不能犯とは?
不能犯とは、
犯罪の実行行為と見られるような行為をしたが、その行為では、犯罪行為を実現する可能性(危険性)がなかったために、犯罪結果が発生しなかった場合
をいいます。
たとえば、夫に早く死んでほしいと思っている妻が、夫を殺すために、道端に生えている雑草を入れた料理を夫に食べさせたとしても、この行為では、殺人罪を実現する可能性がないので、不能犯となります。
犯罪行為の実行があったといえるためには、その行為が犯罪を実現できる性質のものでなければなりません。
犯罪の実現が客観的に不能な行為は、犯罪の実行があったとはいえません。
判例
実際に、どういうときに不能犯が成立するかは、個別の具体的事案ごとに判断することになります。
その判断基準は、判例を基準にして理解するのが良いと思うので、判例を紹介します。
不能犯の成立を認めた判例
東京高等裁判所 判決(昭和29年6月16日)
事件の内容
構造上の欠陥により、通常の方法では爆発しない手りゅう弾を、殺意も持って投げた事案
判決の内容
裁判官は、
『点火雷管と導火線の結合が悪いなど、手りゅう弾本来の性能を欠いており、爆発しない手りゅう弾を通常の方法で投てきしただけでは、爆発物の使用にあたらない』
と判示しました。
結論として、上記の行為は不能犯であるとし、殺人罪(殺人未遂罪)と爆発物使用の罪(爆発物取締罰則1条)の成立を否定しました。
なお、殺人未遂罪と爆発物使用の罪の成立は否定されましたが、爆発物所持の罪(爆発物取締罰則3条)で犯人は処罰されています。
不能犯の成立を否定した判例
事件の内容
殺人の目的で、静脈内に致死量以下の空気を注射した事案
判決の内容
裁判官は、
『殺人の目的で静脈内に空気を注射したときは、空気の量が致死量以下であっても、その行為は不能犯とはいえない』
と判示しました。
不能犯であるとして殺人罪の成立を否定しませんでした。
殺人未遂罪が成立するとしました。
事件の内容
すでに銃で撃たれて死亡している被害者に対し、被害者はまだ生きていると信じ、一般人も被害者の死亡を知り得ない状況において、殺意をもって日本刀で被害者の胸部を突き刺した事案
判決の内容
裁判官は、
『被害者の生死については専門家の間においても生死の限界が微妙な案件であるから、単に被告人が被害者の生存を信じていたというだけでなく、一般人もその死亡を知り得なあったであろう場合において、被告人の加害行為の寸前に被害者が死亡していたとしても、行為の性質上、結果発生の危険がないとはいえないから、被告人の行為は殺人の不能犯と解すべきでなく、その未遂罪をもって論ずるのが相当である』
と判示しました。
結論として、不能犯であるとして殺人罪の成立を否定せず、殺人未遂罪が成立するとしました。
まとめ
以上で不能犯の解説は終わりです。
また次の記事でお会いしましょう。