犯罪行為を行っても、責任能力と責任条件がなければ犯罪は成立せず、無罪となります。
責任能力とは、『善悪を判断する能力』をいいます。
責任条件とは、『故意』、『過失』、『適法行為をする期待可能性』をいいます。
今回は、責任条件のうち、『故意』について詳しく解説します。
故意とは?
故意とは、
犯罪を犯す意志
のことをいいます(刑法38条1項)。
故意の成立要件
故意(犯罪を犯す意志)を認めるためには、犯罪事実の実現を認識していることが必要になります。
犯罪事実を認識し、「犯罪は犯すべきではない」という規範意識に直面したにもかかわらず、犯罪行為に及ぶところに非難される点が生まれるのです。
以下で詳しく説明します。
犯罪事実の認識
故意(犯罪を犯す意志)があるというためには、まずは、
犯罪事実の認識
が必要になります。
たとえば、コンビニで売られているパンをこっそりバッグに入れて、お金を払わずに店を出れば、窃盗罪になります。
窃盗罪になることを認識しているのに、それでもなお窃盗罪に及んだ場合、故意(犯罪を犯す意志)があったと認めることができます。
犯罪事実の容認
犯罪事実は、どの程度認識していればよいのでしょうか?
犯罪事実を完璧に認識していなければいけないのでしょうか?
もちろん、そんなことはありません。
犯罪事実の認識は、
容認で足りる
とされています(容認説)。
具体的に、犯罪事実を容認する状態とは、
犯罪の実現を積極的に意欲していなくても、犯罪が実現しても構わないと容認する状態
をいいます。
犯罪事実を認識して、犯罪の実現を積極的に意図した場合は、当然に故意が認められます。
(ちなみに、これを「確定的故意」といいます)
この域に至らなくても、少なくとも犯罪事実が実現しても構わないと容認しているだけでも、故意を認めることができます。
(ちなにみ、これを「不確定的故意」といいます)
故意の種類
確定的故意と不確定的故意
故意は、
確定的故意 と 不確定的故意
に分けることができます。
確定的故意とは、
犯罪事実の実現を確定的なものとして認識・容認している場合の故意
のことをいいます。
たとえば、Aを殺すつもりで、Aをナイフで刺した場合は、確定的故意があったと認めることができます。
不確定的故意とは、
犯罪事実の実現を不確定ながらも認識・容認していた場合の故意
のことをいいます。
たとえば、Aが死ぬかもしれないと思いながらAを木刀で殴り、結果、Aを殺してしまった場合は、不確定的故意があったと認めることができます。
不確定的故意の種類
不確定的故意は、
- 択一的故意
- 包括的故意
- 未必の故意
- 条件付きの故意
の4つに分けられます。
択一的故意とは?
択一的故意とは、
2つの客体(被害者)のどちらかに犯罪結果が生じるかは確定的であるが、どちらの客体に結果が生じるかは不確定な場合の故意
をいいます。
たとえば、AとBのどちらかを殺すつもりで、拳銃を発砲したが、AとBのどちらに命中するかは不確実であった状況がこれにあたります。
「Aを殺す」、「Bを殺す」という2個の結果のうち、どちらか一方の実現を認識・容認したが、どちらが実現するかは不確実であった場合の故意が択一的故意です。
包括的故意とは?
包括的故意とは、
一定範囲内のどれかの客体(被害者)に犯罪結果が生じることは確定的であるが、その個数や客体が不確定な場合の故意
をいいます。
たとえば、「誰かが死ねばいい」と思って、群衆に向かって拳銃を発砲した場合の故意が包括的故意にあたります。
一定範囲内にいる客体のどれかに結果が発生することを認識・容認していた場合が包括的故意となります。
判例
包括的故意の判例として、最高裁決定(平成2年2月9日)があります。
事件の内容
被告人が、覚せい剤を含む違法な薬物を密輸した事件
判決の内容
裁判官
『被告人は、密輸した薬物が、覚せい剤を含む有害で違法な薬物類であるとの認識があったというのであるから、覚せい剤かもしれないし、その他の違法な薬物かもしれないとの認識はあった。』
『だから、覚せい剤輸入罪、同所持罪の故意に欠けるところはない。』
判決内容の解説
被告人は、覚せい剤であるとの認識がなくても、覚せい剤を含む違法な薬物であるとの認識があったわけです。
それを考慮し、裁判所は、覚せい剤輸入罪、同所持罪の故意を認めるにあたっては、包括的故意の考え方をとり、覚せい剤を含む違法な薬物類であるとの認識があれば足りると判示しました。
未必の故意とは?
未必の故意とは、
犯罪結果の発生を確実なものとして認識・容認していないが、犯罪結果が発生しても構わないと考え、犯罪結果を発生させることが可能なものとして認識・容認している場合の故意
をいいます。
たとえば、相手にバカにされて頭にきたので、相手を木刀で殴った場合に、「相手は死ぬかもしれないが、それでも構わない」と思っていたのなら、殺人の未必の故意が認められ、殺人罪が成立することになります。
条件付き故意とは?
条件付き故意とは、
犯罪の遂行を一定の事態の発生にかからせていた場合の故意
をいいます。
たとえば、仲間と共謀して、共謀した仲間に人を殺させた場合は、殺人の条件付き故意が認められます。
この場合、
殺人を計画する➡仲間に人を殺させる➡殺人が実現する
という流れになりますが、「仲間に人を殺させる」という条件(一定の事態の発生)が発動したときに、殺人を実現することができます。
なので、自分は実際に殺人行為をしていなくても、仲間と共謀して、仲間に人を殺させれば、殺人の故意(条件付き故意)が認められ、殺人罪で処罰されます。
判例
条件付き故意の判例として、最高裁判例(昭和59年3月6日)があります。
事件の内容
共謀による殺人事件
判決の内容
裁判官
『共謀の内容において、被害者の殺害を一定の事態の発生にかからせており、犯意自体が未必的なものであったとしても、実行行為の意思が確定的であったときは、いわゆる共謀共同正犯者としての殺人の故意の成立に欠けるところはない。』
解説
殺人行為に関与していなくても、仲間と殺人計画をねり、仲間に殺人を遂行させるなどの共謀があれば、一定の事態の発生(仲間が殺人行為をしてくれること)にかからせて、殺人行為を実行したということができ、殺人罪の故意が認められるというものです。
まとめ
今回の記事をまとめると以下のようになります。
■ 故意とは、犯罪を犯す意志である。
■ 故意がなければ、犯罪行為をしても、犯罪は成立しない。
■ 故意があるとするには、犯罪事実の認識が必要である。その認識は、容認で足りる。
■ 故意は、確定的故意と不確定的故意がある。
■ 不確定的故意は、
- 択一的故意
- 包括的故意
- 未必の故意
- 条件付きの故意
に分類される。
政治家の賄賂事件などで、「私はやっていない」「私は知らなかった」と頑固に犯行を否認する人がいます。
これは、裁判官に『犯罪行為はしたものの、故意はなかった』と認めさせれば、無罪を勝ち取れるためです。
政治家や元弁護士など、法律の知識がある人ほど、犯行を否認する傾向にあるように思います。
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