刑事訴訟法(捜査)

所持品検査とは? ~「法的根拠」「承諾なし・強制・任意の所持品検査(ポケットに手を入れるなど)」「適法・違法の具体例」を判例で解説~

所持品検査とは?

 所持品検査とは、

警察官が行う職務質問に付随して行われる持ち物検査

です。

 警察官は、職務質問を行い、犯罪に関わりがあると疑う者を見つけ出し、検挙することを職務の一つとしています。

 その職務質問の過程で行われるので、所持品検査です。

所持品検査の法的根拠

 職務質問については、警職法2条1項において規定されていますが、所持品検査を規定する法律はありません。

 しかし、以下の判例において、所持品検査は、職務質問に付随して行うことができることが示されています。

最高裁判例(昭和53年6月20日)

 裁判官は、

警職法は、その2条1項において同項所定の者を停止させて質問することができると規定するのみで、所持品の検査については明文の規定を設けていないが、所持品の検査は、口頭による質問と密接に関連し、かつ、職務質問の効果をあげるうえで必要性、有効性の認められる行為であるから、同条項による職務質問に附随してこれを行うことができる』

と判示しました。

所持品検査は承諾が必要。しかし…

 所持品検査は、任意手段である職務質問に不随して行われるので、任意に行う必要があります。

 つまり、所持品検査は、所持者の承諾を得て、承諾の範囲内で行うのが原則になります。

 所持品検査を強制的に行うと違法行為になります。

 しかしながら、所持品検査を行う相手というのは、薬物犯などの犯罪を行った疑いがある者です。

 そのような相手に対し、承諾のない限り、所持品検査は一切許容されないというルールにしてしまうと、薬物犯などの犯罪者を取り逃がす結果となり、新たな犯罪を生み出すなど、社会の平和が守られません。

 そのため、所持品検査は、先ほどの最高裁判例(昭和53年6月20日)において、

『所持人の承諾のない限り所持品検査は一切許容されないと解するのは相当でなく、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り、所持品検査においても許容される場合がある』

と判示されており、

強制にわたらない程度であれば、所持者の承諾がなくても、所持品検査ができる場合がある

とされています。

承諾のない所持品検査ができる状況

 先ほどの最高裁判例(昭和53年6月20日)において、承諾のない所持品検査ができる状況が示されています。

 裁判官は、

『(所持人の承諾のない所持品検査は、)状況のいかんを問わず常に許容されるものと解すべきでないことはもちろんであって、かかる行為は、限定的な場合において、所持品検査の必要性、緊急性、これによって害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度においてのみ、許容される』

と判示し、抽象的ではありますが、承諾のない所持品検査が認められる状況を示しています。

 具体的に、どのような所持品検査が適法であり、または違法であるかは、個別の事案ごとに、判例を指針にしながら、ケースバイケースで判断されることになります。

承諾のない所持品検査が許容される基準

 承諾のない所持品検査が許容されるかどうかの判断基準は、判例を確認していくと、以下のように整理できます。

許容される判断基準

  • 不審な物を持っていないかを調べるために、衣服や、バッグなどの携帯品の外側に手を触れる
  • バッグなどの携帯品の損壊することなく、中身を確かめる

といった行為は、所持者の承諾がなくても、許容される所持品検査であると整理できます。

許容されない判断基準

  • 衣服のポケットに手を入れて所持品を取り出す

といった行為は、所持者の承諾がなければ、許容限度を逸脱した所持品検査になると整理できます。

 ちなみに、携行品から法禁物(覚醒剤など)が見てえている状態で、携行品の中からその法禁物を取り出す行為は、ぎりぎり許容されると整理できます。

所持品検査の適法・違法性が争われた判例

 所持品検査の適法性・違法性が争われた判例を紹介します。

 判例の傾向として、所持品検査は違法と評価した場合でも、所持品検査で入手した証拠物(覚醒剤など)は、犯人の犯罪の立証に用いることができるとし、犯人を有罪にする判決を出しています。

最高裁判例(昭和53年9月7日)

所持品検査の態様

 警察官が、覚せい剤の使用・所持の容疑がかなり濃厚な犯人の上衣ポケットに手を差し入れて所持品(覚醒剤)を取り出した上、検査した。

裁判官の判断

 まず、裁判官は、

『犯人の承諾がないのに、上衣左側内ポケツトに手を差し入れて所持品(覚醒剤)を取り出したうえ検査した警察官の行為は、一般にプライバシイ侵害の程度の高い行為であり、かつ、その態様において捜索に類するものであるから、相当な行為とは認めがたい』

『職務質問に附随する所持品検査の許容限度を逸脱したものと解するのが相当である』

と判示しました。

 つまり、「犯人の承諾なしに、ポケット内に手を差し入れて所持品を取り出す行為」は、

職務質問に附随する所持品検査の許容限度を逸脱した行為になる

と、裁判官から判断されるということです。

 しかしながら、裁判官は、

『証拠物の押収等の手続に、憲法35条及びこれを受けた刑訴法218条1項等の所期する令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合においては、その証拠能力は否定されるものと解すべきである』

と前提を述べた上、

『警察官の行為は、職務質問の要件が存在し、かつ、所持品検査の必要性と緊急性が認められる状況のもとで、必ずしも諾否の態度が明白ではなかった犯人に対し、所持品検査として許容される限度をわずかに超えて行われたに過ぎない』

『証拠物の押収手続の違法は必ずしも重大であるとはいえない』

『証拠物を犯人の犯罪の証明に用いることが、将来における違法な捜査の抑制の見地に立ってみても相当でないとは認めがたいから、証拠物の証拠能力は肯定すべきである』

と判示し、許容限度を逸脱した所持品検査で入手した覚醒剤について、所持品検査の許容限度を逸脱した行為であるとししつも、証拠能力は認めました。

※「証拠物の証拠能力を認める」とは、「証拠物を、犯人を有罪認定するための証拠にすることができる」という意味です。

※ 所持品検査で入手した覚醒剤の証拠能力が認められれば、犯人を覚醒剤取締法違反の罪で有罪にすることができます。

最高裁判例(昭和63年9月16日)

所持品検査の態様

 覚醒剤使用の疑いのある犯人が、パトカーの屋根上に、片手をドアガラスの上に置き、突っ張るような状態で乗車を拒むので、警察官が説得したところ、犯人は、渋々ながら手の力を抜いてパトカーの後部座席に自ら乗車した。

 警察官は、パトカーで犯人を警察署へ同行した。

 警察署において、警察官が、犯人の着衣の上から触れるようにして所持品検査をするうち、外部から見て犯人の左足首付近の靴下の部分が脹らんでいるのを見つけ、そのまま中のものを取り出して確認したところ、覚せい剤や注射器、注射針等を発見した。

裁判官の判断

 裁判官は、

『警察署への犯人の同行は、犯人が渋々ながら手の力を抜いて後部座席に自ら乗車した点をいかに解しても、その前後の被告人の抵抗状況に徴すれば、 同行について承諾があったものとは認められない』

『本件所持品検査は、犯人の承諾なく、かつ、違法な連行の影響下でそれを直接利用してなされたものであり、しかも、その態様が犯人の左足首付近の靴下の脹らんだ部分から当該物件を取り出したものであることからすれば、違法な所持品検査といわざるを得ない』

と判示しました。

 つまり、裁判官は、犯人の承諾なく、左足首付近の靴下から覚醒剤を取り出す行為を、違法な所持品検査としました。

 とはいえ、この判例においても、先ほどの判例と同様に、

『本件所持品検査の違法は、いまだ重大であるとはいえず、所持品検査で得られた証拠(覚醒剤)を犯人の犯罪の立証の証拠とすることが、違法捜査抑制の見地から相当でないとは認められないから、証拠(覚醒剤)の証拠能力を肯定することができる』

とし、所持品検査で得た覚醒剤の証拠能力を認め、犯人を覚醒剤取締法違反で有罪にしました。

最高裁判例(平成7年5月30)

所持品検査の態様

 警察官が、覚せい剤所持の嫌疑がある犯人の自動車内を、犯人の承諾なく調べ、覚醒剤を発見した。

裁判官の判断

 裁判官は、

『警察官が本件自動車内を調べた行為は、犯人の承諾がない限り、職務質問に付随して行う所持品検査として許容される限度を超えたものというべきであり、違法であることは否定し難い』

と判示しつつ、

『しかし、被告人には、覚せい剤の所持又は使用の嫌疑があり、所持品を検査する必要性、緊急性が認められる状況の下で、覚せい剤の存在する可能性の高い本件自動車内を調べたものであり、また、犯人は、これに対し明示的に異議を唱えるなどの言動を示していないのであって、これらの事情に徴すると、違法の程度は大きいとはいえない』

と判示し、所持品検査は違法としながらも、違法の程度は大きくないとして、所持品検査で押収した覚醒剤の証拠能力を認め、犯人を覚醒剤取締法違反で有罪にしました。

最高裁判例(平成15年5月26日)

所持品検査の態様

 警察官が,財布の小銭入れの部分からビニール袋入りの白色結晶を発見し、犯人の承諾なく、抜き出した。

裁判官の判断

 裁判官は、

『警察官に、令状主義に関する諸規定を潜脱する意図があった証跡はない。』

『所持品検査によって発見された証拠を違法収集証拠として排除することに結び付くものではない』

『証拠能力に影響を及ぼすような違法はない』

と判示し、財布の小銭入れの部分からビニール袋入りの白色結晶を発見し、犯人の承諾なく、抜き出した所持品検査を違法でないとし、犯人を覚せい剤取締法違反で有罪にしました。

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