前回の記事の続きです。
刑訴法321条1項1号の裁判官面前調書(1号書面)の説明
裁判官面前調書(1号書面)に該当する書面
被告人以外の者の供述録取書のうち刑訴法321条1項1号の裁判官面前調書(裁判官の面前における供述を録取した書面)に該当するものとしては、
- 第1回公判期日前の裁判官による証人尋問調書(刑訴法226条、227条)
- 証拠保全のための裁判官による証人尋問調書(刑訴法179条)
- 準起訴手続(付審判手続)の証人尋問調書(刑訴法265条2項)
- 裁判官の勾留質問調書(被疑者を裁判官が勾留する際に作成する調書)(刑訴法207条)
が該当します。
裁判官面前調書は他の事件で作成されたものでもよい
裁判官面前調書は、公判になっている事件の関係で作成されたものがその公判の証拠として使えるのはもちろんですが、他の公判の事件で作成されたものであっても、関連性があれば、公判になっている事件の関係でも使うことができます(最高裁判決 昭和29年11月11日)。
なので、
- 他の刑事事件の公判調書中の証人・鑑定人の供述部分(証人・鑑定人の供述は文字お越しされ、公判調書に添付される)
- 民事事件の口頭弁論調書(証人・鑑定人尋問調書)
- 少年保護事件の証人・鑑定人調書
- 被告人以外の者に対する事件の公判調書中、被告人以外の者が被告人としてした供述を録取した部分(例えば、別事件の被告人Aが別事件の公判でした供述を記載した公判調書を、被告人Bの公判で証拠として使う場合が該当)(最高裁判決 昭和57年12月17日)
も裁判官面前調書に含まれ、関連性があれば、公判になっている事件の関係で証拠として使うことができます。
裁判官面前調書(1号書面)が証拠採用される条件(供述の再現不能、供述の相反性)
裁判官面前調書(1号書面)は、刑訴法326条による証拠採用されることの相手方(検察官又は弁護人・被告人)の同意により証拠能力が与えられるか、刑訴法321条1項1号で証拠能力が与えられると、裁判官が証拠として採用できるようになります。
刑訴法326条による同意が得られなかった場合、刑訴法321条1項1号で証拠能力が与えられないかを考えることになります。
刑訴法321条1項1号で証拠能力を与える条件は、
1⃣「その供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明若しくは国外にいるため公判準備若しくは公判期日において供述することができないとき」(刑訴法321条1項1号前段)
又は
2⃣「供述者が公判準備若しくは公判期日において前の供述と異なった供述をしたとき」(刑訴法321条1項1号後段)
の場合であり、1⃣2⃣の場合に該当すれば証拠能力が認められ、裁判官は裁判官面前調書(1号書面)を証拠として採用することができます。
1⃣は、前に裁判官の面前で供述した者が、再び法廷で供述できない場合(供述の再現不能)です。
供述の再現不能は、書面の供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明若しくは国外にいるため、公判準備若しくは公判期日において供述することができない場合をいいます。
2⃣は、前に裁判官の面前で供述した者が、法廷に出廷して来て供述したが、前に裁判官に述べたことと違ったことを述べた場合(供述の相反性)です。
供述の相反性は、供述人が公判で証人尋問を受け、その証言の内容が、公判期日ではない日に裁判官の面前で供述して裁判官が作成した書面(証人尋問調書など)と異なる供述となった場合をいいます。
なお、検察官面前調書(2号書面)の供述の相反性の要件が「相反するか実質的に異なった場合」(刑訴法321条1項2号)に限定されているのに比べてると、裁判官面前調書(1号書面)は広く証拠能力が認められているという見方になります。
これは、裁判官面前調書(1号書面)は、裁判官の面前における供述なので、高い信用性の情況的保障があることによります。
裁判官面前調書(1号書面)が刑訴法321条1項1号前段の「供述の再現不能」によって証拠能力を与えられた場合には、裁判官面前調書の記載と対比される法廷供述は存在しないので、裁判官調書の記載だけが証拠となります。
これに対し、 裁判官面前調書(1号書面)が刑訴法321条1項1号後段の「供述の相反性」によって証拠能力を与えられた場合には、裁判官面前調書の記載と対比される法廷供述(相反供述)が存在することから、その両方が証拠となります。
そして、裁判官面前調書と裁判官面前調書の記載と対比される法廷供述のいずれを信用するかは、裁判所の自由心証によって決められます。
※ 「供述の再現不能」「供述の相反性」の詳しい説明は前の記事参照
ビデオリンク方式によりされた証人尋問調書の証拠採用方法
ビデオリンク方式(刑訴法157条の6第1項)によりされた証人の尋問・供述・その状況を記録した記録媒体がその一部とされた証人尋問調書については、被害状況についての尋問が繰り返される弊害から被害者を保護する見地から、その調書の取調べの後、その供述者を証人として尋問する機会を訴訟関係人に与えることを条件として、証拠能力が付与されます(刑訴法321条の2第1項)。
なので、ビデオリンク方式による証人尋問調書は、供述者が証人として尋問できる状況にあれば、刑訴法321条の2第1項の適用により証拠能力を有しますが、供述者が死亡その他の理由で供述不能となったときには、刑訴法321条の2第1項を適用することができず、刑訴法321条1項1号の裁判官調書に当たるとされます。
次回の記事に続く
次回の記事では
刑訴法321条1項2号の検察官面前調書の説明
をします。