刑法(強要罪)

強要罪(4) ~「強要罪における暴行の程度」を判例で解説~

強要罪における暴行の程度

 強要罪(刑法223条)の手段となる暴行は

必ずしも人の身体に対して加えられることは必要でなく、他人に対して加えられた有形力でも、また物に対する有形力でも、目的である人に義務のないことを行わせるなどのために、畏怖心を生じさせる効果を持つようなものであれば、暴行に含まれる

とされます。

 そして、強要罪(刑法223条)における暴行の程度は、

  • 客観的にみて、相手方に恐怖心を生じさせて義務のないことを行わせ又は権利の行使を妨げうる程度のものであることを要する

とされます。

 参考になる判例として、強要罪の暴行の程度について判示した以下の判例があります。

大阪地裁判決(昭和36年10月17日)

 教職員の勤評制度導入をめぐる教育委員会と教職員組合との交渉の過程で、被告人が、教育委員長が沈黙しているのに憤慨して、机を隔てて着席している前方から上半身を乗り出して、右手で教育委員長の背広前えりをとり、「生きているのか死んでいるのか」と言いつつ、数回引っ張ったという事案です。

 裁判官は、

  • 強要罪における保護法益は、意思決定に基づく行動の自由にあると考えられるから、刑法223条1項にいう暴行は、相手方の自由な意思決定を拘束して、その行動の自由を制約するに足りる程度のものであることを要すると解すべきである

と判示し、強要罪の成立を否定し、暴行罪のみの成立を認めました。

 『教育委員長の背広前えりをとり、「生きているのか死んでいるのか」と言いつつ、数回引っ張った行為』が、強要罪における暴行の程度である「客観的にみて、相手方に恐怖心を生じさせて義務のないことを行わせ又は権利の行使を妨げうる程度のもの」であったとはいえないと判断されたいうことになります。

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