職場において、自分と利害関係のない人が仕事でミスをして、上司から怒られているのを見ると、鼻で笑ってしまうような面白さを感じてしまうこと、ありますよね?
私の場合は、他人がミスをしているのを見ると、じわじわとこみ上げてくるような面白さを感じます。ほくそ笑むという表現が当てはまるでしょうか。
自分自身が他人から怒られたり、粗末に扱われたりすれば、自己肯定感が下がり、ネガティブな感情に支配されるので、超絶深刻な問題となりますが、他人が怒られたり、粗末に扱われても、自分には関係のないことなので(対処すべき自分の課題にはならないので)、全く問題ありません。
むしろ、他人がバカをやってコケているのを傍観者の立場で見ると楽しくなります。
お笑い芸人のバカな芸を見ると楽しくなってしまうのと同種の心の動きです。
このように、人には他人の失敗を見ると、喜びを覚える性質を持っているのです。
今回は、〝他人の失敗は自分の報酬である″という誰もが持っている心理について解説します。
他人の失敗は自分の報酬、他人の成功は自分の損失
クリストファーJバーグらの2010年の研究論文「Neural mechanisms of observational learning」を紹介します。
大学生が、教授から「君は素晴らしい」と褒められるなど、肯定的な評価を受けると、脳の線条体(何が自分に喜びをもたらし、何が損害を与えるかを認知するための役割を果たす脳の部位)のドーパミンニューロンが発火頻度が急上昇するのが確認されました。
(ドーパミンは人に快感を感じさせる脳内物質です)
逆に、大学生が、教授から「君には失望した」と言われるなど、否定的な評価を受けると、ドーパミンニューロンの発火頻度が低下するのが確認されました。
重要なのはここからです。
この研究は、同じ出来事でも、「自分の経験」か、「他人の経験」かで脳反応が真逆になることを示しました。
「自分の経験」に基づけば、
- 自分が人から褒められる→ドーパミンニューロンが発火頻度が上昇する(喜びを感じる)
- 自分が人から粗末に扱われる→ドーパミンニューロンの発火頻度が低下する(不快を感じる)
という脳反応になります。
逆に、他人が褒められているのを見たり、粗末に扱われているのを見た場合は、以下のような脳反応になります。
- 他人が人から褒められているのを見る →ドーパミンニューロンの発火頻度が低下する(不快を感じる)
- 他人が人から粗末に扱われているのを見る →ドーパミンニューロンが発火頻度が上昇する(喜びを感じる)
この結果から、脳は、他人の失敗は自分の報酬、他人の成功は自分の損失とプログラムされていることが分かりました。
脳は、自分以外の他人を競争相手と見なすという性質をもっているのです。
脳科学の世界では、人が他人を蹴落とすことに快感を感じる性質を「シャーデンフロイデ」と定義しています。
シャーデンフロイデも、他人の失敗を自分の報酬と感じる人の性質の現れといえます。
(シャーデンフロイデについては、〝【脳科学】シャーデンフロイデとは~人は成功者が失敗したところを見ると快感を得る~″で解説しています)
次に、〝他人の失敗は自分の報酬 ″と脳回路が組まれている理由を解説します。
優越性の追求本能
人は、他人より優れていたいと欲する本能を持って生まれます。
この本能を優越性の追求といいます。
自分が他人より優れた存在でいたい、他人から尊敬されて褒めてもらえる存在でありたい、他人より多くの報酬を得ることができる待遇でいたいと願うのは、子供も大人も変わりません。
生まれてから死ぬまでこの願望を引きずり続けます。
この優越性の追求本能が〝他人の失敗は自分の報酬″という脳回路を作り出します。
他人が失敗してくれると、相対的に自分の優位を感じることができます。
他人がミスをしているのを見て、「うわぁ、バカだな…」などと口に出さずとも、思ってしまいますが、こう思っているとき、人はささやかな喜びやほのかな快感を感じています。
自分の優越性を感じて、脳内から快楽物質であるドーパミンが分泌されるためです。
このように、人は、他人が失敗しているのを見ると、優越性の追求本能が満たされ、自己の優越性を感じることができ、脳内からドーパミンが分泌され、快感(報酬)を感じることができるのです。
よっては、人にとって、〝他人の失敗は自分の報酬″になるのです。
(なお、優越性の追求については、‶「嫌われる勇気」を読んで記憶に刻み込みたい部分をブログに書いてみた【アドラー心理学を解説】“で解説しています。)
(他人を自分より低く見積もることで快感を感じることについては、‶【脳科学】人を責める快楽″で解説しています。)
余談
この記事を書いているとき、芸能人の不倫報道がメディアで多く取り上げられていました。
不倫報道ネタは視聴率がとれてお金になるので、メディアは多く取り上げます。
他人の不倫報道は、視聴者の人生には何の関係もないし、視聴者には何の迷惑もかかっていないことなのに、なぜ視聴者は不倫報道に注意を向けて視聴してしまうのでしょうか。
この点について、私は、〝他人の失敗は自分の報酬″という脳の仕組みが関係していると考えています。
不倫の事実を日本中さらされて、メディアから叩かれている芸能人、言い換えると、人生における大失敗の絶頂にいる人を見ることで、〝他人の失敗は自分の報酬″という脳回路が動き、「この人やっちゃったな~」などと思いながら快感を感じるのです。
多くの人が快感という報酬に誘われて、不倫報道の番組をロックオンする→メディアは高い視聴率を獲得して番組スポンサーからお金を得る→メディアは次の不倫ネタを見つけ出して報道するというループになっています。
これは〝他人の失敗は自分の報酬″という人の脳の仕組みを利用したビジネスといえます。
他人の不幸は金になるのです。
人が最も学習するのは、他人の失敗を観察したときである
他人の失敗が自分の報酬になるもう一つの理由として、人は、他人の失敗を観察したときに最も高い学習能力を発揮する性質をもっていることが挙げられます。
外科医を対象にし、以下の3つのグループに分けて、新しい手術のテクニックを習わせるという実験を行った研究があります。
- 他人の成功を見て学んだグループ
- 自分の失敗を見直して学んだグループ
- 他人の失敗を見て学んだグループ
その結果、最も技術を習得したのは、「他人の失敗を見て学んだグループ」だったという結果になりました。
他人の失敗は、自分を成長させる最も有効な学習材料になるということです。
このことからも、〝他人の失敗は自分の報酬″になるのです。
汚い話ですが、自分が成功するために、まずは他人を先に歩かせて失敗させて、その失敗を観察し、その失敗から学ぶという手法が有効になります。
ビジネスでも、時代を先取りし過ぎても失敗する、先行者の屍がある程度出来上がってから参入するのが良いといわれることがあります。
他人の失敗を観察することによる学習効果が高いのはなぜか?
他人の失敗を観察することによる学習効果が高いのは、ポジティブな感情で学習できるからだと思います。
人は、他人の失敗を見ると、優越性を感じることができ、脳内から快楽物質であるドーパミンが分泌されます。
「ミスを犯したあいつより、ミスを犯していない自分の方が上だ!」という優越感と、他人の失敗を基に、成功ルートをイメージしたポジティブな感情で学習できるので、ポジティブ感情の拡張効果が発揮され、学習効果がぐんと高まります。
( ポジティブ感情の拡張効果 については、〝「脳科学は人格を変えられるか?」を読んで記憶に刻み込みたい部分をブログに書いてみた②″で解説しています)
逆に、「他人の成功を見て学んだ場合」と「自分の失敗を見直して学んだ場合」では、 自分の優越性を感じながら学習できないので、ポジティブ感情の拡張効果が発揮しにくくなります。
なので、「他人の成功を見て学んだ場合」と「自分の失敗を見直して学んだ場合」は、「他人の失敗を見て学んだ場合」に比べれば、学習効果が高まりにくいといえます。
(なお、この研究の話は、メンタリストDaiGoさんのニコニコチャンネル‶ 【Live】常識破りの成功法則〜他人の失敗見まくり、情熱を趣味に注げば成功する″で解説されていたものです)
まとめ
‶他人の失敗は自分の報酬である″という事実は、道徳的な観点からいえば、不謹慎で汚い心の動きだというネガティブな評価を受けるかもしれません。
しかし、これは事実なので目を背けてはいけません。
‶他人の失敗は自分の報酬“ という事実があることを分かった上で、人に誠実に接することができると良いと思います。
そして、他人の失敗をたくさん集めて、他人から多くを学ばせてもらいましょう。
そうすることで、人生がより良くなる行動を積み重ねていけるはずです。