前回の記事の続きです。
偽計業務妨害罪と他罪との関係
偽計業務妨害罪(刑法233条前段)と
との関係を説明します。
① 信用毀損罪との関係
同一の行為が人の信用を毀損すると同時にその人の業務を妨害する場合、判例は、信用棄損罪(刑法233条前段)と業務妨害罪(刑法233条後段、234条)は単純一罪になるとしています。
参考となる以下の判例があります。
大審院判決(昭和3年7月14日)
駅弁業者と紛争中の者が、その業者の駅弁が不潔・非衛生である旨の不実の内容を記載した葉書一枚を鉄道局事務所旅客課長宛に郵送して同課長に到達せるという偽計を用いて、同課長に駅弁業者の営業に疑念を抱かせ、駅弁業者の信用を毀損し、かつ、駅弁業者の業務を妨害したとして、信用毀損罪とともに偽計業務妨害罪が成立するとしました。
② 威力業務妨害罪との関係
偽計及び威力の両手段を用いて1人の業務を妨害した場合は、偽計業務妨害罪(刑法233条後段)と威力業務妨害(刑法234条)の両罪に当たる単純一罪と解するのが通説・判例です。
この点を判示したのが以下の裁判例です。
福岡高裁判決(昭和33年12月15日)
キャバレー乗っ取りのため、日時を異にし、かつ数個の偽計及び威力を用いてその営業を妨害した事案です。
裁判所は、
- 原判決が認定したキャバレー、エスカイア乗っ取りのため、被告人らの採った言動が一部は偽計に一部は威力(客観的にみて業務遂行の意思を制圧するに足る勢力)に該当すること明白である
- そして本件の場合のように日時を異にし、かつ数個の偽計及び威力を用いて、他人の営業を妨害した場合には、各行為合せて刑法第233条、第234条の両条にあたる単純一罪たる一個の犯罪を構成するものと解する
- 4月17日午前0時頃、被告人らが阪東から引渡書の作成交付を受けた点、同日午前中、同人からキャバレー営業の事実上の引継を受けた点のみが、犯罪の成否を決する上において問題とされ得べく、(仮に営業妨害罪が成立するとしても、)その後、17、8日両夜の被告人らの行動は営業引継による結果であって不問に付すべきであるとの解釈は当らない
- もちろん営業妨害罪の場合においても、営業中の店舗に投石する場合の如く、投石なる行為によって、犯罪は既遂の状態となり、その後は営業が妨害を受けているという違法状態が結果として続くにすぎない場合(すなわち即時犯として成立する営業妨害罪)もあろうけれども、本件の如き形態の場合には前説明のように各行為合して一つの犯罪行為を組成するものと解すべく、その一部を犯罪行為自体と解し、その後の行為を窃盗犯人が他人の財物を窃取し(これにより窃盗罪は既遂となる)、その後その財物の所持を継続する場合と同様、既遂後違法状態継続中における放任行為と解すべきではない
と判示しました。
なお、偽計による業務妨害罪が成立したときは、妨害期間中に威力の行使があっても、威力業務妨害罪は成立しないとする裁判例(名古屋高裁判決 昭和38年4月1日)があります。
③ 恐喝罪との関係
1⃣ 恐喝の手段として業務妨害がなされたときは、業務妨害罪と恐喝罪(刑法249条)は牽連犯(刑法54条1項後段)となります。
参考となる以下の判例があります。
大審院判決(大正2年11月5日)
恐喝を遂行するため、他人の営業を妨害すべき虚偽事項を新聞紙上に掲載し、金を出さなければ引き続き記事を掲載する態度を示して他人を畏怖させ金員を交付せしめた事案です。
裁判所は、
- 被告は恐喝罪を遂行せんがため、他人の営業を妨害すべき虚偽の事項を新聞紙上に掲載し、もし出金せざるにおいては、引き続きその記事を掲載すべき態度を示し、他人を畏怖せしめて、もって金員を交付せしめたりというに在りしは、右営業妨害の行為は恐喝罪の具体的構成事実なりといえども金員交付を為さしむるために施したる手段にほかならざれば、刑法第54条第1項後段にいわゆる犯罪の手段たる行為にして他の罪名に触れるものなりとす
と判示しました。
この判決において、恐喝罪と牽連犯の関係に立つ業務妨害罪が、威力業務妨害罪(刑法234条)、偽計業務妨害罪(刑法233条前段)、虚偽風説流布による業務妨害罪(刑法233条前段)のいずれであるのかについては、判文上は明らかにされていません。
単純に考えれば、「他人の営業を妨害すべき虚偽の事項を新聞紙上に掲載した」行為を捉えているとみられ、そうとすれば虚偽風説流布業務妨害罪ということになります。
しかし、他方で、判示に係る「右営業妨害の行為は金員交付を為さしむるために施したる手段にほかならない」という部分については、「他人の営業を妨害すべき虚偽の事項を新聞紙上に掲載し、もし金を出さなければ引き続きその虚偽の記事を掲載する態度を示して他人を畏怖させた行為」を指して言っているともみられ、そうすると、このような脅迫行為は、「威力」に当たるから、威力業務妨害罪ということになります。
あるいは、虚偽風説流布業務妨害罪と威力業務妨害罪の両方ということである場合、罪数関係については、この両罪に当たる単純一罪とする立場と、この両罪の包括一罪とする立場とが考えられます。
2⃣ これに対し、業務妨害が他の目的からなされたもので、恐喝の手段と認められない場合は、恐喝罪と業務妨害罪は併合罪となると解されます。
東京地裁判決(昭和40年6月26日)
産業スパイが、情報提供を拒否されたことに立腹して虚偽風説を流布して営業を妨害し、さらに相手方の畏怖に重じて金員を喝取した事案で、恐喝罪と業務妨害罪が成立し、両罪は併合罪になるとしました。
④ 背任罪との関係
業務妨害の行為が同時に背任行為に当たる場合には、業務妨害罪と背任罪(刑法247条)は観念的競合となります。
参考となる以下の判例があります。
大審院判決(大正14年10月21日)
外国貿易商Aの支配人が、自己の利益を図って任務に背き、偽計を用いてAの商品一手販売権を喪失させた事案です。
裁判所は、
- 支配人が自己の利益を図り、その任務に背き、偽計を用いて主人の有する商品の一手販売権を喪失せしめて、その業務を妨害したるときは、1個の行為にして背任及び業務妨害の2罪に触れるものとす
と判示しました。