刑法(強要罪)

強要罪(3) ~「強要罪における暴行とは?」「物理的強制力によって被害者を全く機械的に行動させたにすぎない場合は、強要罪は成立しない」を判例で解説~

強要罪における暴行とは?

 強要罪(刑法223条)の手段となる暴行は

広義の暴行で、必ずしも人の身体に対して加えられることは必要でなく、他人に対して加えられた有形力でも、また物に対する有形力でも、目的である人に義務のないことを行わせるなどのために、畏怖心を生じさせる効果を持つようなものであれば、暴行に含まれる

とされます。

 なお、「広義の暴行」の意味については、以下で説明する「刑法にいう暴行の意義」のとおりです。

刑法にいう暴行の意義

 「刑法にいう暴行の意義」を説明します。

 刑法にいう暴行の意義には、次の4種がありあす。

① 最広義の暴行

人に対すると物に対するとを問わず不法な有形力の行使すべて

(例:騒乱刑法106条、多衆不解散107条

② 広義の暴行

人に対する(必ずしも人の身体に対して加えられることを必要としない)不法な有形力の行使(例:公務執行妨害罪刑法95条、加重逃走罪98条、逃走援助罪100条2項、特別公務員暴行陵虐罪195条、強要罪223条1項

③ 狭義の暴行

人の身体に対する不法な有形力の行使

(例:暴行罪刑法208条

④ 最狭義の暴行

人の抵抗を抑圧するに足る不法な有形力の行使

(例:強制わいせつ罪刑法176条、強制性交等罪177条、強盗罪236条、事後強盗罪238条

物理的強制力によって被害者を全く機械的に行動させたにすぎない場合は、強要罪は成立しない

 強要罪の罪質は、恐怖感を生じさせることによって、相手の意思に欠缺を生じさせ、その意思に基づいて作為、不作為をとらせるという心理的強制力を使用する点にあります。

 なので、物理的強制力によって被害者を全く機械的に行動させたにすぎない場合には、強要罪を構成しないことになります。

 この点について参考となる判例として、次のものがあります。

大審院判決(昭和4年7月17日)

 民事訴訟において、当事者本人の尋問のために裁判所に呼び出された者に対し、暴行を加えて、裁判所構外に拉致して尋問を受けさせなかった行為について、裁判官は、

  • 刑法第223条第1項に規定する強要罪が成立するには、生命・身体・自由・名誉若しくは財産に対し害を加えるべきことをもって、人を脅迫し、または暴行を用い、人をして義務なきことを行わしめ、又は行うべき権利を妨害したることを必要とする
  • 故に、被告人が被害者に対し、その極力抵抗するにもかかわらず、その身体を捕まえ暴力を用いて、その自由を拘束し、これを引っ張り、あるいは、押すなどして、裁判所門外に拉致したる行為は、逮捕行為それ自体にして、被害者をして義務なきことを行わしめたるものにあらず
  • 本人が尋問を受けるのは権利でなく義務であるから、行うべき権利を妨害したのに当たらない

と判示し、物理的強制力により被害者を行動させたものとして、強要罪は成立せず、逮捕罪刑法220条前段)が成立するとしました。

 この判例は、問題となった行為が、強要罪の暴行とはいえず、逮捕行為自体であると判示した点がポイントになります。

東京高裁判決(昭和34年12月8日)

 この判例は、上記大審院判決の趣旨をより明確にした判例です。

 裁判官は、

  • 刑法第223条第1項にいわゆる『暴行を用い人をして義務なき事を行わしめる』とは、人に対して暴行を加え、よってその人をして義務なき行為に出でしめることをいう
  • すなわち、被強要者に、その暴行のため強要されたものではあるが、なおその自己の意思に基づく行為が存することを要し、人の身体に対して暴力を加え、その暴力のままにその人を器械的に行動せしめるごとき場合は、その人の意思に基いた行為は存しないので、同法条にいわゆる義務なきことを行わしめた場合に該当しないものと解するを相当とする
  • 被告人は、Cの居住する建物の敷地の周囲に棒杭を打ち立て、これに竹や有刺鉄線を張って柵を築造する作業を始めたところ、Cから抗議されて興奮し、Cを罵ったので、Cが外聞を恥じて、その敷地北端の勝手場先に逃がれ、竹ぼうきを取って、同所地面の清掃に取りかかろうとした際、その背後からその両腕をつかんで引っ張り、Cが引き出されまいとして傍らの柱にしがみつくや、その左前胸部を手拳殴打してこれを柱から引き離し、Cの身体を引っ張り、あるいは押し、あるいは突くなどして、Cを同所から十余メートルをへだたる敷地南側の表路上に連れ出し、Cを道路南側のD方竹垣に押えつけたうえ、更にCの左足を足蹴にし、よってCに対し、加療約1週間を要する左前胸部打撲および左アキレス腱部打撲の傷害を加えたものであるというのである
  • よって、Cが敷地北端の勝手場先から同敷地南側表道路上に出るに至ったのは、被告人のCの身体に加えた前記一連の暴行による結果であって、Cは自己の意思に基いたものではなく、被告人の暴力のままに器械的に行動に出たに過ぎないのであるから、Cの行動はこれを目して刑法第223条第1項にいわゆる義務なき行為に出でたものというを得ないものであること、明らかである
  • 被告人はCの抵抗を排除し、その身体を捕まえ、暴力を用いてその自由を拘束し、Cを引っ張り、あるいは押し、あるいは突くなどしてCをその敷地北端勝手場先から十余メートルへだたる敷地南側の表路上に連れ出し、さらに道路南側のD方竹垣に押えつけたのであるから、その行為はまさに刑法第220条第1項にいわゆる不法に人を逋捕した場合に該当するものといわなければならない(大審院昭和4年7月17日判決)
  • そしてCの受けた判示傷害は、被告人が右不法逮捕に際してCに加えた暴行により生じたものであるから、被告人の所為刑法第221条に該当し、重き傷害罪により処断すべき場合に該当する

と判示し、被告人の行為は強要ではなく逮捕行為に当たるとし、強要罪は成立せず、傷害罪逮捕罪の両罪が観念的競合として成立するとしました。

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