刑法(業務上過失致死傷罪)

業務上過失致死傷罪(21) ~「鉄道運転士の注意義務」を判例で解説~

鉄道運転士の注意義務

 鉄道事故は、業務上過失致死傷罪(刑法211条前段)が成立するケースが多いです。

 今回は、鉄道事故について説明します。

 鉄道事故は大惨事になりやすく、鉄道の運転士には危険な業務に従事する者として、事故を防止する注意義務が課せられています。

 他方で、鉄道は、専用のレールを走っており、踏切通過時点においても、車両や横断者が電車の通過を待つものと信頼でき、減速するなどして不慮の事故に備える注意義務はないと解されています。

 よって、自動車運転者より「信頼の原則」の働く場面が多く、業務上過失致死傷罪が成立しない場合も多いといえます(「信頼の原則」の説明は前の記事参照)。

 とはいえ、全ての踏切事故が、運転士に過失なしとして、業務上過失致死傷罪が成立しないとされるわけではありません。

 具体的状況によっては、踏切通過に当たって不慮の事故に備える注意義務が生じ、業務上過失致死傷罪が成立する場合があります。

 この点、参考となる判例として、以下のものがあります。

大審院判決(大正3年3月11日

 踏切での電車と歩行者が衝突し、歩行者が傷害を負ったとし、電車の運転士である被告人が業務上過失傷害罪で起訴された事案です。

 裁判官は、

  • 電車の前路において、線路を横断せんとする通行人は、衝突のおそれなき時期を選択して線路に入ることを要するものにして、運転手は進行中の電車を停止し、通行人をして、まず線路に入り、これを横断せしめ、その通過するを待って電車の進行を継続するの義務なきものとす
  • 運転手が、電車を操縦するに当たりては、常にその進路の前方を警戒し、危害を未然に予防する周到なる注意をなすことを要するなるをもって、通行人がその姿勢態度その他の状況により、電車の進行に介意せずして線路を横断せんとするの危険ありと信ずべき理由あるときは、通行人に過失の責あると否とにかかわらず、衝突を避けるに必要なる注意をなす要あるものとす

と判示しました。

 この判決では、原判決が「鉄道運転士である被告人が、踏切に向かって歩行してくる被害者を見ることができたかどうかにかかわらず、歩行者に気付かずに電車の進行を続けたことを被告人の過失として認定し、業務上過失傷害罪が成立する」と判決したことに対し、理由不備の失当であるとし、原判決を破棄し、第一審裁判所での審理のやり直しを命じました。

最高裁決定(昭和42年2月16日)

 電車の踏切事故で歩行者を死傷させた業務上過失致死傷罪の事案です。

 裁判官は、

  • 夜間、沿線に火災があったことを知った電車の運転士が、警手のいない踏切を通過するに際して、沿線に火災が発生し、その発生場所が分からない場合には、火災現場に急行する消防自動車や火災に気を奪われた被災者や見物人等が電車の運行に注意せずに踏切内に立ち入るおそれがあるため、これらと衝突する危険のあることを予見し、進路に異常を発見した際に、これらと衝突することなく停車しうる程度にまで減速して進行すべき注意義務がある

とし、火災により警手のいない踏切を通過する際に減速しなかった運転士の過失を肯定し、業務上過失致死傷罪が成立するとしました。

鉄道事故の裁判例

 鉄道事故の裁判例を紹介します。

運転士に前方注視義務違反があるとし、業務上過失致死傷罪が成立するとした裁判例

 鉄道運転士が、鉄道を運転するに当たっては、線路前方を注視する義務があることは当然であり、前方やレール近くに人影を認めた場合は、警笛を鳴らして注意を与え、減速するなどの措置をとるべきであるとされます。

 鉄道運転士に前方注視義務違反があるとして、業務上過失致死傷罪が成立するとした裁判例として、以下のものがあります。

札幌高裁判決(昭和33年3月13日)

 電車が見通しの悪い区間に差し掛かる前に、前方に人影を発見したが、その人影の事物に衝突して死亡させた事案について、裁判官は、

  • 被告人は、前方鉄橋上に動いている人影を発見したものであるし、その後、路線が直線区間となっても更に間もなく鉄橋前約150mの地点から再び曲線区間となり、かつ前記の如く上り勾配のため盲目運転に入る危険な個所があるのであるから、機関助士としては更に前方を注視し危険の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるものと解するを正当とする

と判示し、運転士には前方注視義務違反の過失があるとし、業務上過失致死傷罪が成立するとしました。

名古屋高裁判決(昭和32年10月2日)

 電車が鉄橋に差し掛かった際、鉄橋上を通行中の人影を認めたが、その通行人に衝突して死亡させた事案について、裁判官は、

  • 列車を運転し鉄橋に差し掛かった鉄道機関士が、鉄橋上を通行中の人影を認め、かつその地点が列車の制動距離を去る至近の地点に迫っている場合には、単に警笛吹鳴して警告を与えるにとどまらず、直ちに非常制動の措置を採るべき業務上の注意義務がある

と判示し、運転士には前方注視義務違反の過失があるとし、業務上過失致死傷罪が成立するとしました。

福岡高裁判決(昭和36年11月17日)

 前方約180メートル先に、レールから約2メートルの地点に2、3歳の幼児を認めたが、その幼児に衝突し傷害を負わせた事案について、裁判官は

  • 2、3歳ぐらいの幼児を約180メートル先の軌条から約2メートルの位置に発見したときは、このような幼児は、警笛の意味を理解して危険を避ける能力に欠け、自らを危険にさらす行動に出たり、至近距離をごう音を発して通過するディーゼル動車に恐れうろたえて、あるいは車の風圧によって自らを危険にさらすおそれのあることは、ディーゼル動車運転の業務に従事する者は、通常予想すべきものである
  • 運転者には、被害者が車と接触しない位置にいたとしても、警笛を吹鳴して注意を与え被害者がこれに気付いたのみでは足りず、停車又は減速の処置を講じるべき業務上の注意義務があるものと解するのが相当である

と判示し、運転士には前方注視義務違反の過失があるとし、業務上過失致死傷罪が成立するとしました。

運転士は注意義務は尽くしたとして、業務上過失致死傷罪の成立を否定した裁判例

 上記裁判例とは逆に、運転士は注意義務を尽くしていたとして、業務上過失致死傷罪の成立を否定した裁判例として、以下のものがあります。

東京高裁判決(昭和41年12月19日)

 レール上において成人を認め、約100メートル手前から数回警笛を吹鳴したが、相手がよろめくように姿勢が崩れ、急停車の措置をとったが衝突して死亡させた事案で、鉄道運転士は尽くすべき注意義務を尽くしたとし、業務上過失致死罪の成立を否定し、無罪を言い渡しました。

名古屋高裁金沢支部判決(昭和32年7月9日)

 4歳の幼女ら3名の幼児が線路の近くを歩いていたところ、19.4メートル手前に迫って4歳の幼女が線路に寄って来て接触して死亡させた事案で、裁判官は、

  • 電車の運転に任する者は、幼児の位置、姿勢、挙動等に基き、特に接触の危険を冒すものと認むべき徴候の覚欠するに足るものがない限り、あらゆる可能性に適応すべく、常に急停車の措置を準備する義務を負わしめられるべきでない
  • 被告人は、約92mの距離に接近するまで、県道上に幼児が居るのに気付かず、また、幼児が居るのに気が付いてからも、別段急停車の措置をとろうともせず、約19mの距離に接近するまで、そのまま進行を続けたことは証拠上明白である
  • しかしながら、当時、被害者らの動静に、接触の危険を冒すような何らの徴候が認められなかったとすれは、被告人のかかる態度は、本件事故の発生につき、その原因を与えたものとして、非難さるべきでない

と判示し、被告人の過失責任を否定し、業務上過失致死罪の成立を否定しました。

急ブレーキをかけても鉄道は止まることはできなかったとし、業務上過失致死傷罪の成立を否定した裁判例

 鉄道は、高速度で進行することから、被害者を発見した地点から急ブレーキをかけても止まることができず、結果を回避することが不可能な場合もあります。

 急ブレーキをかけても鉄道は止まることはできなかったとし、業務上過失致死傷罪の成立を否定した裁判例として、以下のものがあります。

大阪地裁判決(昭和54年4月12日)

 急行電車を運転して時速80キロメートルで進行中、前方踏切上で大型貨物自動車がエンストのため停止しているのを約100メートル手前で発見し、急制動の措置をとったが衝突し、運転手を死亡させた事案です。

 裁判官は、

  • 自動車を発見できる地点は、手前160.3メートルを超えることはなく、むしろこれからある程度の距離を控除した数値であるところ、この地点で急制動の措置をとっても衝突は制動距離の関係上不可避であり、前方不注視があったかなかったかを問題にするまでもなく、結果回避の可能性はない

とし、被告人の過失責任を否定し、業務上過失致死罪は成立しないとし、無罪を言い渡しました。

鉄道運転士が信号機に従わなかったことで衝突した事例で、業務上過失致死傷罪が成立するとした裁判例

 鉄道を運転する際、信号に従うべきは当然であり、信号に従わず衝突事故を起こした場合は、過失が認められやすく、業務上過失致死傷罪が成立する場合が多いと考えられます。

東京高裁判決(昭和53年2月6日)

 駅構内における電車の追突事故の事案です。

 裁判官は、

  • 被告人は、構内信号機が停電により消灯していたのに、朝日の反射により信号が見えないものと速断し、かつ先行電車がすでに船橋駅を発車しているとの誤った予測のもとに、同駅構内近くに至るまでの間、構内信号機に対する注視はおろか、前方注視自体を欠いたまま、しかも相当な速度で、自車を走行させたというのであるから、被告人に過失があったというべきことは明らかである
  • そして、仮に被告人が、構内信号機を注視して同信号機が消灯していることを確認し、運転規則に従い同信号機が停止信号を表示している場合と同様に同信号機の手前で停止できる速度と方法により自車を運転したならば、本件事故を回避できたことはいうまでもないから、被告人の右過失と本件事故との間に法律上の因果関係があるというべきこともまた明らかである

と判示し、被告人の過失を肯定し、業務上過失傷害罪の成立を認めました。

東京地裁判決(昭和48年5月28日)

 注意信号に従って減速措置を講ぜず、停電により停車中の先行電車に追突し、多数の乗客が負傷した業務上過失傷害罪の事案で、電車運転士に減速措置を講じなかった過失があるとし、業務上過失傷害罪が成立するとしました。

最高裁判決(判昭48年4月17日)

 下り貨物列車の機関士が、信号機の現示する停止信号を進行信号と誤認するなどして、列車を安全側線に突入させたところから、機関車が安全側線の車止めを突破して下り車線側に脱線し、下り車線を進行中の下り電車に衝突して電車2両を上り車線側に脱線させ、上り車線上を進行して来た上り電車が、この脱線車両に衝突した事案について、被告人の過失責任を認め、業務上過失致死傷罪が成立するとしました。

運転士のほか、車掌にも過失が認められ、業務上過失致死傷罪が成立するとした裁判例

 車掌(鉄道の責任者)は、運転士と協力して安全運転を心掛けるのは当然であり、鉄道のブレーキの効果、信号について確認するなど、事故防止について細心の注意を払うべき義務が課せられます。

 運転士と車掌の両方の過失が認められた裁判例として、以下のものがあります。

長崎地裁判決(平成5年3月26日)

 全線単線である鉄道において、運転士と車掌は、列車を発車させるに当たっては、信号を確認し、それに従って列車を出発させ、また行き違い駅を確認し、下り列車の到着を待って出発すべき注意義務があるのに、赤色信号を確認することなく、車掌は次の駅が行き違い駅であると誤信して運転士に出発合図を出し、運転士も下り列車を待つべきことを失念して列車を発車させて、列車同士が正面衝突をして乗客、乗務員72名が負傷した事案で、運転士と車掌の両名に業務上過失致死傷罪が成立するとしました。

水戸地裁判決(平成8年2月26日)

 列車の運転士と車掌が、業務上の過失により、乗務中の列車を制御不能状態で暴走させ、先頭車両を駅ビル内の店舗に激突させて大破させた結果、乗客1名を死亡させ、多数に傷害を負わせた事案につき、運転士と車掌の両名の過失の競合によるものであるとして、両名に有罪判決が言い渡された事例です。

 裁判官は、

  • 列車はN駅に停車中に制動不能の状態となっていたが、運転士はこのことには思い至らず、列車の遅延に気を取られ、制動試験を行わず、ブレーキが制動不能状態にあることを看過したまま車掌の出発合図に従い発車させ、車掌も運転心得等に従い、運転士と緊密な連絡を取り制動試験を行うべきであったのにこれを怠り、運転士に出発合図を送り発車させ列車を暴走させてT駅に設置された車止めを突破して駅ビル内店舗側壁に激突させて先頭車両を大破させたて乗客1名を死亡、乗客125名に傷害を負わせた

とし、運転士と車掌の両名に業務上過失致死傷罪が成立するとしました。

 参考までに、運転士と車掌以外の者の過失が競合して結果が発生した場合の裁判例として、以下のものがあります。

名古屋地裁判決(平成8年2月23日)

 レール上で保線作業中の作業員に衝突して4名を死亡させた事故について、列車監視者Aと運転士Bの両名に業務上過失致死傷罪が成立するとした事例です。

 裁判官は、

  • 保線作業中、列車監視の業務に当たっていたAには、電車の進行して来る方向を注視し、接近して来る電車の有無を常に確認して、接近して来る電車を認めたときは、作業員にその旨周知させた上で、作業を中断させて安全な場所に退避させて事故を未然に防止すべき注意義務があり、運転士Bには、常に前方を注視して進路の安全を確認し、事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるのに、いずれもこれを怠った

とし、列車監視者Aと運転士Bの両名に業務上過失致死傷罪が成立するとしました。

運転士のほか、鉄道の設備管理責任者や運行を管理する者に対しても過失責任が問われた裁判例

 鉄道の設備の故障などの事態が起きた際には、その修理などに当たる者や、運行を管理する者が事故を未然に防止すべき注意義務を負うととになる場合があります。

 このような注意義務が問題となった裁判例として、以下のものがあります。

大津地裁判決(平成12年3月24日)

 信号設備の故障のまま、所定の措置をとることなく、漫然と列車を出発させたため、上り列車と下り列車が単線軌道上で正面衝突し、死者42名、負傷者519名を出した列車事故の事例です(信楽高原鉄道列車事故)。

 裁判では、事故当時の駅長として勤務していた運転主任A、保安設備の保守等の業務に従事していた施設課長B、信号修理を担当していた信号技術者Cの過失が問われました。

 Aには信号故障を認識し、その修理をBに依頼したのであるから、行き違い場所に先着していた下り列車が出発信号機の緑色誤表示に従って通過する可能性があることを予見して、S駅出発信号が赤色現示のまま上り列車を出発させるに当たっては、Bと密に連絡を取って、継電連動装置の使用停止前は、Cの修理を中止させるよう要請して列車の安全を確認し、かつ信号場まで要員を派遣配置してS駅から信号場までの区間開通の確認をして、その安全を確認し、上り列車に指導者を同乗させるなど代用閉塞方式である指導通信式所定の手続をとり、その上で、上り列車を出発させる注意義務があり、Bには、Aと連絡を密にとって、C が点検修理している間は、Aに対して列車の出発を見合わせるよう要請して列車の運行の安全を確認する注意義務があり、Cには、S駅継電連動装置の修理をするに当たり、それが信号場の下り列車出発信号に誤作動を生じさせる可能性のある行為であることから、Bと連絡を取って、継電連動装置の使用を停止するよう要請し、それがなされたことを確認するか、その確認ができない場合は修理を中止し、正当な条件を経ない電源で動作させるなどの行為を中止する注意義務違反がそれぞれにあるとして、A、B、Cの3人に業務上過失致死傷罪が成立するとしました。

大阪地裁判決(平成17年1月20日)

 線路脇に入り込んでいた少年と電車の接触事故(第1事故)の事故現場で、救急隊員による少年の救助活動が行われていたにもかかわらず、運転を再開した後続の特急列車が時速約100キロメートルで走行し、線路軌道敷内で救急隊員1名をはね飛ばし、別の救急隊員に衝突させ、救急隊員1名を死亡させ、1名に傷害を負わせた事故(第2事故)です。

 裁判において、指令所(管轄する区域の列車の運行状況を管理し、事故等によりダイヤの乱れが発生した場合には情報を集めて後続列車のダイヤを調整し、そのダイヤに従って指令を出す組織)の総括指令長A、副総括指令長B、指令員(無線や信号操作等を通じて実際に指令を出す者)C、D及び第1事故現場において安全確保の業務に当たっていた運輸管理係員Eの過失が問われました。

 Bについては、Eと相互に連絡できる携帯電話を手元に置きながら、Eから現場の状況について直接聴取することなく、後続の特急列車の運転再開を指示した点、Dについては、第1事故後の運転再開に際し、運転再開した電車の乗務員から「最徐行でお願いします」と無線で告げられていたにもかかわらず、これを聞き逃した点、Eについては、携帯電話で指令所に第1事故現場の状況を連絡し、後続特急列車の停車等を求め、あるいは、事故現場の救急隊員等に的確な指示を与えなかった点にいずれも過失があるとし、業務上過失致死傷罪の成立を認めました。

 総括指令長Aについては、第1事故後、後続列車を止めた後は、もっぱら架線事故の処理に当たっており、総括指令長という立場にあり、指令所の指令業務の責任者ではあるものの、個々の列車にかかる指令業務について、逐一指揮監督すべき立場にあったとはいえず、第1事故後の処理を副総括指令長B以下に委ねていたことに落ち度は認められないとして、過失が否定され、無罪が言い渡されました。

 指令員Cについては、Dと連携して事務に当たっていたが、Dに列車の運転に支障がないかの確認をとるように求め、Dから支障がない旨の回答を得ており、その確認状況に疑念を挟む事情も認められないので、C自らが再度安全を確認するまでの義務はないとして、過失が否定され、無罪が言い渡されました。

札幌地裁判決(平成5年5月13日)

  鉄道の踏切自動警報器の警報灯の取替工事を行う際、この工事を受注している会社の従業員で、鉄道用信号、踏切警報機の保守・点検等に従事しているAが、自動警報器の支持柱に設置されている踏切支障報知装置等の非常装置の作動を停止させ、列車見張員Bを配置し、作業者Cに補助させながら脚立の上で警報灯の取替工事を始めた後、1万2000キログラムの建設用大型作業機械を積載した大型貨物自動車が交差道路から圧雪状態の踏切内に進入し、電車通過の警報器が鳴り始めた後に、踏切出口付近でスリップして、上り線を塞ぐ状態で停車し、列車見張員Bが踏切出口の遮断竿を持ち上げて退避を促すなどし、作業員Cは踏切支障報知装置のスイッチを入れ、非常ボタンを押したが間に合わず、上り特急列車が進行して来て自動車に衝突して先頭2両が脱線転覆し、乗客、乗員3名が重傷を負った事例です。

 列車接近を知らせる自動警報装置が鳴り始めた直後、自動車の踏切内停止等を認めたので自ら、あるいは他の作業員を指揮して、踏切支障報知装置を作動させて、その非常ボタンを押し、信号炎管を発火させるなどして、列車に危険を知らせて停止させるべき注意義務が存していたが、事態を傍観して非常ボタンを押すのが遅れ衝突事故を招いたもので、Aに過失があるとし、Aに対し、業務上過失傷害罪が成立するとしました。

安全装置の設置など、鉄道の安全管理を怠ったする過失責任が問題となった裁判例

 鉄道の敷設のあり方や、安全を確保するための装置の設置など、鉄道の安全管理を怠ったとする過失責任が問題となった裁判例として、以下のものがあります。

神戸地裁判決(平成24年1月11日)

 電車が高速度でカーブに進入したことによって脱線事故を起こし、多数の死傷者を出した事故です(福知山線脱線事故)。

 現場の状況から事故の発生が予見できたはずであり、現場にATS(自動列車停止装置)を装備しておけば事故は回避できたはずであるとして、当時の安全管理担当役員が起訴されました。

 裁判官は、具体的事実関係に基づき、安全管理担当役員には、事故現場にATSを整備するように指示する注意義務を認める前提となる予見可能性はなかったとして、安全管理担当役員の過失を否定し、無罪を言い渡しました。

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