法律(刑事訴訟法)

取調べとは?③ ~「供述の任意性」「任意性のない供述調書の証拠能力の否定」「取調べの方法」を解説~

取調べにおける被疑者供述の任意性

 取調べにおいて、被疑者の供述は、

任意

にされる必要があります。

 供述が任意にされる状態とは、取調べ官から、被疑者が、

  • 供述を強要されていないこと
  • 強制、拷問、脅迫を用いられた上で、供述を求められていないこと
  • 不当に長く抑留拘禁された上で、供述を求められていないこと

をいいます。

 根拠法令は、憲法38条Ⅰ・Ⅱにあり、

  1. 何人も、自己に不利益な供述を強要されない
  2. 強制、拷問もしくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない

と規定されています。

任意性のない供述調書は、証拠能力が否定される

 取調べが行われると、取調べ官は、取調べで聞いた内容を供述調書という書面にまとめます。

 もし、裁判において、裁判官が、取調べ官が作成した供述調書に書かれている被疑者の供述が、

被疑者が任意にした供述ではない(任意性がない)

と判断した場合は、その供述調書の

証拠能力が否定

されます(憲法38条Ⅱ刑訴法319条Ⅰ)。

 証拠能力が否定されるとは、

犯罪事実を認定するための証拠とすることができない

という意味です。

 供述調書の証拠能力が否定されたために、犯罪事実を証明する証拠がなくなり、殺人犯などの凶悪犯罪者が無罪になって社会に戻されるということも起こり得ます。

 なので、犯罪者をきちんと処罰し、社会に平穏を保つためにも、被疑者の供述は任意になされ、供述の任意性がある供述調書が作成されなければならないのです。

被疑者供述の任意性の確保

 上記のとおり、取調べにおいて、被疑者供述の任意性が確保される必要があります。

 そこで、被疑者供述の任意性が確保されるように、犯罪捜査規範168条において、被疑者供述の任意性を確保するための取調べ方法が規定されています。

犯罪捜査規範168条(任意性の確保)では、

  1. 取調べを行うに当たっては、強制、拷問、脅迫その他供述の任意性について疑念をいだかれるような方法を用いてはならない
  2. 取調べを行うに当たっては、自己が期待し、又は希望する供述を相手方に示唆する等の方法により、みだりに供述を誘導し、供述の代償として利益を供与すべきことを約束し、その他供述の真実性を失わせるおそれのある方法を用いてはならない
  3. 取調べは、やむを得ない理由がある場合のほか、深夜に又は長時間にわたり行うことを避けなければならない。この場合において、午後10時から午前5時までの間に、又は一日につき8時間を超えて、被疑者の取調べを行うときは、警察本部長又は警察署長の承認を受けなければならない

と規定し、警察官が、被疑者供述の任意性を確保しながら取調べを行うためのルールが示されています。

取調べの方法

 犯罪捜査規範168条(任意性の確保)のほか、取調べの方法については、犯罪捜査規範166、167、172条にも記載があります。

取調べは、真実の発見を目標として行われる

 犯罪捜査規範166条(取調べの心構え)では、

  • 取調べに当たっては、予断を排し、被疑者その他関係者の供述、弁解等の内容のみにとらわれることなく、あくまで真実の発見を目標として行わなければならない

と規定しています。

 「予断を排除する」とは、偏見や固定観念を排除して取調べに臨まなければならないという意味です。

 取調べは、「真実の発見を目標」とするので、被疑者の供述を鵜呑みにせず、他の人の供述や、供述によらない証拠(防犯カメラ映像など)を考慮した上で、取調べを行わなければなりません。

 特に、人は、正当化バイアスという

  • 自分を正当化したい
  • 自分を良く見せたい(悪く見せたくない)

と本能で欲する心理作用を持っているので、犯罪を犯し、刑事処罰を受ける立場にいる被疑者は、少しでも自分を良く見せ、罪を軽くしようとするため、嘘をつく可能性が高いです。

 なので、取調べは、

  • 被疑者の虚偽の供述を排除し
  • 被疑者の嘘を追求し
  • 真実の発見を目指す

ものである必要があります。

取調べは、被疑者の有利、不利に偏らないニュートラルな姿勢で行われる

 また、取調べは、被疑者の有利、不利に偏らないニュートラルな姿勢で行われる必要があります。

 取調べは、真実の発見を目指し、マイナスに評価する点のほか、プラスに評価する点も含めて被疑者から話を聞き出し、犯罪の全容を解明するために行われるものです。

 被疑者から、犯罪を犯したといった被疑者の不利な点のみを追求して聞くのではなく、犯罪を犯すに至ってしまった被疑者の不遇な環境など、被疑者に有利な点もきちんと聞き出される必要があります。

取調べにおける留意事項

 犯罪捜査規範167条(取調べにおける留意事項)では、

  1. 取調べを行うに当たっては、被疑者の動静に注意を払い、被疑者の逃亡及び自殺その他の事故を防止するように注意しなければならない。
  2. 取調べを行うに当たっては、事前に相手方の年令、性別、境遇、性格等を把握するように努めなければならない。
  3. 取調べに当たっては、冷静を保ち、感情にはしることなく、被疑者の利益となるべき事情をも明らかにするように努めなければならない。
  4. 取調べに当たっては、言動に注意し、相手方の年令、性別、境遇、性格等に応じ、その者にふさわしい取扱いをする等その心情を理解して行わなければならない。
  5. 警察官は、常に相手方の特性に応じた取調べ方法の習得に努め、取調べに当たっては、その者の特性に応じた方法を用いるようにしなければならない。

と規定し、取調べ官の被疑者に対する接し方の心構えを規定しています。

病気中の被疑者の取調べは、家族・医師の立会が必要

 犯罪捜査規範172条(臨床の取調べ)は、

  • 相手方の現在する場所で臨床の取調べを行うに当たっては、相手方の健康状態に十分の考慮を払うことはもちろん、捜査に重大な支障のない限り、家族、医師その他適当な者を立ち会わせるようにしなければならない

と規定し、病気中の被疑者の取調べは、家族や医師を立ち会わせるなど、相当の配慮が必要になります。

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