刑法(強制性交等・強制わいせつ致死傷罪)

強制性交等・強制わいせつ致死傷罪(7) ~「本罪の罪数(強制性交を行うとともに被害者を殺害した場合は、強制性交等致傷罪と殺人罪が成立し、両罪は観念的競合になるなど)」を判例で解説~

罪数

 強制性交等致傷罪、強制わいせつ致傷罪(刑法181条)の罪数の考え方について参考となる判例を紹介します。

傷害が強制性交・強制わいせつとは別個に行われた暴行によって生じたと認められる場合は、強制性交等致傷罪ではなく、強制性交等罪と傷害罪が成立する

 傷害が強制性交・強制わいせつという犯罪行為の遂行の過程で生じたと認められる限り、強制性交等致傷罪又は強制わいせつ致傷罪(刑法181条)の一罪が成立します。

 しかし、傷害が強制性交・強制わいせつとは別個に行われた暴行によって生じたと認められる場合は、傷害罪が別個に成立し、制性交等罪と傷害罪の併合罪になります。

 強制性交等致傷罪ではなく、強制性交等罪と傷害罪の併合罪を認定した事例として、以下の判例があります。

大審院判決(大正15年5月14日)

 裁判官は、

  • 強姦行為を為すに当たり、被害者を傷つけたるときは、強姦致傷罪(現行法:強制性交等致傷罪)成立するも、強姦行為完了後、別個の独立行為により被害者を傷つけたるときは、後の傷害行為は単純なる傷害罪を構成するに過ぎざるものとす

と判示しました。

 この判決は、姦淫後、被害者に犯行を内密にするよう迫ったところ、被害者がこれに応じなかったので、暴行を加えて負傷させた事案です。

 本件の行為は、強姦行為完了後のことに属し、全然別個独立のものであることが明白であるから、強制性交等罪には関係なく、単純に傷害罪を構成するにすぎないとしたものです。

共犯者が数人いても、被害者が1名で、同一機会であれば共同正犯による1個の強姦致死傷罪が成立する

 共犯者が数人であっても、被害者が1名で、同一機会であれば共同正犯による1個の強姦致死傷罪が成立し、数個の強姦致死傷罪が成立するものではありません。

 参考となる判例として、以下のものがあります。

最高裁決定(昭和27年12月25日)

 被告人3名が共謀の上、女子を強制性交して傷害を負わせた事案で、裁判官は、

  • 致傷の結果が最初の姦淫行為者のみの行為によって生じたと認めなければならない経験則は存在しない
  • 姦淫行為は被告人ら各自の姦淫行為であるけれども、よって生じた致傷の結果は被告人ら中の何者かが被害者の処女膜に裂傷を与えたという単一の傷害の結果を発生させたことに帰するものであって、被告人ら3名各自の行為による3個の傷害でないこと明白である
  • しかるに、原判決は3個の強姦致傷罪(現行法:強制性交等致傷罪)成立し、被告人3名各自が3個の併合罪の責を負うべきものと解したのは失当である

と判示し、3個の強制性交等致傷罪が成立するのではなく、被告人3名の共同正犯による1個の強制性交等致傷罪が成立するとしました。

強制性交・強制わいせつを行うとともに、被害者を殺害した場合は、強制性交等致傷罪又は強制わいせつ致傷罪と殺人罪が成立し、両罪は観念的競合になる

 強制性交等致傷罪、強制わいせつ致傷罪は、致死傷の結果について予見していた場合を排除するものではないので、行為者が殺意をもって被害者を死に致したときは、強制性交等致傷罪又は強制わいせつ致傷罪と殺人罪とが成立し、両者の関係は観念的競合となります。

 参考となる判例として以下のものがあります。

最高裁判決(昭和31年10月25日)

 強制性交を行うともに、被害者を殺害した事案で、裁判官は、

  • 強姦致死(現行法:強制性交等致死)の点につき刑法181条177条を、殺人の点につき同法199条を適用し、両者は同法54条1項前段の1個の行為にして数個の罪名に触れる場合であるとして、同法10条に基づき、重い殺人罪の刑によって処断すべきである

と判示しました。

東京高裁判決(昭和40年6月25日)

 裁判官は、

  • 婦女に対して強制わいせつ行為をなした者に、被害者に対する殺意があった場合には、強制わいせつ致死罪のほか、更に殺人罪が成立すると解すべきである
  • 原判決が原判示事実を認定したうえ、強制猥褻致死の点につき刑法第181条第176条後段、殺人の点につき同法第199条を各適用し、同法第54条第1項前段第10条により重い殺人罪の刑に従って処断したのは相当である

と判示しました。

強制性交の目的で暴行を加え、女子を死亡させた直後に強制性交した場合は、強制性交等致死罪の一罪が成立する

 女子を強制性交する目的で暴行を加え、その女子を死亡させ、その直後に強制性交したときは、強制性交行為が女子の死亡後であってもこれを包括して強姦致死罪と解すべきであるとした以下の判例があります。

最高裁判決(昭和36年8月17日)

 裁判官は、

  • 姦淫の目的のため、その手段として暴行脅迫を用い、結局、被害者を窒息死に至らしめ、姦淫の目的を遂げたという趣旨を認定しているのであって、本件の場合は、姦淫行為が殺害の直後であったとしても、これを包括して強姦致死罪(現行法:強制性交等致死罪)と解すべきである

と判示しました。

強制わいせつ行為と強制性交行為とが競合し、強制わいせつ行為と強制性交行為のどちらによって致死傷の結果が生じたか不明の場合は、強制わいせつ罪及び強制性交等罪の包括一罪が成立する

 強制わいせつ行為と強制性交行為とが競合し、強制わいせつ行為と強制性交行為のどちらによって致死傷の結果が生じたか不明の場合は、強制わいせつ罪及び強制性交等罪の包括一罪となり、包括して刑法181条の罪の成立が認められます。

 この点について判示した以下の判例があります。

岐阜地裁判決(昭和46年3月11日)

 この判例で、裁判官は、

  • 強制わいせつ、強姦(現行法:強制性交)につき、強制わいせつに引き続き強姦未遂(強制性交等未遂)が行われ、傷害の結果が生じたが、傷害が強姦の着手の前後いずれの暴行によって生じたか不明の場合において、強制わいせつ及び強姦未遂(強制性交等未遂)の包括一罪の結果として刑法181条の致傷罪の構成要件に1回該当する行為が行われたとみるべきである

として、傷害・強制わいせつ・強姦未遂の三罪が成立するとする弁護人の主張を退けました。

 裁判官は、判決理由として、

  • 思うに強制わいせつと強姦未遂とは、かつて連続犯の成立が認められたように、罪質、被害法益を共通にするものである
  • 本件のように、これらとそれに随伴してなされた傷害行為とが、その被害者を同一にして、場所的、時間的に近接し、かつ連続してなされた場合であって、その傷害の発生が強姦の着手時点の前後いずれの暴行によって生じたか不明な場合には、弁護人主張の如く、右三罪の併合罪の成立、あるいは検察官主張の如く、強姦致傷が強制わいせつを、また強制わいせつ致傷が強姦未遂を吸収して一罪になると見るべきでなく、強制わいせつ及び強姦未遂の包括一罪の結果として、刑法181条の致傷罪の構成要件に1回(当初から強姦の犯意が存した場合との権衡上、)該当する犯罪が行なわれたものと見るベきであると考える

と述べています。

被害者の同伴者に傷害を加え、被害者を強制性交した場合は、傷害罪と強制性交等致傷罪の併合罪が成立する

 同伴中の男女のうち、まず男性に対して暴行を加えて傷害を与え、これにより女性を畏怖させて強制性交し傷害を与えた場合に、傷害と強制性交等致傷罪の併合罪と解した以下の判例があります。

名古屋高裁判決(昭和32年2月11日)

 この判例は、女性を畏怖させる目的で同伴の男性に暴行を加えて傷害を負わせ、次いで畏怖した女性を強姦して傷害を負わせた場合であっても、傷害と強姦致傷は一個の行為とはいえず、両者は観念的競合ではなく、併合罪の関係になるとしました。

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