円十50万円十50万円十50万円の合計250万円以下の罰金となります。

 なお、罰金は「1万円以上とする」という下限の制限はありますが、上限の制限はありません(刑法15条

 つまり、罰金刑の場合、併合罪加重により、1億円や1兆円の罰金を科すことも法律上可能となります。

5⃣ 併合罪関係にある罪につき、罰金と他の刑とは、併合罪のうち1罪について死刑に処するときを除き、併科される

 併合罪関係にある罪につき、罰金と他の刑(拘禁刑、拘留、科料)とは、併合罪のうち1罪について死刑に処するときを除き、併科します(刑法48条1項)。

 例えば、傷害罪(刑法204条)と窃盗罪(刑法235条)とを犯し、傷害罪につき「拘禁刑1年」に処し、窃盗罪につき「罰金30万円」に処す場合、傷害罪と窃盗罪につき、「拘禁刑1年」及び「罰金30万円」に処するという判決を言い渡すことになります。

6⃣ 2個以上の拘留又は科料は、併科される

 2個以上の拘留又は科料は、併科します(刑法53条2項)。

 刑法53条2項は、拘留又は科料について併科主義の原則をとる旨を明らかにした規定であり、2個以上の拘留又は科料を併科する旨を規定します。

 この場合、罰金に関する刑法48条2項に相当する規定はないので、併合罪の関係にある数個の罪につき各刑期又は各金額を合算してその範囲内で1個の刑を科すことはできず、各罪ごと個別的にその刑を定めてこれを併科します。

 併科するとは、複数の犯罪について、判決主文に個別的に拘留又は科料の刑を明示することです。

 具体的には、例えば、

1⃣ 暴行罪(刑法208条)と公然わいせつ罪(刑法174条)の両罪で起訴され、暴行罪につき拘留10日、公然わいせつ罪につき拘留5日に処するという判決を言い渡す場合は、

「被告人を暴行罪について拘留10日、公然わいせつ罪について拘留5日に処する」

という判決が言い渡されます。

 単に「被告人を拘留15日に処する」とする判決の言い渡しにはなりません。

2⃣ 暴行罪と公然わいせつ罪の両罪で起訴され、暴行罪につき科料9000円、公然わいせつ罪につき科料9000円という判決を言い渡す場合は、

「被告人を暴行罪について科料9000円、公然わいせつ罪について科料9000円に処する」

という判決が言い渡されます。

 単に「被告人を科料18000円に処する」とする判決の言い渡しにはなりません。

3⃣ 暴行罪と公然わいせつ罪の両罪で起訴され、暴行罪につき拘留10日、公然わいせつ罪につき科料9000円という判決を言い渡す場合は、

「被告人を暴行罪について拘留10日、公然わいせつ罪について科料9000円に処する」

という判決が言い渡されます。

 上記のように、拘留又は科料について、併科主義がとられたのは、拘留・科料が軽微な刑であることに基づくものと考えられています。

 こうした軽徴な刑は、併科しないとその実効を上げにくいし、反面、併科によっても特に苛酷な結果を招くことはないと考えられるためです。

7⃣ 拘留・科料と他の刑とは、併合罪のうち1罪について死刑又は無期の拘禁刑に処するときを除き、併科される

 拘留・科料と他の刑(有期の拘禁刑、罰金)とは、併合罪のうち1罪について死刑又は無期の拘禁刑に処するときを除き、併科します(刑法53条1項)。

 刑法53条1項は、その本文で拘留又は科料と他の刑とは併科する旨を明らかにし、刑法46条との平仄を合わせるため、刑法53条1項ただし書で、刑法46条の場合は例外として併料しないことを定めています。

 具体的には、

  • 拘留は、死刑と無期拘禁刑には併科されず、有期拘禁刑並びに科料と併科される
  • 科料は、死刑には併科されず、無期拘禁刑、有期拘禁刑、罰金、拘留と併科される

ことになります。

 併科するとは、複数の犯罪について、判決主文に個別的に拘禁刑、罰金、拘留又は科料の刑を明示することであり、具体的なたとえをあげると、

  • 被告人を窃盗罪について拘禁刑3年、暴行罪について拘留10日に処する
  • 被告人を窃盗罪について拘禁刑3年、暴行罪について科料9000円に処する
  • 被告人を窃盗罪について罰金50万円、暴行罪について拘留10日に処する
  • 被告人を窃盗罪について罰金50万円、暴行罪について科料9000円に処する

といった判決が言い渡されます。

8⃣ 併合罪のうち、既に確定裁判を経た罪とまだ確定裁判を経ていない罪(余罪)とがあるときは、確定裁判を経ていない罪について更に処断する

 併合罪のうち、既に確定裁判を経た罪とまだ確定裁判を経ていない罪(余罪)とがあるときは、確定裁判を経ていない罪について更に処断します(刑法50条51条)。

 例えば、前に窃盗罪で裁判を受けて判決を受け、裁判が確定してる場合で、その裁判が確定する前に窃盗罪を犯していたことが後から発覚した場合(前回の窃盗罪の裁判確定前に、別の窃盗罪の余罪の存在が発覚した場合)、その窃盗罪の余罪についても裁判を受けさせ、刑罰を与えることができます。

 その際、このような余罪については、確定裁判が刑の全部の執行猶予付き拘禁刑の判決の場合には更に刑の全部の執行猶予を言い渡すことができます(刑法25条1項最高裁判決 昭和32年2月6日)。

 しかし、確定裁判が全部実刑判決の場合には、刑法27条の2第1項3号(刑の一部の執行猶予の規定)の場合等を除き、執行猶予を言い渡すことはできません。

 この点を判示したがの以下の判例です。

最高裁判決(平成7年12月15日)

 確定裁判が実刑判決の場合におけるいわゆる余罪について刑の執行を猶予することの可否について、裁判所は、

  • 確定裁判が実刑判決の場合におけるいわゆる余罪については、刑法25条1項を適用して執行猶予を言い渡すことができない

と判示しました。

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