刑法(強要罪)

強要罪(8) ~「義務のないことは、法律行為か事実行為かを問わない」「被害者を全く機械的に行動させた場合は、義務のないことを行わせたに当たらない」「義務のないことを行うのは、時間の長短にかかわらない」を判例で解説~

 前回記事の続きです。

義務のないことは、法律行為であると事実行為であるとを問わない

 強要罪(刑法223条)において、強要した被害者に強いる義務のないことは、法律行為であると事実行為であるとを問いません。

 この点について、次の判例があります。

大審院判決(大正8年6月30日)

 13歳の子守の少女を叱責する手段として、水入りバケツ、醤油空樽などを数十分から数時間、胸あたり又は頭上に支持させたという事案で、裁判官は、

  • 刑法第223条條第1項にいわゆる『人をして義務なき事を行わしめ』とは、自己に何らの権利機能なく、従って、対手人にその義務なきにかかわらず、同条所定の脅迫又は暴行を用い、強いて作為、不作為又は、忍容を為さしめたる者を処罰する趣旨にほかならず

と判示し、強要して相手に義務のないことを強いる行為は、法律行為であると事実行為であるとを問わないことを示しました。

大審院判決(昭和16年2月27日)

 手紙を拾い主に対して理髪店に届けることを強要したとして強要罪の成立を肯定した事例で、裁判官は、

  • 相手方に対し、何らの権利機能なく、従って、そん義務なきにかかわらず、強いて作為又は不作為を為さしむるにおいては、これが法律行為に属すると、事実行為に属するとの区別なく、等しく刑法223条にいわゆる義務なきことを行わしめたるものと為さざるべからず

判示しました。

被害者を全く機械的に行動させた場合は、「義務のないことを行わせた」に当たらない

 刑法223条1項の「暴行を加えて義務のないことを行わせる」とは、被害者が暴行によって行為を強いられるが、被害者自身の意思が残った状態で、行為が強制されたものであることをいいます。

 被害者自身の意思に基づく行為が存在せず、被害者が、犯人の暴力のままに全く機械的に行動した場合は、「義務のないことを行わせた」に該当せず、強要罪はしません。

 刑法223条の条文上に、「行わせ」とある以上、被害者をして、自ら行為をさせることが強要罪の前提になっていると解されます。

 参考となる判例として、次のものがあります。

大審院判決(昭和4年7月17日)

 この判例で、裁判官は、

  • 被害者に対し、その極力抵抗するものにかかわらず、その身体を捕まえ、暴力を用いて、その自由を拘束し、これを引っ張り、あるいは押すなどして、裁判所門外に拉致したる行為は、逮捕行為それ自体にして、被害者をして義務なきことを行わしめたるものにあらず

と判示しました。

東京高裁判決(昭和34年12月8日)

 この判例は、上記判例の趣旨を明確にし、

  • 刑法第223条第1項にいわゆる『暴行を用い人をして義務なき事を行わしめる』とは、人に対して暴行を加え、よって、その人をして義務なき行為に出でしめることをいい、すなわち被強要者に、その暴行のため強要されたものではあるが、なおその自己の意思に基く行為が存することを要し、人の身体に対して暴力を加え、その暴力のままにその人を器械的に行動せしめるごとき場合はその人の意思に基いた行為は存しないので、同法条にいわゆる義務なきことを行わしめた場合に該当しない

と判示しました。

義務のないことを行うのは、時間の長短にかかわらない

 強要罪の成立を認めるにあたり、義務のないことを行うのは、時間の長短かかわりません。

 強要され、義務のないことを行っている時間が短時間であっても、強要罪の成立が認められます。

 この点について、以下の判例であります。

仙台高裁判決(昭和27年10月21日)

 この判例で、裁判官は、

  • 被害者を脅迫して畏怖させ、その着用していた衣類を強いて貸与させたときは強要罪が成立し、犯人がそれを長く借りている意思はなく、その晩のうちに返しに行っても犯罪の成否に影響しない

と判示しました。

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