取調べとは?
取調べとは、
犯罪事件に関することについて,被疑者・参考人から供述を求める行為
をいいます。
なお、参考人とは、被疑者以外の者をいいます。
事件の被害者や目撃者などが参考人に当たります。
ニュースなどでは「事情聴取」という言葉が使われますが、刑法や刑事訴訟法上では「取調べ」という言葉を使います。
取調べを行うのは、捜査機関(検察官、検察事務官、司法警察職員)です。
捜査機関が取調べを行い、被疑者・被害者・参考人から聞いた内容は、「供述調書」という書面に記載して文書化します。
取調べの根拠法令
取調べは、刑訴法198条と223条に規定があります。
刑訴法198条は、被疑者に対する取調べのルールを規定した条文になります。
第198条(被疑者の出頭要求・取調べ)
1 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者の出頭を求め、これを取り調べることができる。ただしし、被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる。
2 前項の取調に際しては、被疑者に対し、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならない。
3 被疑者の供述は、これを調書に録取することができる。
4 前項の調書は、これを被疑者に閲覧させ、又は読み聞かせて、誤がないかどうかを問い、被疑者が増減変更の申立をしたときは、その供述を調書に記載しなければならない。
5 被疑者が、調書に誤のないことを申し立てたときは、これに署名押印することを求めることができる。但し、これを拒絶した場合は、この限りでない。
ひとまず、被疑者の取調べについては、刑訴法198条において、
- 出頭拒否権(1項)
- 取調べ拒否権(1項)
- 取調べ官による被疑者に対する供述拒否権(黙秘権)の告知義務(2項)
- 警察官や検察官が作成した供述調書の署名押印を拒否する権利(5項)
のルールが設けられていることを押さえておけばOKです。
刑訴法223条は、参考人(被害者、目撃者など)に対する取調べのルールを規定した条文になります。
刑訴法223条(第三者の任意出頭・取調べ・鑑定等の嘱託)
1 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者以外の者の出頭を求め、これを取り調べ、又はこれに鑑定、通訳若しくは翻訳を嘱託することができる。
2 第198条第1項但書及び第3項ないし第5項の規定は、前項の場合にこれを準用する。
参考人の場合は、
- 出頭拒否権
- 取調べ拒否権
- 警察官や検察官が作成した供述調書の署名押印を拒否する権利
があることは、被疑者の場合のルールと同じです。
しかし、取調べを行うに当たり、
- 調べ官による被疑者に対する供述拒否権(黙秘権)の告知義務
はない点が被疑者とは異なります。
「取調受任義務」、「出頭拒否権・取調べ拒否権」
逮捕・勾留されている被疑者は、取調受任義務がある
捜査機関から要請があれば、取調べを受けなければならない義務を
取調受任義務
といいます(刑訴法198条1項)。
逮捕・勾留されている被疑者には、取調受任義務があります。
逮捕・勾留されている被疑者は、身体を拘束されているので、強制で取調べの場に連れ出され、取調べを受けることになります。
ちなみに、強制で取調べの場に連れ出され、取調べを受けることになるものの、被疑者には、
供述拒否権(黙秘権)
という話をしなくてもいいという権利があるので、取調べの場において、「黙秘します」と言って、ずっと黙っていることができます(憲法38条)。
捜査機関は、逮捕・勾留されている被疑者に対し、取調受任義務があることを理由に、強制的に取調べの場に連行することはできますが、被疑者には、供述拒否権があることから、供述を強要することはできないのです。
ただ、黙秘することは、
「私は人に言えないようなやましいことをしています」
と言っているようなものであり、犯罪の嫌疑が強まるので、黙秘はせずに正直に話をした方が良いでしょう。
逮捕・勾留されている被疑者に対し、余罪の取調べをすることは認められる
逮捕・勾留されている被疑者に対し、逮捕・勾留の犯罪事実ではない、余罪の犯罪事実ついて取調べをすることは認められています。
逮捕・勾留されていない余罪の取調べについては、被疑者に取調受任義務はないで、「余罪の取調べを受けたくない」と言って取調べを拒否することができます。
(ただし、取調べを拒否すると、余罪の犯罪事実でも逮捕・勾留される可能性があるので注意が必要です。)
とはいえ、被疑者に「余罪の取調べを受けます」という意思があれば、逮捕・勾留の犯罪事実ではない、余罪の犯罪事実ついて取調べをすることができます。
この点ついては、大阪高裁判例(昭和47年7月17日)があり、裁判官は、
- 既に適法になされている被疑者の逮捕勾留中に、当該逮捕勾留の基礎となった被疑事実以外の事実について被疑者を取調べることは、一般的に禁止されるところではない
- また、これら取調べをしようとする事実ごとに、あらたに裁判所の許可を得なければ取調べをすることができないものでもない
- 逮捕勾留の基礎となった事実について逮捕勾留の理由及び必要が存続している間に、この事実の取調べに附随し、これと並行して他の事実について被疑者を取調べる限り、令状主義に反するものということはできない
と判示し、逮捕・勾留中の被疑者の余罪の取調べを認めています。
ただし、この判例において、捜査機関が余罪の犯罪事実の取調べをする目的で、別の犯罪事実で被疑者を逮捕・勾留して取調べを行うことは違法と判断しています。
裁判官は、
- ただ当初から当該逮捕勾留の基礎となった事実について取調べる意図がなく、あるいは簡単にその事実の取調べを終わった後、もっぱらいまだ被疑者との結びつきについての資料のない本来の狙いとする他の事実について被疑者を取調べて自供を得る目的をもって、前者の事実について被疑者を逮捕勾留し、その拘禁中に後者の事実について被疑者を取調べることは令状主義を潜脱し、被疑者の拘禁をもっぱら自白獲得の手段とする違法な捜査である
と判示しています。
逮捕・勾留されていない被疑者については取調受任義務はない
逮捕・勾留されていない被疑者については、取調受任義務はありません。
これは、逮捕・勾留されていない被疑者は、
警察署や検察庁への出頭を拒否する権利(出頭拒否権利)
取調べを拒否する権利(取調べ拒否権)
を持っているためです。
根拠法令は、刑訴法198条Ⅰのただし書きにあり、
『被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる』
と規定されています。
逮捕・勾留されていない被疑者であれば、捜査機関からの取調べ要請に対し、権利として、警察署や検察庁への出頭を拒み、また、出頭したとしても、いつでも退去することができます。
しかしながら、「取調べを受けなくていい」というルールにしてしまえば、検察官が犯罪を立証できず、裁判において犯人を処罰できなくなり、社会の平和が守られません。
そうならないために、法は、以下のようなルールを設けています。
被疑者は、正当な理由なく出頭や取調べを拒否すると逮捕される
被疑者について、取調受任義務はないからと言って、警察や検察庁の出頭要請を無視するなどし、正当な理由なく、出頭や取調べを拒否すると、
逮捕
されます。
逮捕され、身体を拘束されることにより、取調受任義務がある状態になり、強制で取調べの場に引きずり出されます。
出頭拒否や取調べ拒否で、逮捕されることの根拠法令は、刑訴法199条Ⅰにあり、
『検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる。ただし、30万円以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪については、被疑者が定まつた住居を有しない場合又は正当な理由がなく前条の規定による出頭の求めに応じない場合に限る。』
と規定さています。
『出頭や取調べを拒否する➡逮捕する』という法律の設計にすることで、被疑者の取調べが確実にできるようにしているのです。
もし、あなたが被疑者になった場合、「めんどくさいから、出頭や取調べを無視しよ~」と考えてはいけません。
出頭や取調べを無視すれば、逮捕される可能性があります。
参考人は、正当な理由なく出頭や取調べを拒否すると勾引される可能性がある
被疑者は、正当な理由なく出頭や取調べを拒否すると逮捕されることが分かりました。
次にこれから、犯罪被害に遭った被害者や、犯罪を犯したわけではない事件の目撃者などの参考人が、正当な理由なく、出頭と取調べを拒否した場合、どうなるかを説明していきます。
法は、刑訴法は223条1項において、参考人を取調べることができる規定を置いています。
そして、223条2項で、取調べを受ける参考人は、
- 出頭を拒み(出頭拒否権)、または出頭後、いつでも退去できること(取調べ拒否権)
- 警察官や検察官などが供述調書を作成しても、供述調書への署名・押印を拒否できること
など、被疑者の取調べの場合と同じ権利があることを規定しています。
刑訴法223条(第三者の任意出頭・取調べ・鑑定等の嘱託)
1 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者以外の者の出頭を求め、これを取り調べ、又はこれに鑑定、通訳若しくは翻訳を嘱託することができる。
2 第198条第1項但書及び第3項乃至第5項の規定は、前項の場合にこれを準用する。
参考人にも、出頭拒否権と取調べ拒否権があることが分かりました。
もし、ここで参考人の供述が、犯罪の証明に欠かせない重要な証拠になるにもかからず、参考人が出頭や取調べを拒否してしまったら、どうなるでしょう?
そうなれば、検察官は、裁判において、犯人の有罪を証明することができずに犯人は無罪になり、なんのおとがめもなく、社会に戻されることになり、社会の平和が守られない結果になります。
そうならないために、法は、刑訴226条において、出頭や取調べを拒否する被害者・参考人を勾引して(強制的に裁判所に連れて行き)、証人尋問ができるとする規定を置いています。
この証人尋問を
第1回公判期日前の証人尋問
といいます。
第226条(公判前の証人尋問請求)
犯罪の捜査に欠くことのできない知識を有すると明らかに認められる者が、第223条第1項の規定による取調に対して、出頭又は供述を拒んだ場合には、第1回の公判期日前(※起訴した犯人の1回目の裁判前)に限り、検察官は、裁判官にその者の証人尋問を請求することができる。
刑訴法226条の意味は、参考人が、警察や検察庁からの取調べ要請に応じなかった場合には、 参考人を裁判所に召喚し(呼び出し)、裁判官と検察官の面前で、事件のことについて供述を求める(証人尋問をする)ことができるということです。
しかも、参考人が証人尋問に応じない場合は、以下の刑訴法150~151条のとおり、
- 10万円以下の過料を科す
- 不出頭罪の罪に問い、30万円以下の罰金または拘留の刑罰を科す
- 「勾引」という、手錠をかけて身体を拘束し、強制的に裁判所に連れて行き、証人尋問を行う
という強制手段が法律のルールとして用意されています。
第150条(出頭義務違反と過料・費用賠償)
1 召喚を受けた証人が正当な理由がなく出頭しないときは、決定で、10万円以下の過料に処し、かつ、出頭しないために生じた費用の賠償を命ずることができる。
2 前項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。
第151条 (不出頭罪)
1 証人として召喚を受け正当な理由がなく出頭しない者は、30万円以下の罰金又は拘留に処する。
2 前項の罪を犯した者には、情状により、罰金及び拘留を併科することができる。
第152条(不出頭証人に対する再召喚・勾引)
召喚に応じない証人に対しては、更にこれを召喚し、又はこれを勾引することができる。
つまり、参考人でも、警察や検察庁からの取調べの要請に応じない場合は、被疑者のように逮捕されることはありませんが、勾引という強制手段を用いられ、証人尋問という裁判官や検察官から事件のことについての供述を求められる場に連れ出されることになります。
とはいえ、参考人は、特別にやましいことをやっていなければ、善良な一般人です。
なので、現実的には、警察や検察庁からの取調べの要請に応じなかったからといって、勾引されたり、罰則を受けるということは、ほとんどないと考えられます。
「取調べとは?」の記事一覧
取調べとは?① ~「取調べの根拠法令」「取調受任義務」「出頭拒否権・取調べ拒否権」「出頭・取調べを拒否した場合の逮捕・勾引」「第1回公判期日前の証人尋問」を解説~
取調べとは?② ~「供述拒否権(黙秘権)と何か・デメリット・法的根拠・告知義務・不告知と供述の任意性問題」を判例などで解説~
取調べとは?③ ~「供述の任意性」「任意性のない供述調書の証拠能力の否定」「取調べの方法」を解説~
取調べとは?④ ~「被告人の取調べの適法性」「被告人の供述調書の証拠能力」を判例で解説~
取調べとは?⑤ ~「供述調書の作成目的・作成方法」「署名・押印のない供述調書の証拠能力」を判例などで解説~